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3話目

 マグニアス伯爵が用意してくれたバカでかい家に帰ってきて2日が過ぎた。


 王都防衛戦はどうなっているんだろう? あいつらは無事だろうか。そんな事をつらつら考える。暇を持て余すと人ってろくなことを考えないよねぇ。


 何がいけなかったのか、何が足りないのか。


 気力はないのに、向上しようとする考えは巡る。


 応接室の暖炉の前のソファーに陣取り、元貴族が所持していた本を貪るように読んでいると、この家の管理者、執事がノックをして入ってきた。


 クバイト・ショーン(47)

 執事

 スキル:【家事】

 ジョブ:【バトラー】


 執事の中の執事だね。こんな人材がこんなところにいていいのか甚だ疑問だけれども、彼もまたマグニアス伯爵に忠義のお人だそうだ。昔お世話になったらしい。


「アレクさん。伯爵様がお呼びのようです。使者の方が来られましたよ」


 執事は僕のことをアレクさんと呼ぶ。僕がお願いしたからだ。彼は混乱もなく、僕のお願いを快く聞き入れてくれた。徹底した真っ黒い執事のような毒舌を吐くでもなく、固執して“様”呼びを崩さないような頑固者でもない。素晴らしいお人だ。


「このまま連れて行かれればいいですか?」


 所作がわからんからだいたいこの人に判断を仰ぐと答えてくれる。若干苦笑気味だけど。


「そうでございますね……お着替えは済ませたほうがよろしいかと思います」


「わかりました。着替えて、付いていきます」



 -----



「ヴァレント君。よく来てくれた。かけたまえ」


 伯爵邸の応接間に案内され、マグニアス伯爵と対峙する。特にお久しぶりというわけでもないから平時の挨拶で事足りるかな。僕は促されるままに腰掛けた。


「シーダーから報告があったんだが」


「ええ。追い出されてしまいました」


 闇組織【獅子の咆哮】が情報を掴んでいることは知っていた。冒険者の中にでもいるんだろう、彼らの仲間が。だから詳細を語り合うつもりはない。それは伯爵も心得ている。とりわけ無駄を嫌う方だから。


「姫様はいったい何を企んでいるんだろうな……」


 ん? 姉以外の要因で僕を外す理由があるのか?


「あ、いや。冒険者達を戦力と見ているのか、いないのか」

「見ていないかもしれませんね。【鷹の爪】さえ知らない様子でしたから」


 僕の返事に伯爵は額を抑えた。


「士気が下がっていると聞いている。君の件と姫様の傍若無人っぷりに周りがついていけていないのだろう」


 有無を言わせぬ雰囲気バリバリだったもんなぁ。


 マグニアス伯爵は騎士団や王国兵士たちの活躍のことも教えてくれた。押せ押せの状況らしく、負ける要素が見当たらないみたいだ。ドレクスラーは僕をかばってくれただけなんだろうか。それなら僕は本当に必要ないのだろう。思考が後ろ向きになってくるのがわかる。


「それはさておき。君に見てほしい者たちがいる」


 来たか、と思った。これが本来の目的だから。マグニアス伯爵はずっとこれがしたかったんだろう。引っ越しの段取り、家の準備、ギルドランク上昇の手配。数々の手厚い待遇はこの布石。僕も了承したからここにいるわけだし。やることもないからね。はぁ。


 案内されたのは伯爵邸の中庭だった。


 外からは誰も入れず、漏れる心配もない。


 噴水近くで遊んでいる子供たち、スキル継承を拒まれた者たちが遊んでいた。


 男3人。女4人の7人。


【鍵】スキルが反応したのは以外にも全員だった。地下にいた者たちの中には【鍵】が継承をさせようとする者たちの数は限られていた。なんの基準かわからないけれど、資格にかなっていないんだろう。【鍵】にも好き嫌いがあったりして。まさかね。


「彼らを君に預ける。好きに使うと良い」

「はい!?」


 え? 預ける? 何を? 彼らを? 何がしたいんだ伯爵!?


「ふ。警戒しているようだな。他意はないよ」


 君は私を助けたことを過小評価しすぎているようだな。と言われる。そんなことは決してない。善政の貴族を助けられて僕は滿足しているし。


 だけど伯爵は本気で彼らを僕に預けるつもりのようだ。そんな甲斐性はないんだけれど。しかし手がないわけではない。必殺クバイトさんへ丸投げ作戦だ。執事教育をしてお家の管理人を増やせばいい。あの家大きすぎるし。


 僕はてっきり伯爵のコマをいくつも量産することになるんだろうと思っていたんだよ。違ったのかな? これも布石なのか? ますますわからなくなる。


「ヴァレント君。君が成し遂げていることは君が考えている以上に大きな功績だ。フラクシス公爵が君を欲しがるくらいにはね。だが、君の能力は極めて危険だ。王国の根幹を揺るがす程に。それでも君はうまく立ち回っているし、私を助けるのに助力もしてくれた。君は私に恩義を感じてくれているようだが、私はそれ以上に君に恩義を感じている」


 だから、君の邪魔をするつもりはないし、君の情報を他へ渡す愚行を犯すことなんてしないよ、と告げられた。失っていた気力が少しづつ上昇するのを感じる。


 人の言葉は武器だ。


 それによって傷を負わせることもあれば救うこともある。


 マグニアス伯爵の言葉の力は僕の沈んだ心を浮かせてくれた。


「彼らはどうだ? 素質はありそうか?」


 僕は小さく頷く。


「伯爵。僕には足りないものが多いんです。今回改めて痛感しました」

「そのようだね」


 伯爵は少しだけ口端を上げて微笑み返してくれた。


「彼らはどのような形でお返しすれば?」


「任せる。一生面倒を見てもらって構わないし、すぐに私に返してもいい。彼らは私が拾ってきた、国から捨てられた者たちだ。私は彼らの保護者になるつもりでいた。だが、君に預けることで、彼らが生きやすい力を得られるのであれば、彼らの幸せに繋がるのであれば、それでいい。そんな風に今は考えている」


 だから、彼らの未来を君の力で切り開く一助を与えてはくれないか、と。そんな事言われたら断る気も起きないじゃないか。うん。できることをやってみるか。





 そういえばドヌマン城塞地下に行ってなかったっけね。

お読みいただきありがとうございました。

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