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「つくづく便利だよなぁ」


 意識あるうちに転移を初めて経験したリナフレア以外の【鷹の爪】のメンバー達は、王都へ飛んでからそう言い合っている。


 彼らとリリアリーリ、ゲルトレイルの7人を王都へ連れてきて、僕はすぐに帰る予定でいる。なんせ、王都から出された身だから、あまりここをうろつくことは出来ない。明日の同じ時間頃に迎えに行く約束をして彼らと別れた。


 冒険者ギルドへ報告に行く彼らを見送ってから、すぐに我が家へ戻る。


「「「おかえりなさいませ」」」


【漆黒】のうち4人が出迎えてくれる。他は食事の準備などで出払っているようだ。もちろん、出迎えてくれた彼らが暇だって意味ではないよ。これも彼らの仕事の内だから。


「サリアの様子はどう?」

「まだ、お目覚めでは……」

「そっか、引き続き頼むね」


 歩きながら、昨日帰ってきた皆のうち、一人目を覚まさないサリアラーラの様子を尋ねたら、お世話しているメリーヌとクワトが首を横に振った。


「あの……お兄様?」

「ん?」


 メリーヌがおずおずと僕の横に並んで歩調を合わせてくる。そして、綺麗な封筒を一つ両手で手渡してきた。


「これ、預かりものです。伯爵様のお使者の方が、お兄様にって……」

「ありがと」


 差出人はマグニアス伯爵だけど、マサテュール公爵の印が押してある。なんだろう……。


「これ、急ぎな感じだった?」

「はい、すぐに返事が欲しいそうです」


 頷いて足を早め部屋に直行した。


 なになに? マジか……。


 クバイトさんに設えてもらった正装の服に着替えて、即座に部屋をでる。部屋のドアのすぐ側に、ブライトが控えていた。


「肩はもういいの?」


 昨日、骨の剣で肩にガスっと当てられてたからなぁ。後遺症とかないといいけど。ブライトはにっこり応える。どうやら聖女の癒やしで完治したそうだ。ほっとしていると彼はとても嬉しそうだ。なんだろう?


「アレクにぃに心配してもらえるなんて」


 そりゃするでしょ。可愛いこと言ったブライトの頭をクシャクシャにしておいた。


「あれはやばかったな……。ブライト、スキルが無くなるなんて滅多に起きることじゃないと思うけど、基礎体力とか、筋肉とか付けといたほうがいいかもね。いざって時に最低限逃げる事ができるくらいには」


 思い出したのか、ブライトは深妙に顎を引いた。


「伯爵邸に行くから、誰か先触れに行ってくれるか、クバイトさんに確認しておいて」

「はい、すぐに」


 彼が駆けでしていく姿を横に捉えながら、僕はゆっくりエントランスに向かい、伯爵の依頼について考える。廊下は走っちゃいけません、なんて言う前にすでに彼の姿はない。


「お出かけですか」


 クバイトさん、あんた早すぎません? いや、流石だけどさ。


「伯爵邸に行ってきます」


 今度は7人で見送りに来てくれた【漆黒の翅】。ブライトだけは肩で息してるけれど、指摘するのは野暮って……? こうして見ると、彼ら執事と元孤児なんだよねぇ、感慨深い。今や執事、メイドとしてしっかり働いてるし。どうやら先触れにはリックが行ってくれたようだね。


 貴族の家に急ぎの用とは言え、「今から行きます」という連絡が必要なんだって。クバイトさんが教えてくれたから間違いない。ほんとは転移で行きたいけれど、そうもいかない、貴族事情。うん、めんどくさい。



 -----



「……というわけだ」


 どういうわけだよ!? って説明しますよ、はぁ。


 今、伯爵邸。


 僕、伯爵前。


 お互いソファーに対面。


 で、僕はマグニアス伯爵、改め、ジョージ・レ・マサテュール公爵におなりになった旧マグニアス伯爵から、一枚の用紙を手渡されているところ。


 これにサインしてしまえば、僕は貴族だ。


 マグ、じゃなかったマサテュール公爵の子飼いの貴族にどうぞって契約書を眺めているところなんだけれど、単なる貴族ではなく、名誉貴族になるそうだ。


 名誉貴族。


 これは8つある公爵家が、王家すら干渉不可の、自らの部下を持てる制度らしい。


 公爵家と言えど、国に仕えている以上は、王の言葉が絶対か? これは覆らない理かと言われれば、違うと。


 公爵家が知事で、伯爵家が市長、子爵家が町長、男爵家が村長のような帰属システムだから、誰かがポカすれば、上に波及する仕組みになっている。其上で、王族は各貴族に命令を出したり、裁判権を行使したりできる。


