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 王都の宿の一階にある酒場。


 2つの丸テーブルを寄せ、サリアラーラを除く僕たち【虹色の翅】と【鷹の爪】で話し合っている。ドレクスラーから、王都冒険者ギルド本部の状態を聞いたところだ。


「そんな事に……全滅って、ここにいる皆も死んだことになってる?」

「そうなっていた、が正しいな。報告したから、訂正はされているだろうが、どっちにしろ本部はもう機能してねぇ」


 ギルマスの目も死んでたからな、なんて失礼な物言いをしているけれど、責任者としての立場だし、色々とあるんだろうね。王族が警告していたにもかかわらずの冒険者たちの行動だから、なんともし難い。自己責任とは言え、強制依頼でもあるし。


 つくづく王女の行動が不可解になってきたな。王権狙いだったのか?


 でも見事に第一、第二王子が消息不明だし、継承権第一位になったんだろうか……。背中がゾワッとするね。姉は知ってた上で「王都を出ろ」と? いや、直感か何かが働いたのかな? 昔から鋭い人だったからな……。知ってたら姉にも大きな罪がある。大きすぎる犠牲を前に、止めなかったんだから。


 ただし、王族があの魔法陣で魔族を呼び寄せ、スキルを奪い、弱体化させるのが目的だったのなら、罪には問えないだろうね。冒険者たちは体のいいエサにしかならなかったって事だ。魔族が中央に来るのを少しだけ足止めし、勇者に力をくれてやったってことか? それとも力を持つ勇者を呼び出すためのエネルギーに変えられたかのどちらかか……。いずれにしても警告はあったらしい。地下へは行くなと。ただし、逆に煽られた感じは否めない。


 何度同じ過ちを繰り返すつもりなんだろう?


 勇者召喚は言わば拉致と変わらない。どんなのが来たかは皆目見当もつかないけれど。望んでいる者ならさして問題もないかもしれない、だけど無理やり連れてこられる者のことなど、一切事情は考慮されないのだから。


 そしてそのための犠牲が大きすぎる。スキルやジョブで人生をほぼ決められてしまうような腐った世界で、その力を奪われるなんてたまったものではない。


「なんてこった」


「……ドレクたちはこれからどうするの?」


 僕たち以外誰もいない酒場で、肩を寄せ合い、縮こまる必要もないけれど、なんとなく小さく集まって小声で話さないといけない雰囲気に、少し嫌気が差してくる。


 ここが機能していない以上、所属のギルドを変える必要がある。僕たちは拠点がマサテュール領だから、きっとすぐに登録変更は可能だ。


「そうだなぁ、昨日の今日だしな。決めてねぇ」

「じゃ、サリアの様子をリーナに見てもらいたいから、一旦我が家へ来てもらっていい? もちろん、連れて行くけれど」


 リナフレアはうんうん頷いて、サリアラーラの看病をすることに好意的でいてくれた。仲間意識が芽生えている証拠かもしれない。一緒に戦ったからね。僕と【鷹の爪】の距離が近かったけれど、彼らもお互いの距離を縮めたのかもしれない。


 もうじき避難勧告が解除されるって話だ。各公爵領からお触れが出ると、一気に王都の活気が戻るんだろうね。今は閑散としすぎていて、状態のいい古代文明の遺跡みたいな感じにも見えるし。


「もちろん、それは構わん。最後まで俺達のために尽くしてくれた恩人でもあるしな。願ったり叶ったりってとこだ」

「ああ、そうだな」

「あの娘には頭が上がらないのよねぇ。まだ目が冷めないのかい?」


 頷きだけ返しておく。リリアリーリが心配気だからあんまり聞かないで欲しい。ゲルトレイルもさっきからそわそわしてるし。


 ライバーが宿へ引き払いの連絡を入れて、戻ってきたら帰ろう。



 -----



「「「おかえりなさいませ」」」


 ぞろぞろと転移で戻ってきたものの、お出迎えは8人でしっかりしてくれる。僕は慣れたものだけど、ゲルトレイルとリリアリーリは困惑が隠せないようだ。自分たちの家にいつの間にか住み込んでいる人たち。一体何者なんだろうといった感じ? うん、そうだよね。僕も逆の立場なら困惑したと思う。


「とりあえず応接室でいいかな? リリアはサリアを見てあげて。ずっと看病しててもいいけど、ちゃんと話し合いたいこともあるからね。後で来れるなら応接室に来て」

「うん」


 そう言うと彼女はすぐに姉の元へ駆け出していった。リナフレアも足取りこそ優雅だったけれど、サリアラーラの部屋へと消えて行く。簡単には説明したけれども、ゲルトレイルも理解が追いついていないみたいだ。致し方なし。


 各々が適当にソファに座る。家の者たちがテーブルを囲うようにソファをセットしてくれていた。


【虹色の翅】は僕と赤髪

【鷹の爪】は聖女を除く4人

【漆黒の翅】はサリアの世話で抜けている2人を除く6人。彼らは立ったままだ。


「俺達はしばらく王都に近づかないほうがいいかもしれん。少なくとも勇者のお披露目ってのが終わるまでは」

「死んだことになってた奴らが生きていて、スキル、ジョブも無事だったなんてのが王族の耳に入るってのも、良くはないな」

「冒険者ギルドが機能してないんなら、どっちにしろいても無駄だろぅ?」

「そうだけど、ランクA冒険者パーティーが活動の拠点移したってなったら騒ぎにならない?」

「そこは問題ねぇだろう。依頼でここに来てるってことにしときゃさ」


 パーティーとして長い彼らの話は面白い。決定していく上での指針や方針なんかが出されるとすぐに色々な反応があってまとまりを見せていく。反対しているようでいて皆の方向がどんどん合わさっていく感覚は見ているだけでも勉強になる。


