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一通り強化を終えた7人を整列させたミーシア・グレイグハートは悦に浸っている。でも彼女の講釈はまだまだ続くようだ。
「皆さんにお願いがあります。これはお願いであって、命令ではありませんので、聞くか聞かないかは皆さんの判断に委ねます」
高く大きな声が室内に反響する。7人の子供たちの顔は真剣そのものだ。自分たちの将来のために大きな力をくれた相手のお願いなんだから、無下にする訳にはいかないのを彼らなりに肌で感じているのかもしれないね。何を言い出すのか僕も固唾をのんで見守っているところだ。
「あなた達に宿った新たな力は、この世の中では大きすぎるものです。みなさんもご存知の通り、本当は一人につき、一つのスキルとジョブしか得られません。ですが、あなた達は多くを得た。これがどういう意味かわかりますか?」
僕と話す時のような甘い声音は一切無い。一人一人を見回して、顔と顔を、目と目を合わせていく。
「みなさんは、今まで周りの人たちから良い目で見られたことがありますか?」
7人はそれぞれが首を横に振った。スラムで走り回り、飢えをしのぎ、孤児院で寒さに耐えてきた。時折配られる配給食料で命をかろうじてつなぐことができたときもある。そんな彼らを、みすぼらしい格好をした彼らを快く思うものは王都ではほとんどいなかった。
「これからは違います。なぜならあなた達には力があるから。生きていく力強さ、糧を得る強さ、魔物を倒す強さ、身だしなみを整える強さ、走る強さ、守る強さ、友達を得る強さ、他にも多くの機会を与えられました。ここにいるアレクセイ・ヴァレント様からです。みなさんは私から直接、与えられたスキルやジョブと思っているでしょう?」
途中でキョトンとしだした彼らに、ミーシアは意味深な休止を置いた。
「違いますよ? 私はアレク様から遣わされた存在です。あなた達を強くするために!」
演説口調になっているミーシアはいったい何に突き動かされているんだろう? 自分に視線が集まる中、彼らの真摯な視線を受けながらも僕は不思議に思っていた。
「それでですね、皆さんにお願いというのは……」
ミーシアはゴクリと一旦つばを飲み込んだ。
「自分の能力を他人に話さないでほしいということです。このことがバレると、嫉妬、妬み、僻み、やっかみ、悪意や嫌がらせを受ける可能性があります」
それだけではありません、と彼女は続けた。
「自分の力を示したい、認めて欲しい、と強く思うときが必ず来ます。それでも皆さんの力は大きすぎるのです。自分のせいで仲間が危険にさらされることになるかもしれません。……よくわかりませんか?」
困惑した7人を優しく教え諭すように、彼女の目は細められる。
「そうですね~、皆さんは私がどうやって人に力を与えられたかわかりますか? 知りたいですか?」
彼女の言葉に、この場の全体が引き込まれていくような錯覚に陥る。いや、実際に話しに飲み込まれているみたいだ。
「その好奇心ですよ。みんなの力がどこから来たのか、どうやって得られたのか、不思議に思って、聞きたがる人が増えるかもしれません。そんな時に、ここにいる『アレク様から力をいただきました』なんてみんながしゃべってしまったらどうなるでしょう?」
イメージがついたのか7人は要点を理解したようだ。
「アレク様も実はとんでもなくお強いんです。でもね、強すぎて人に言えないんですよ。それがバレるとお国の偉い方々が、自分にも力を寄越せって、言い寄ってきて、アレク様の自由がなくなってしまうんですよ。みんなのように、本当に困っている人たちを助けたいって思っても、お国の偉い人たちに捕まってしまうとなんにもできなくなってしまうんですよ」
みんなは自分と同じような子供たちを助けたいですか? ピンク髪はここ一番の笑顔を7人に向けた。
「「「はい」」」
力強い返事を聞いて満足そうに頷くコスプレイヤー。
「みんなには子供たちを助けてあげられるだけの強さが与えられました。でもその強さの出処は決して話さないでほしいのです。これから助けを必要とする子供たちのために!」
うまいこと言うなぁ、と思った。
人を鼓舞する言葉だ。
動機づけを与えられると、人は目的意識を持つことができるようになる。
それを今、彼女は実践しているんだ。
子供たちの顔は、活き活きと輝きだしている。そして喋ってはいけないという刷り込みが完了してしまった。
「アレク様はね、この後、人を助けに行く予定があるんです。あなた達にも手伝ってほしいと思っているんですが、まだ皆さんには経験が足りません」
一様にがっかりするみんなを見て、クスリと笑う。
「ですから、これからアレク様が人助けに出かけるまでの間、みんなで経験を積みましょう!! そしてアレク様のお手伝いをしましょう! 大丈夫ですよ、皆さんは強くなりました。後は実践あるのみです」
「「「はい!」」」
いいお返事です、と偉そうにふんぞり返ったミーシア・グレイグハートの頭を叩きたくなった僕の衝動はなんとか抑えられた。
僕も彼女に開いてもらった可能性の扉、【魔弓師】のジョブ確認のために、一緒に付いていこうか。
ダンジョンへ行こう。
お読みいただきありがとうございました。




