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プロローグ
「真の名を唱えよ」
薄紫の髪をストレートに下ろしている少女は、自分に向けられた声に対してしっかりと向き合っている。手の平を上に向け両手を広げた。
途端にその両手から淡い光が灯る。
両手は伸ばしたままゆっくりゆっくり前にもってきた。
水を両手で受け取るような動作で、ピタリと手が合わさった時、光はふわりと彼女から離れて浮いてゆく。
「ジームス・エドウィル・リーバイン」
彼女の口から紡がれた呪文は、声の主の真の名。
声は光を吸収し、やがて人型を形成していく。
「サリアラーラ・コネット。我が契約者よ」
しっかりと人型に顕現した精霊は、自分の前に居る魔女を慈愛の表情と同情のこもった表情をないまぜにした顔で、つまりなんとも言えない顔で眺めた。
「いや、サリア。そなたは我との契約を違え、その内包する魔力を枯渇させた……」
彼女の顔は青ざめている。精霊に何を言われるのか見当がついているからだ。
契約違反。
精霊との契約において、契約は絶対だ。罰則はそれぞれが決めることになっているものの、違反には厳しい措置が取られる。
彼女たちはとてもめずらしい契約を行なっていた。
光の精霊が彼女に求めたものは、『魔力枯渇をしないこと』。
サリアラーラ・コネットが求めたものは、『友となること』。
それだけだった。
光の精霊は、精霊界において高位の存在。契約するには、人の側に負担が多すぎる。
だから、精霊ジームス・エドウィル・リーバインは誰とも契約を行うことはなかった。
彼女が現れるまでは。
森にいた彼女と妹。適性は彼女の方にあった。人との関わりを避け、二人で暮らす様子を精霊はつぶさに観察していた。殊の外、妹優先の女の子に興味を抱いた。
その強すぎる力で誰とも契約をしたことのない精霊は、自我を押し殺して生きている魔女の姿を自分と重ねた。
似ている。
そう思った。
邂逅はあっさりとやってくる。
彼女が自分に気づいたからだ。油断していたわけではない。見えるようにしていたわけでもない。サリアラーラは自然にこちらを向いてにっこり微笑んでいた。
膨大な魔力。
ハイレベルな魔法操作。
人格。
どれをとっても精霊好みだ。彼女の周りにはたくさんの精霊がふよふよついてきていた。でも、位階の低い精霊を彼女は認識していない。こちらにだけ気づいているようだった。
ふと、出会った頃の事を思い出した精霊は、彼女を見ながら二の句を告ぐか否か迷う。自分がこれほど興味を持っていたことに今更ながら驚いた。
契約解除は嫌だと、そう思っている自分にだ。
「契約違反により、我との契約はここまでだ」
ふつりと絆が断たれた。
皆を守るために使った魔力。
最後まで彼女は人のために尽くした。
高位精霊との契約を破ることになっても、選んだ道は、人を守る道。
精霊は驚きと畏敬の念さえ彼女に抱いた。
高潔な存在。
彼女の未来が報われることを望みながらも、それを最後まで見ることは叶わない。
せめて、彼女が目を覚ますまで。
彼女を守ろう。
消えかけた命の灯が尽きるその時まで。
お読みいただきありがとうございました。
精霊ピンポン:ジームス・エドウィル・リーバイン
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