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準備は大方整ったかな。
クバイトさん率いる【漆黒の翅】の冒険者登録はすでに終えていて、僕は伯爵邸へと向かう。馬車に揺られて行くのは正直時間の無駄だと思うけれど、相手方の準備もいるからね。貴族様だし、後ろに突然転移とかはちょっと恐れ多い。マグニアス伯爵にはちゃんとした対応を心がけているんだよ。何日もかけて予約してからじゃないと、お会いできない相手だからってのもあるね。自由ないじゃん、貴族。
さて、伯爵軍の入隊許可書をもらうべく、伯爵邸の執事にご対面。彼がくれることになってたと思うけれど……。あら、伯爵が会うと? はいはい、行きます行きます。紙切れ一枚でいいんだけどなぁ。
「来たか、ヴァレント君」
いつものように、ソファに手招きされて、執務机から移動する伯爵の着席を待ってから、僕も腰掛ける。メイドが持ってきた紅茶カップに口をつけるのは伯爵が手を取っ手に触ってからだね、それが飲んでいいよという合図になるらしい。
伯爵は執務机から封筒を取り出してからソファに座ったから、きっと中身が入隊許可書なんだろうと思う。手渡してきたから中を検めよう。
「え……?」
してやったり、という顔をしていらっしゃるマグニアス伯爵を僕は「なにしとんねん、ジョージ、コラお前」って言いたくなった。言えないけどさ。
『任命書
アレクセイ・ヴァレント
特別10人隊長に任じる。
冒険者パーティー【漆黒の翅】を隊員とする。
特別10人隊は伯爵軍における遊撃担当とするジョージ・フォン・マグニアス直属の部隊である。いかなる指揮下にも入らない。
印:ジョージ・フォン・マグニアス』
いや、まあ自由にやっていいよってことなんでしょうけどね!? 伯爵軍に加わるつもりでいたのに、これいかに。軍内部ではやりにくいだろうなぁ、なにコイツラって目で見られそう。マサテュール南門の地下への入り口で、コレを見せれば後は別行動させてもらうってことでいいか。指揮下に入らなくていいんなら好都合だし。
「こんなのアリなんですかね……」
「うむ。ここでは私が法だからな、心配いらんよ」
恐ろしいことサラッと言ったよこの人。初対面の人が聞いたら独裁者だと勘違いするだろうな。領民がこの言葉すら大歓迎するくらい信頼厚い人なんだよねぇ、伯爵って。
「あまり心配はしていないが、健闘を祈る。戦功を上げれば報奨ももちろん出すから頑張りたまえ。君たちの強さをできるだけ我軍でアピールしておくといい。こちらもやりやすくなるのでな」
はぁ、また裏があるような言い方してきたよ。考えるの止そう。
「ではありがたく」
任命書を丁寧に封筒に入れ直して、恭しく両手で少しかかげてから一礼して立ち上がった。長居は無用だ。帰りの馬車は辞退して、転移であっという間に帰ることにした。
「万事うまく運んでいますか?」
クバイトさんだ。伯爵邸で預かった任命書をみせると「これはまた……」と苦笑していた。うん、そうなるよね? 今しがた僕もそうなったからさ。
「アレクさんは本当に伯爵様に気に入られてますね」
そうだといいんだけどね、いや確実にそうだよね。待遇良すぎるもん。
「過保護ですよねぇ」
「それほどの事を貴方は成し遂げているということですよ。卑下なさるものではありません。誇ってもよいかと」
誇るってもねぇ?
「そう言えば、アレクさん」
「なんです?」
クバイトさんは僕が上げた『ドス』をいたく気に入ってくれているようで、子供たちにこれ見よがしに自慢しているそうだ。それで、欲しがる子供たちに、ちゃんとした理由を教えてあげてくれないかと言ってきた。これは忠誠の証なのだと。
てゆうか、これ見よがしに自慢すんなよ、大人気ない。そんなお茶目な一面のあるクバイトさんも好きだけどさ。僕は「わかりました」と言って、出発式を行うことを告げた。執事は皆を応接室に集めに鈴を部屋の外で鳴らした。
どこからともなく7人がわらわらとあっという間に集まってくる。餌付けされてるペットみたいだ。
「主が出発式を行うそうです」
執事長がそう言っただけで、彼らはぴしりと並んだ。訓練された軍隊のように。もう軍入りを果たしてきたけどさ。
「さて、君たち。これから魔物掃討戦へと向かうことになる。王都南門から入って、一旦伯爵軍の総司令官殿に会った後、遊撃部隊として動くことになる。質問は移動中に受け付けるからそのつもりで」
転移で連れて行くから結局質問は受け付けないんだけど。説明めんどくさいから、クバイトさんに丸投げでいいや。
一応考えている動きの概要だけ伝えておく。といってもみんなで行ってみんなで無双しましょうねって感じだ。
机に座る僕と、対面に並ぶ8人。
僕は騎士クバイトに倣ってこれ見よがしに黒漆の艶のある『木の棒』を7つ机に並べた。「あっ」と声が上がったけれど黙殺。
食い入るように『木の棒』、ドスを見る子供たちと、そんなにあったの!? って驚くクバイトさんを見てドヤ顔をお見舞いした。執事長だけははっきりと苦笑していた。
