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プロローグ
「そんな……ア、アレクセイ……」
薄紫の髪をストレートに伸ばした少女は、その髪を乱し、額から頬に流れる汗も気にせず眼の前の事象にただただ恐怖した。
共にいた【鷹の爪】と自身のパーティー【虹色の翅】が陥っている状況が未だに理解できないでいる。
立っているのはもう自分ひとりだ。それももう終わる。眼の前の魔族が怒り狂って自分を補足して近づいてきているからだ。
最後の最後まで魔力の残った彼女が繰り出す魔法ももう打てない。
突然失われた力に、場は混乱の極みだった。
---数刻前---
【鷹の爪】と【虹色の翅】の混成パーティーは4回に渡る王都中央地下で魔物掃討戦を終え、一旦戻るつもりでいた。
しかし、リリアリーリのパートナー妖精、リンカーラがそれを止める。
「強力な何かがこっち来るよー!!」
いつもの明るい様子はなく、怯えが含んだその声音に一同が緊張を強いられる。皆の視線は前方に。破壊された通路横から、魔物達が這い出してきていた場所に目の焦点が合う。サリアラーラの精霊も忙しく彼女の周りをぐるぐると周っていた。
「警戒!!!」
【鷹の爪】リーダー、ドレクスラーが声を張り上げる。
その直後にそれはやって来た。
薄暗い灰色の肌、背丈は2メートルほど、禍々しいドクロの盾と骨の剣。目は赤く、こめかみのあたりから生え出る角、犬歯のように尖る歯。髪は緑。それらが3人。
魔族だ。
その力量はいかばかりだろう。しかし【鷹の爪】もランクAの冒険者たちだ。お互いが警戒を強め、混成パーティー、魔族3人は膠着状態になる。
展開された妖精の魔法が引き金だった。リンカーラは気づいてはいた。自身の魔法が魔族に効き目がないことを。けれども、この膠着を破るのは自分だと直感が働いたのだ。
それは正しい。
なぜなら、彼女の魔法によって明らかに魔族の油断を招くことに成功したから。口ほどにもないと、思わせた。
しかし後続のリリアリーリとサリアラーラの魔法は違う。明らかに油断した魔族へとダメージが入る。
消耗戦が始まったかに見えた。
数的有利と実力差もあった。
彼らが鍛えに鍛えたスキルとジョブが、魔族を押し始める。
聖騎士ディーバがヘイトを維持し、剣士のドレクスラーが近接を、ライバーが遠距離攻撃を繰り出す。聖女はバフと回復を、エチュレーラはトラップやデバフを。
スキを見て魔女たちが魔法攻撃を出し、赤髪ゲルトレイルは、指示と攻撃を行なっていた。
魔物掃討戦で築き上げられてきた信頼。
背中を預けられる安心感。
それらが彼らを確かに支えていた。
突然それはやってきた。
地下中央広場から閃光が走る。
光は勢いを強め、その場の誰もが目を開けていられなくなる。魔族でさえも。
8方向へと波打つように走る閃光はやがて収まりを見せた。
怒り狂う魔族。
力を失った自分たち。
戦闘はやがて肉弾戦へと移行していった。
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膨大な魔力を身に纏う彼女がいたからこの場はこれで済んだ。
そう評価したところで無駄だ。
味方はない。もう自分ひとりしか立っていない。サリアラーラは震える足をこらえ、最後の魔力を押し出そうとしていた。
自分が大切に思う銀髪の少年の事を思いながら……。
「ごめんなさい……」
生涯を捧げると誓ったあの少年の最後の姿は痛々しくて見ていられなかった。王都から去っていく背中を自分は見つめることしかできなかった。
後悔と言えば聞こえはいい。
守ると誓ったのに。
捧げると誓ったのに。
自分の無力を嘆きながら、彼女は少年へ、謝罪の言葉しかついぞ出なかった。
魔力消費能力の付いた手に握る杖を、相手方も一人残った魔族に向ける。
最大威力を練り上げた魔法は【スキル】の補正を受けずに放たれた。
倒れゆくはずの魔族はその攻撃にも耐え、こちらにゆっくりとゆっくりと足を進めている。
怒り狂った形相で。
「そんな……ア、アレクセイ」
魔族の手はサリアラーラの喉へと迫る。
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