「少し、提案なんだけどね」


 議論中の彼らの中を入ったらどうなるかな? 全員がこっちを見るタイミングを待った。


「マサテュール領をしばらく拠点にするなら、この家の二部屋使ってくれていいよ。宿代わりになるでしょ……サリアの様子を見て貰いたいっていうのが本音ではあるんだけどね? リーナのサリアに対する診察料をこの家の滞在費に当ててくれない? 足りないなら払うし」


 臨時パーティーとして一緒に戦ってきた仲間ではあるけれど、その期間は終わったから。リナフレアの好意に縋り続ける訳にはいかない。解決する問題とも思えないけれども。寝ているサリアラーラは食事を取れていないから、治癒によるサポートは欠かせないと思うんだ。ヒールで栄養が補給されるのかは甚だ疑問が残るのだけれどね。


 言われた【鷹の爪】の4人はポカンとしていたが、ライバーが我に返る。


「そりゃ、願ったり叶ったりだが……」

「宿にしちゃ高級過ぎる気もするけどねぇ……貴族の家だったんだろ?」


 エチュレーラの問いかけに、ニヤリと口端が上がった。


「今現在、貴族の家ではあるんだけどね」


【鷹の爪】とゲルトレイルに「?」の顔色が浮かぶ。全員揃ってから発表するつもりだったけど、サリアラーラが起きないんじゃ、いつまで経っても公開は難しい。


 しばらくしてリナフレアとリリアリーリが部屋に入ってきたタイミングで、クバイトさんにマサテュール公爵からの任命書を読んでもらった。



 ◇ ◇ ◇


 アレクセイ・ヴァレント

 貴殿をマサテュール公爵領・名誉伯爵に任ずる。


 アレクセイ・ヴァン・マグニアスを名乗る事を許す。


 印:ジョージ・レ・マサテュール公爵


 ◇ ◇ ◇



 とても短い任命書であることは見ての通りなんだけれど、羊皮紙で、装飾付きの貴重な紙が使われている。額に入れて飾っておかないとね、っていうレベルのものであることは間違いない。


 みんな口をパクパクしていた。


「今更だから、みんな僕に貴族として接するのやめてね。不敬罪にするから」

「いやいやいや、何が不敬罪になるかわからねぇよ!? それじゃよぉ」


 まぁ、「立場だけ」ってお墨付きももらってるし、大丈夫だよ。


 僕はもう一つの提案を掲げる。


 冒険者カードの裏面に、マグニアス伯爵のエムブレムを刻むやつ。アレを皆にも施しておこうってこと。なんにも裏はない。ただ、僕との繋がりを見せるだけだ。これが災いの種になるか、保護壁となるかはまだわからないけれど。


 エムブレムを刻む魔道具を、ジョージがくれたから、そのまま使うことにしたんだけどね。クレジットカードとか、ポイントカードの半分くらいの面積のカード型の魔道具で、なんと、かざして魔力を流すだけで対象物に焼き付けることができるんだって。人に焼き付けるのは無理みたいだけど。これができたら、奴隷紋みたいになってしまう。よかった、出来なくて。そんなおぞましいものいらない。


「アレクお貴族様のお墨付きってわけかい?」


 エチュレーラが可笑しそうに発言した。


「アレクお貴族って……」


 僕は、マグニアス伯爵認印カード(魔道具)を手でクルクル回しながら考えた。マサテュール公爵やフラクシス公爵が僕にこの印を入れてくれたのは、きっと打算ではないんだろうなってこと。それは【鷹の爪】や【虹色の翅】にこの印を入れることで感じる繋がりが嬉しく思うのもあるし、この印がきっとなんらかの理不尽から守ってくれるっていう保証をもって欲しいっていう願いがあるのかもしれない。


 二人の公爵の、僕を守ろうとしてくれたその優しさは、僕が彼らに印を渡そうとして初めて気付けたことだ。なんとなく疑ってた自分が恥ずかしくなる瞬間でもあった。なんだ、そうか。名前が利用できるなら利用して、身を守れるなら守ってほしい。


「というよりね、一人にされたのが寂しかったから、繋がりが欲しいんだよ」


 そう言うと彼らはなんとも言えない顔をした。号泣した事を思い出させてしまったかもしれない。墓穴……。


「なんとも弱々しいお墨付きだねぇ」


 女盗賊はそう由耶しながらも真っ先に自分のカードを僕に差し出してきた。いざって時に助けてもらうよ、なんて軽口を叩いているけれども、彼女もなんとなく嬉しそうにしてくれたのがわかった。


「ほれ」

「ん」

「はい」

「これもね」


 立て続けてカードが4枚並べられた。【鷹の爪】ってば、ほんと優しいね。うんと僕の権威を利用するといいよ。ランクAにはたして必要な時が来るのかは全くもってわからないけれど。


「アレク、わたしとお姉ちゃんのもね」

「俺も」


 リリアリーリが姉と自分のカード、ゲルトレイルが自分のを持ってきてくれた。


「よーし、みんなマグニアス・ファミリーだね」








 この小さな始まりの契約は、後の巨大クランの誕生に繋がることを誰もまだ知らない。







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