もしかして貰えるのでは、と期待する顔、真剣な表情になる顔、まだまだじっとドスを見ている者、怪しむ鋭い者様々だ。
「これはこの家の騎士の証でね、『ドス』という。仕込み剣なんだけど、刺す用途で作られた片刃の剣なんだ。これはまぁ、武器というより、護身用くらいにしかならない正規の武器ではない代物なんだ」
僕の説明はまだ終わらない。そんな時間あったら作戦言ってあげたらいいのにね。
「クバイトさんがコレ持ってるのみんな知ってる?」
敢えて聞く。みんなは頷く。僕もみんなが欲しがってる事知ってるんだけどね、クバイトさんが教えてあげてくれって言ってたからさ。
「クバイトさんは僕の騎士になってくれたんだ。だからその証に騎士剣として授与したんだよ。だから欲しい人に、はいどうぞってあげられるようなものじゃないって事を理解してほしい。忠誠の証。僕が死ぬまで僕についてきてくれるっていうことなんだよ。この『ドス』を持つってことはね」
いつしか全員が僕の話に真剣に聞き入っていた。
「僕はね、自由が欲しいと思っているんだ。何にも屈しない自由が欲しい。でも、それを成し遂げるにはたくさんの束縛、制約、不自由を飲み込まないといけない。そして、僕が得ようとしている自由は、人を縛るものでもある。クバイトさんがいい例だよ。僕の我儘に付き合ってくれるって言ってね、自分の自由を僕に預けてくれたんだよ」
僕は7つのドスの一つをわざとらしく手に持つ。
「コレが欲しいかぃ?」
全員を見渡した。
「コレを僕から貰うってことは自分の自由を僕に預けるって事だ。人生の殆どをね。君たちは大きな力を得たから、いろんな経験を積んでいける。その機会を逃すことになるかもしれない。今日から魔物掃討戦に出かけることになるけれど、コレを受け取れば今後は行きたくなくても連れて行かれるし、ときにはやりたいことも投げ出して、僕の命令を聞かなきゃいけなくなる」
それでもいいと思うものは受け取ってよし。僕は手にしたドスを6本の一番右側に並べ直して置いた。
「兄上、それをわたしにください」
即座に跪いたクワトを見て、驚いた。え? 話しちゃんと聞いてた? 自由なくなるよ? まぁいいか。
「ではここへ来て誓え」
僕は机の前に移動して、彼女を近くに手招いた。クワトは僕を「兄上」っていう。なんか堅い。女の子なんだけどね、この娘。
「我が主、貴方の剣となり盾となりましょう」
「そなたの忠誠はこの剣と共に(ドスだけど)」
脳内変換もちゃんと入れておいた。いやぁ、なんかごめん、剣じゃなくてって気持ちがあるんだよねぇ。でもドス好きだから、みんなも好きになるといいよ。ドス集団が出来上がったら、僕はいったい何目指してるんだろう? ってならないかな……なるようになるか。
「ではクワト、第一騎士として期待する」
わざとだけどね。引っかかってくれたんだよ。みんなさ。そう言われたクワトはもの凄い喜んでいたんだけど。第二騎士の取り合いで6人が必死の形相で僕に忠誠を誓いに来たから、笑えた。クバイトさんは僕と目を合わせてから口を抑えてクスクス笑っているし。僕の『自由なくなるけど良いの?』的なお話が何の効果もなかった事に唖然とする結果だったとだけ言っておこう。
マグニアス伯爵に拾われて、彼らは幸福だった。僕に預けられた当初は不安もあったようだけど、与えられた職と食にみんなで涙したそうだ。
ひもじい時のほうが長かった。
苦しい目にあった事のほうが多かった。
厳しい目で見られる事が辛かった。
いろんな大変さを抱えていた彼らは王都の魔物の襲撃で、避難勧告のおかげで伯爵の目に止まった。たまたま降ってきた幸運だった。
人々が失ったものは多い。家、食物、家財、今現在手元にないものだ。
だけど自分たちは……得たもののほうが多い。
極めつけは【スキル】【ジョブ】だ。
彼らは王都の神殿に一応行った。スキル継承が義務だからだ。でもそのみすぼらしい姿のせいで門前払いに遭ったという。その時の虚しさ、絶望はいかばかりだろう。
ミーシア・グレイグハートによるスキル継承に彼らは狂喜乱舞したという。3年後に控えるジョブ継承もきっと無理だろうと思っていたのに、ミーシアは先行してジョブも授けてくれた。だけど、本当は今目の前にいるアレクセイ・ヴァレントこそが、スキルとジョブをくれたんだと、ピンク髪は言っていた。
そんなこんなで彼らは伯爵と僕に絶大な信頼を寄せている。自由? そんなものいらない。僕や伯爵のためにできることならなんでも喜んでやる。という意気込みがあるんだそうだ。
僕は知らない間に臣下を得ていたようだ。
あのね。僕、一般人なんですけど?
さぁ、狩りの時間だ!
ようやく動き出す一行
アレクへの呼び方
リック 「アニキ」
ブライト 「アレク兄」
ヨンザ 「お兄ちゃん」
メリーヌ 「お兄様」
ジョアンサ 「兄さん」
クワト 「兄上」
ヒカリ 「アレ兄」
お読みいただきありがとうございました。




