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今章エピローグ
「これより、王都8公爵会議を始める」
議長席に座る男が、この国の宰相を務めるグレンジミール・レ・コルトー。軍事国家と言っても過言ではない公爵領を治める公爵だ。といっても実際に実務をこなしているのは長男で、自身はこの国の宰相のため、公爵領に帰ることは殆ど無い。
魔物の侵攻という事態にあり、緊急会議が通達され、8大公爵が一同に介している。マサテュールからは代理のマグニアス伯爵が参加しているが、彼らの間では、件の伯爵が公爵という認識だ。
「まず、近況報告といこうか。コルトー公爵領では東門から中央へ向けて進軍。被害は軽微なものだが、重傷者2名、軽傷者は20名。死者はいない」
魔物掃討戦における経過報告をコルトー公爵が淡々と述べる。「おお」というどよめきが生じた。4回に渡る魔物の侵攻で死人を出さずにいることは珍しい。圧倒的な数の暴力を経験している各公爵軍の統率具合は、数では測れないとは言え、軽傷重傷、死亡問わず、やはり少ないほうが誇らしいものである。
流石というべきか、コルトー公爵が誇る公爵軍は鍛え上げられた兵士たちの質が段違いだと思わせる。それほどの戦果と言えた。各報告を述べた公爵達の被害状況からも伺い知れるものだった。そして最も士気の高いフラクシス公爵軍も比較的若い世代に、経験の薄い層で被害が多かった。
自身の報告を待つマグニアス伯爵は立場上最後だ。彼は考える。まともな報告をしてはまずいのではないかと。少し嘘を混ぜなければ、この場は紛糾するに違いない。なんせ死者ゼロ、重傷者ゼロ、軽傷者さえいない。これはまずいことになった。
「死者は7名。重傷者12名、軽傷者は23名」
サラッと偽情報を告げる。無表情で。彼は脳内で「だったら大変だな」なんて追加しているのだが誰にも聞こえはしない。それでもまだ奮闘した数字であることには違いない。混乱期のマサテュールにおいて大健闘な数字なのだ。褒められる案件である。
「魔物達のグレードが高くなってきている……ここからが正念場かもしれないな」
コルトー公爵の呟きに誰もが覚悟の堅い表情だ。
「次の議題に行く前に、王からの伝達がある。マグニアス伯爵は今日を持って伯爵ではなく公爵となる。これは決定事項だ。異論は認めないが、意見は王に直接言うように。わたしはこの件をコメントしない」
有無を言わせぬ物言いでコルトー公爵は続ける。会議がいちいち止まるのを良しとしないために、彼はよくこういった言い回しを使うのだ。異論のない者は苦笑を禁じ得ないし、ある者にとっては王に言えないことをわかった上で、発言をここで行えないというジレンマを抱えることになる。
「それで公爵にはマサテュールを名乗ってもらうことになる。思うところもあるだろうが、協議の結果、マサテュールの名を変えることは、様々な支障が出るための措置だ。理解していただけるとありがたい」
「謹んでお受けいたします」
「よろしく頼む。新たなマサテュール公爵に拍手を」
こうしてマグニアス伯爵はジョージ・レ・マサテュール公爵に格上げされることとなった。
拍手で迎えられたものの、彼らの内心を図れる者はほとんどいない。腹芸のできぬものはここに座れるだけの実力があるはずもないからだ。
「この場を借りて一つだけお伝えしておこうと思うがよろしいか?」
7人の公爵が無言で彼を見つめる。公爵となった彼がする最初の発言だ。注目が集まるのも当然と言えた。
「長く名乗ってきたマグニアスの名が無くなるのは忍びない。だからといってこの名を残しておく程の継承者もおらぬ現状。故に、公爵権を使って、マグニアス名誉伯爵を任命する用意がある」
貴族にしろ、騎士にしろ、名誉が前につくものは、王国の義務が課されない。子飼いの貴族を作るためのシステムだ。裁量権は当然公爵にあり、世襲ができない当代限りの貴族、騎士を囲うことができる。ただし、人数は8人までと限られているが。
こうして言いたいことだけを言い終えて、新マサテュール公爵は会議をほぼ見守る側へとシフトした。
王国は魔物の侵攻を乗り越え、新たな脅威を目にする事となる。
すでにステージは用意されていた。
王国にとって大きな節目となる大惨事が待ち受けている事など、魔物の侵攻を予期し、防いだ、ここにいる上層部の者たちですら予想だにできぬものが。
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