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今章エピローグ

 


 サリアラーラが目を覚まさない。


 聖女の癒やしは成功したし、でき得る限りの状態解錠も施したのに。精霊ピンポンの姿もない。どこ行ったんだあいつは。


 サリアラーラの部屋で、僕は途方に暮れていた。【鍵】は万能ではないみたいだ。なんで? できることが本当に多いのに……。彼女の寝姿を見ながら、一向に目を覚まさない彼女の手を握っている。


「サリア、早く起きなよ……」


 返事はない。


 カチャリとドアの開く音を拾い、目を向けると、リリアリーリが桶の水を変えて戻ってきたところだった。


「アレク、ありがと。変わるよ」

「うん」


 席を開けてリリアリーリと場所を代わるべく手を離そうとしたら、わずかに力が入ったサリアラーラの手を感じた。


「サリア?」

「お姉ちゃん?」


 だけど、これ以上の変化はない。


 もうここへ帰ってきて3日経つ。どうしてサリアラーラだけ目を覚まさないんだよ……。




 ---3日前---




「帰ろうか……」


 僕は皆を指定して転移を開始した。見慣れた我が家のエントランスホールに戻ってくる。


【漆黒の翅】はその戦闘スタイルにあっても、我が家を見た瞬間に職業意識が戻ってきたようだ。全員がクバイトさんの指示を受ける前に自室に走っていった。クバイトさんを見ると苦笑している。こちらは変わりない。


「アレクさん、とりあえず着替えてきますので」

「はい、お願いしますね」


 心得ています、と言わんばかりのお辞儀が返されて僕もやっと帰ってきたっていう安堵感を身に染み渡らせることができてくる。クバイトさんに「アレクさん」と呼ばれたから、そう感じるのも早かったのかもしれない。流石は超執事クバイト・ショーンだなと思ったね。


「アレク……、ここは?」


 唯一起きている聖女リナフレアがポカンとしつつも問いかけてきた。そりゃそうか。いきなり転移したからびっくりもするよね。


「うん。僕たちのパーティーハウスだよ」

「広いですねぇ。いや大きいのかな?」


 普通の感想ありがとね。少し会話を続けていると、【漆黒の翅】の面々が執事服とメイド服に着替えてこの場に戻ってきた。並んで指示を待つ。


「とりあえず、応接室に運ぼうか?」

「「「はい」」」


「ああ、いいよ、転移させるから」


【漆黒】たちが手で運ぼうとしたから慌てて止める。そんな重労働させられない。ゆっくり起きている全員で応接室に向かう。ヨンザにはクバイトさんが来たら応接室にいることを伝えさせるためにエントランスへ戻るよう言っておいた。


 聖女は部屋に入ると、詠唱をすぐに開始する。


「……グランドヒール」


 リナフレアは、随分長い詠唱だと思っていたら、ヒールの何倍も威力のある上位種のヒールをかけてくれたようで、部屋全体に癒やしの効果がかかった。体が軽くなっていくのがよくわかる。温泉に入って「ああ~、癒やされるぅ」なんて言う気持ちがよくわかった。実際癒やされているわけだけれども。状態解錠はその状態を言わば『消す』行為だけど、ヒールは違うと思った。なんと言うか、心まで凪いでくるような? うーん、なんて表現すればいいんだろう。内から元気を与えてくれるような? そんな感じかな。


 癒やしっているなぁと強く思った。ヒーラーの適性があるメンバーを探すか、全員にその

 扉をこじ開けるかしよう。聖女がいなければ本当に全滅かもしれなかったし、あの状態では植物人間まっしぐらだったかも。


 気丈にしていた【漆黒】のみんなもどこかほっとしている様子だ。後でヨンザとクバイトさんにもヒールかけてもらえるようにリナフレアにお願いしておかないとね。思いの外僕たちにも疲労が溜まっているみたいだ。一番お年のクバイトさんには必要なことだね。リナフレアの疲労を解錠しておく。




 最初に目を覚ましたのは、【鷹の爪】のリーダー、ドレクスラー・バインだった。いきなりがばっと身を起こして目を見開く。


「……っ!?」


「やぁ、おはよう」


 気の抜けた挨拶って大事だと思うんだ。悲惨な目に遭って、目が覚めた時には特にね。一瞬忘れられるでしょ? 覚醒後の衝撃が少しでも和らいでくれると嬉しいし?


「アレクセイ、お前……今、どんな状況だ??」


 掻い摘んで説明しておく。ドレクスラーは皆が寝ている事を確認してから、浅いため息をついた。僕を見る。


「そうか……、またお前に助けられたのか」


 ドレクスラーは頭をガシガシ掻いてなんとなく申し訳無さそうだった。


「いや、ドレク。みんなを最後まで守ってくれてたの、よく分かったよ。ほんとにありがとう。感謝してもしきれないよ」


「何言ってやがる! 俺達は全滅の危機だったんだぞ!?」

「それでもだよ……、間に合わないところだった。【鷹の爪】が一緒にいなければね」


 それはお互い様だとドレクスラーは言う。赤髪の指揮、魔女たちの魔力量、妖精の機転、精霊の働き、どれをとっても申し分なかったし、助かっていたと。その中に僕がいないことへの劣等感や寂しさはあるものの、本当に無事で良かった。


「アレク、俺はお前がいてくれればと何度も思ったぞ……」

「そう……。まぁ、アレだよ? ヒーローは遅れてくるって言うじゃん?」

「はっ、違いねぇな」

「全員虫の息で、ヒーローなんて誰にも認識されなかったけどね」


 おどけて言った僕のジョークはブラック過ぎたみたいで、【漆黒】の面々がクスリと口端を上げただけだった。彼らは僕とドレクスラーの会話に交ざらないよう、世話係を一生懸命にこなしている。


 聖女は全員の容態を確認して回っていた。


「突然、力が出せなくなってよ……」

「うん、僕たちもだよ」

「『僕たち』?」


 めんどくさいけど、【漆黒の翅】の説明をする。僕の騎士たちだ。へへん。


「お前、いつからお貴族様になったんだよ……」

「そんなめんどくさい者になった覚えはないよ? 彼らはマグニアス伯爵から預かった王都の元孤児達でね? この家の従者兼騎士なんだよ」

「伯爵とどんな関係だよ、全く」

「お得意様だね」


 鍵のね、って言いながらキーホルダーみたいにぶら下げた南京錠を見せてあげた。ドレクスラーは「あ~」って言いながら若干納得して「そう言えば鍵屋だったな」なんて言ってる。いや、最初から鍵屋だけどね?


 次々にメンバーが覚醒していく中で、サリアラーラは最後まで目を覚まさなかった。


「お姉ちゃん、起きてよ……」


 リリアリーリが心細そうに何度も何度も姉をそっと揺り動かす。


 反応はない。


 彼女のポケットから顔を出したリンカーラに僕は尋ねてみた。


「あのさ、リンカーラ。ピンポンがどこ行ったかわからない? ぜんぜん見当たらないんだけど」


「わからなーい。近くにはいないみたいー」

「そっか、ありがと」


 彼女の身に何が起きているのか。3日経ってもわからなかった。






 サリア、早く起きてよ……。






お読みいただきありがとうございました。

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