 だけど、公爵達の力がとても強く、あまりに締め付けが過ぎると、王家に対する態度が硬化する恐れもあるわけで。


 そんな貴族たちの矜持を少しでも守ったり、尊重することでこの国はとりあえず謀反や反乱を抑えているらしいんだって。そんなもんで反乱は抑えられないのは承知の上だそうだけど。まあ、気休めみたいなものらしい。一つの公爵家が反乱したところで7公爵家がそれに反対すれば、それで事態は収束してしまうくらいまとまりはあるそうだ。例えお互いを蹴落とそうとしていたとしても。


 各公爵家には8人の名誉貴族がいる。


 名誉伯爵1人。

 名誉子爵2人。

 名誉男爵5人。


 今までいた旧マサテュール公爵の名誉貴族は全て彼と共にこの世にいない。不正の多くを担っていたんだから仕方がないと言えば仕方がない。


 つまり、公爵次第で名誉貴族の生死も左右される場合があるということだ。


 そして僕に当てられた名誉貴族の位が伯爵。


 いやいやいや、ジョージ、頭大丈夫?


 名誉貴族につくセカンドネームは「・ヴァン・」これだけでは位を判断することは出来ないけれど、王家と関わりがない貴族という事が対外的にわかればそれでいいらしい。そこは公爵家の中で判断すればいいというずいぶん曖昧なところのようだ。それでいいのか、貴族。


 これが魔物掃討戦へ出かける前に言っていた公爵の考えだったという事だ。貴族の中にある抜け道。僕の能力に見合った権威、用意してくれた立場。


 公爵の采配次第で土地も持つことが可能だ。税金は国ではなく公爵家へ行くことになるけれど、この税金の何割かはやはり国に行くのだから公僕であることは変わらないらしい。土地を持つということはそれだけの責任もあるということだね。


 だけど、マグ、いやマサテュール……もうジョージでいいや。ジョージが用意してくれた名誉伯爵の権威は今の所、「立場だけ」ということみたい。いきなり僕に何かをさせたりすることはないんだって。


 どうするよ……。


 せっかくの好意だし。受けておいた方が何かと身の守りにはなりそうだよね? はぁ、こんな時に【虹色の翅】で相談会できたら良かったのに。サリアは昨日から起きないし、二人は王都だし。


 考えろ。


 あ、ちなみにこれ受けたら名前も当然変わるらしい。


【アレエクセイ・ヴァン・マグニアス伯爵】。ほんとは名誉伯爵。


 おお、なんかカッコいい。


 なんと言うか名前負けしてるけれど、「ヴァレント」の部分が「・ヴァン・」に変わるのって、なんとなく略した感じにも見えるし、違和感はあんまりないかな? ただ、「マグニアス」がなぁ……。この名前の重みったらない。この名前では悪さはできんよねぇ。する気はないけれど、ジョージの評判を落とさない自信もないし。


 ジョージが言うには「マグニアス」は事実上お取り潰し扱いになるんだとか。マサテュールの名を改名することは、ただでさえ王都が襲撃にあっているこの時期だ、ほんとうに難しいことらしい。宰相から申し訳ない、と頭を下げられたんだって。


 そこでジョージは名誉貴族のシステムによって「マグニアス」の名前を残そうと思ったそうだ。彼にはまだ子供がいないから、世襲することも叶わないんだと。


 ……というわけで、僕は任命書と睨めっこしている。


「はぁ、どうするよ、アレクセイ……貴族きらいなんだけどなぁ……」


「ヴァレント君。心の声がだだ漏れておるぞ」


 あ、やっべ。ちらっと前を向いたら、ジョージは苦笑いをしていたんだけど、目が合うと大きく笑った。



「大事な事だから、時間をぐっと取れればいいのだがな……少し急いで欲しい」


 マサテュール公爵は臨時で行われた8公爵会議に続く、王族会議での出来事を少しだけ教えてくれた。







「王都に3人の『勇者』が召喚された。もうじきお披露目があるかもしれん。なんでも、地下の魔族を殲滅したとかなんとか」




 僕は任命書にサインし、マサテュール公爵と契約を交わした。




お読みいただきありがとうございました。

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