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本日3話目
「アレク様。焦らないで聞いてくださいね? まず、魔物掃討戦は5回目までは善戦しますから、まだ慌てる段階ではないんです。だからまだ余裕がありますし、【虹色の翅】も無事です、多分」
「多分……」
「はい。多分」
曖昧だな、おい。ピンク髪は続ける。自然な色なら良かったのに……。
「それでですね。アレク様の強化をしちゃいましょう!」
簡単に言ってくれるねぇ、この娘は。
「アレク様は今は【鍵】が使えませんから、特別に私が強化しますね? できたら結婚してください」
「うん、ありがとね」
「え? いいんですか?」
「何が?」
「結婚」
「だから何が?」
「うっ……なんでもないです」
ちょっと冷たすぎたかな? まあいいか。温度を下げて話すと怯んでくれるから御しやすいね。いちいち結婚に結びつけてくるけど、何がしたいんだかさっぱりだ。生きてる時間軸が違うのに。彼女なりのコミュニケーションの取り方だと思うことにしよう。髪がピンクじゃなかったら籠絡されてる気がするよ。よかったよかった。
自他共に認めるところではあるんだけどさ、僕は正直女の子の好意がとても照れくさくてまともに相手できる自信がないんだよ。でもね、相手がコスプレイヤーなら別だ。だってキャラを演じているんだし。本気じゃないでしょ? え? ミーシアは本気かも? 例えそうだとしても、ピンク髪だよ? アニメじゃん。アニメを見ているんだと、脳が勝手に処理してくれるからね。だから大丈夫。
「ではアレク様。目を閉じてください」
目を瞑る……とでも思ったか!? こんにゃろー!!
「ひぇぇぇ、ごめんなざいぃぃぃたぃぃぃ」
すきを突いてキスしようとしてきたミーシアを【後退】でもとに戻してからこめかみを両手でグリグリしてやる。油断も隙もないな。
「おい、アニメ女。次やったらこめかみグリグリの刑だからな!」
「あ、アニメ女!?」
「コスプレイヤーだろ?」
「ち、ち、違いますよ!! な、なんてこと言うんですか!? この髪のせいですか? 酷いです! 酷いです! 酷いです! 地毛なのにぃ」
ああー、うるさい。『次やったらって、すでにグリグリじゃないですかぁ』と叫んではこちらに向けて人差し指をビシっと向けてくるあたり、もうアニメ女でいいんじゃないかな。なんか声も舌足らずな高い声してるしさ。
若干涙目で姿勢を正した彼女は、気を取り直したようだ。
「アレク様。冗談は顔だけにしておいてください」
「わかった」
「ぃだぃぃぃ、ずびばぜんでじだぁぁぁぁ」
失礼なことを言ったからこめかみグリグリをもう一度お見舞いしておいた。ちゃんと『顔だけ』にしておいたよ?
「じゃあ、いきますよ?」
彼女は僕に【鍵】スキルで何かを行なった。感覚でわかる。あ、そうか……クグモは試さなくても感覚で理解できてたのか。だから僕をすぐに送還しなくても感覚で……なるほど。【八卦神門】継承者との交流は本当に意義深い。
「アレク様は、武器はなんです?」
「ブロードソードだね。あとドス」
「ドス!? 渋いです!! 結婚し……ぃやぁぁぁぁ」
しつこい相手に制裁って大事だと思うんだ。話が一向に進まない。
「メインがブロードソードですね? 【剣士】かぁ」
「なんか問題でも?」
なんとなく残念そうな響きに不安になる。
「いえ、ね? アレク様は【魔弓師】に天性の適性がありますよ?」
「【魔弓師】?」
なんだろ? 初めて聞くジョブに困惑する。
「はい。【魔弓師】です。矢を魔法生成して射るんです」
がっかりだよ。僕には魔術の才能なんてないのに。そんな事をため息混じりに言うと、彼女は鼻で笑ってきた。ムカつく。
「ご、誤解しないでください! バカにしたわけではないんです! ほんとですよ!? なんでそんな蔑んだ目を!?」
いやぁぁぁ、アレク様に嫌われたくないぃぃぃ、と。ほんとうるさいな。もうお帰り願っていいよね? だめ? まだ我慢しろ? はぁ。
「あのさ、ルクセン王国でも【魔弓師】って聞いたことないんだけど? 僕はあらゆる人間を鑑定てきたから、言うけどさ」
そう言うと彼女はぷくっと頬を膨らませた。
「ではやってみますから、受け取ってくださいね……」
「結婚はしないけどね」
「はぅ!?」
一瞬のことだった。
【魔弓師】のジョブが僕に降りてきた。
【弓生成】からのショットのビジョンが僕の体を芯から受け止めていくのがわかる。
彼女は僕の可能性という扉を【鍵】で開け放ってくれたみたいだ。なるほど、【鍵】にこんな使い方があるなんて、目から鱗だ。
「フフ。上手くいったようですね? せっかくなので【剣術】も開けておきましょう」
どうせなら【弓術】にしてくれないかな……まぁいっか。彼女が帰ったら自分で開けれるか試してみよう。初代継承者はどうやって自身を強化しまくったんだろう? 興味深いね。会うことが叶うなら、聞いてみたい。
ジョブとスキルによる身体能力の上昇に体がまだなじまない。
「ミーシア、ありがとね。感慨深いよ」
彼女をしっかり見てお礼を言う。彼女ははにかんだ。
「では、アレク様、お礼にぎゅっ、てしてください」
ミーシアは手を広げた。ハグをご所望のようだ。ゆっくりと近づいて包み込む。
「はぁ、幸せです」
なんだかなぁ。アニメ女だから緊張まったくないけど、これ普通の人なら僕はゆでダコになってるだろうな。そう思った瞬間目が冷めた。ばっと離れる。
「あ……」
すごく残念そうに、名残惜しそうに見つめてくる彼女の視線を、僕は遠ざける。
「夕飯にしようか……」
彼女の登場で急激に強くなっていくのを実感して、僕たちは夕食の席へと急いだ。
彼女の追撃に、僕の歴史がどんどんと塗り替えられていく気がしてならない。
クグモもこんな気持だったのかな……。
お読みいただきありがとうございました。




