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あるじからのミッションです」


 執事長クバイトさん、改め騎士長クバイトさんは【漆黒】を集めて言った。僕のことを人に伝える時は【漆黒の翅】はみんなあるじって言う決まりらしい。子供たちだけの時ははめいめいが「兄」系の呼び方みたいだけれど。


 僕は直接【漆黒の翅】ではなく、クバイトさんへ命令の類を伝えるようにしている。なんとなく将来的なビジョンがあるからね。騎士として忠誠を誓った彼らの行末を僕は導いていく必要がある。どこへ出しても恥ずかしくないように、まずは命令形態のなんたるか、指示がどこから来ているのかはっきりさせた上で、立場を見定められるようにしたい。


 今、彼ら【漆黒の翅】は竹の子のような成長具合だから、しっかり身につけて欲しい。


あるじは今、君たちにある種の危機感を持っているそうです」


 いや、ほんとこいつらやべぇって思ってるだけで、大した危機感ではないんだけれどね? でもまぁ、あんまり楽しく強くなられてもなぁって思うんですよ。身体能力的にもう僕なんて勝てませんから。なんにもやってないから、【魔弓師(マジックアーチャー)】のスキルも上がってないし、【剣術】もさっぱりだ。ある種の危機感は実は僕の方なんだよねぇ、抜かれちゃう、追いつけないんじゃ……ってゆうね(笑) それで僕は考えたってわけ。


「これから始まる掃討戦ですが、『しばりぷれい』をしてもらいます」


「「「しばりぷれい??」」」


 だってね? 全部のスキルを【中】にあげようぜ! って張り切ってるわけでしょ? やばすぎるよ。ただでさえ人類やめてるのに、クグモのとこの【武士】みたいになっちゃうじゃん。あれ? なっちゃえばいいのかな?


 クバイトさんは「縛りプレイ」について彼らに説明したけれど、意味こそわかってるんだろうけど言葉がさっぱりみたいだね。そりゃそうか。


「これから皆さんには、一つだけのスキルで乗り切って貰うことになりました」


 これ決定事項で、異論は認めません。


「「「ええええええええええ」」」


 案の定ブーイングの嵐ですが、知らん。


 僕も騎士長も黙殺。


 二人共に真顔で応対。彼らは涙目になった。あ、冗談言っていい時ではないんだ、と理解したようでなによりなにより。


 後は僕が引き継ぎましょうか? という目線を送ったけれど、クバイトさんが続けてくれるらしい。彼らは自分たちの成長具合をよく理解しているし、ここで一気に上げておきたいというのもわかる。やればいい。だけど、やり方はメチャクチャなんだ。ちょっと軌道修正してあげようと思った。


「君たちは今、競っているね? それはいい。これからもそうやってみんなで強くなれるのは最高だろう。より多くの魔物、多くのスキル、より早い討伐。なるほど、確かに競い合うにはいい機会でしょう。ここには無数の魔物たちがいるからね。だけど、本当にそれでいいのかな?」


 挑戦的なクバイトさんの物言いに、彼らは疑問符を浮かべた顔をしている。


「今持つ全てのスキルを上げて何でもできるけど器用貧乏になるか、一点を上げて、一つだけしかできないけれど特化するか。考え方は人それぞれでしょう」


 そうなんだよね。いったい彼らは何を目指したいのか。まだ遊び半分なんだろう。でもここは戦場だから。


「君たちにはまだまだ強くなる要素がある。だからね、より自分に向いているスキルを見つけて欲しいという主の願いが、このミッションに込められているんです」


 どんどん大げさに盛られていくクバイトさんの話に若干冷や汗が出てくるけれど、概ね間違いではないので黙って聞いておこう。僕はこれみよがしに腕を組んで、難しい顔を作っておいた。


「今から【剣術】のみを使います。いいですね?」


 まずは剣術を上げてもらう。【中】から【上】に行くんじゃないかな? 有無を言わせないクバイトさんのお話にみんなが頷きを返し始めていた。最初は不承不承だった彼らの顔はもうこれからに向けて真剣なものに変化していた。


「騎士に【剣術】があれば本当に強いですね」


 クバイトさんは一旦話す口調を和らげに入った。このあたりの見極めは執事生活で培った教育係としての矜持を感じさせるよね。凄い。僕には真似できない。実際僕もなんだか聞き入っちゃうんだよねぇ。


「最初に【剣術・上】に達した者には(あるじ)から褒美が出るそうですよ?」


 飴もいると思うじゃない? やる気出してもらわないとさ。でも彼らはお金が欲しいわけじゃないから、判断に困るところなんだ。事前調査の結果、執事長は『食事』がいいのでは? ということだった。孤児でいた時のひもじい生活から考えれば、食事は最高のご褒美になるだろうとの事らしい。


 褒美を僕が発表することにした。


「そうだね。君たちに制限をかける以上、やる気も上げてほしいんだ。だから、最初に【剣術・上】を捉えた人には……」


 うわぁ、めっちゃ食いついてる(笑)


「3日間、僕とディナーの席に就いて、美味しいご飯を食べよう」


 わあぁ!! と歓声が上がる。……そこまでだったのね。食事効果すげぇ。


「ただし!! 自分だけがのし上がろうとして、仲間の危機をないがしろにするような行為があった時は、例えその者が一番でも、それは認めない。あと、ほかのスキルを使った者も失格。いいね?」


「「「はい」」」


 今日一番のいい返事が聞けたけど、最後のルールちゃんと聞いてたのかな?


 まぁいいか。





 こうして前代未聞のゴブリン狩りが始まってしまった。


 や、やりすぎたかな? いいよね?



 魔物掃討戦、第二回目の魔物侵攻、南門は他の7つの門と中央より、圧倒的なスピードで終わった。




 ついでに言うと、後でわかった話。


 僕が壁に施錠して進んでしまったため、もう南門ルートの侵攻が無くなったらしい。ミーシアによれば5回もあるという魔物侵攻で、この南門ルートに控える伯爵軍は、ずっと待機状態だったという。警戒は必要だもんね。うん。きっとそうだよ。僕のせいではないよ。おかげだよ。マグニアス伯爵軍は一切の被害がなかったんだから。




 無事全員が【剣術・上】を手にした。


 この日、栄誉を勝ち取ったのは、僕のことを「兄さん」と呼ぶ、ジョアンサ。


 彼女はテーブルの席で若干緊張していたものの、一口食べた瞬間に泣いた。


 美味すぎたんだって。


 涎が出そうな面持ちで他6人は給仕をしていた。実に羨ましそうだったと記述しておく。





お読みいただきありがとうございました。

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