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6興

本日4話目


「アレクセイ・ヴァレント。貴方には此度の掃討戦から抜けていただきます」


「は?」


 意味がわからない。何を言っているんだよ、抜けろ? 王族の前で発言許可が出るまで声を発することは基本許されないのは承知だけど。思わず声が出る。


 僕に、いや、冒険者たちへの通達として王女はそう告げた。


 ギルドの会議室はシンと静まり返っている。そりゃそうだ。まさかの王族が指揮権を手にギルドを好き勝手しているんだけど。相手が相手だけに言い出せずにいる。権威に屈しないのが冒険者で、自由に生きるのが冒険者だ、なんて歌いはするけれど。実際に権力の前にはそんな去勢は鼻息一つで吹き飛ばされてしまうんだよ。


 世知辛い世の中だよね、全く。


「決定事項ですから、異論は認めませんが、言いたいことがお有りなら、この場限り許します。いかがですか?」


 言ったところで覆ることがないのに、なんなんだよ。ふつふつと湧き上がる悪感情を、勝手に【鍵】スキルが施錠してしまう。


「では一つだけ……。なぜです?」


 第一回掃討戦を快勝で終えた王国兵士と冒険者たちは、ひとまず地下から帰還した。冒険者チームはこの会議室が集合場所になっているから、ここへ帰ってくるのが決まりになっているんだよ。それで、帰ってきてみれば、王女様がいることに驚かされる。


 指揮権の話がギルマスから報告された後、今後の方針の最後に、僕への退場を告げたところだ。


「貴方には戦闘の【スキル】がなく、【戦闘職】でもないと聞いています。この先の戦いで貴方を無駄死にさせるわけにはいかないでしょう?」


 おどけて見せる王女の言葉は幾分にもトゲが含まれていたんだけれど、僕の事情を知らない人間はここにはたくさんいる。というより、【鷹の爪】と【虹色の翅】しか僕の価値を知る者がいない。王女の言葉を聞いて、クスリとあざ笑う音をこの耳に拾う。


 戦闘スキル、戦闘職を持つものの力は絶対だ。これが覆されたことなんてないんだから。だからこの場で王女の言葉を否定できるものはいない。そして早く帰れ、避難しろと多くの冒険者たちの目がそう語っているように見える。


 スキルや職を所持しない人間は、彼らの足手まといになることは必至だ。本来のこの世界での常識ならね。だけど僕は違う。【鍵】スキルのおかげで戦闘スキルだろうが戦闘職だろうが関係なく抑えることは可能だ。


「それにね、アレクセイ・ヴァレント。貴方がここへ留まるというのには問題が多いのですよ。

 スキル、職を持たない貴方を戦わせたとあっては、王国の名折れでしょう? 彼らを御覧なさい。継承の儀式を経て授かったスキルや職が彼らを格段に強くした。その彼らが戦うのです。なんの不足がございましょう?」


 王女はあからさまに冒険者たちの方へと注意を向け、彼らの矜持に火を付けようとする。褒められて悪い気がする者などそうはいない。まして王国の王女、至極の宝珠と謳われる絶世の美女からの賛辞を快く思わないものなど、この部屋にはいないんじゃないか?


「貴方は足手まといなのですよ。彼らの邪魔をしてはなりません。悪いことは言わない、王都を出なさい」


 うるさい。黙れ!!


 気持ちとは裏腹に、喉は言葉を発することを許さない。僕に流れる血が激流のように流れているような感覚がする。


 自動状態解錠

 状態:激怒→怒り→平静


 自動状態解錠

 状態:憂い→悲しみ→平穏


 僕は怒ることも悲しむことも許されないのか……。


 黙っていると、【鷹の爪】のリーダー、ドレクスラーが右手を上げた。


「なんです?」


 王女はドレクスラーすら知らない。王都屈指の最強パーティーのリーダーにもかかわらず、その名前で呼びもしないんだ。冒険者たちは固唾をのんで見守っている。


「俺達はランクA特権を行使する。それゆえに王都防衛戦においてはいかなる権威にもかしずかない。協力体制は守るつもりでいるが、ここの指揮下には入らない」


「……それが何だというのです?」


「あんた方がアレクセイをいらないというのなら、俺達がもらう」


「この度はその勝手は許されません。彼は冒険者である以上、こちらに指揮権があります。其上で彼には王都を出てもらいます。これは決定事項です。貴方にはアレクセイ・ヴァレントを守り切る保証ができるのですか?」


「そんなものは必要ない」


「危険に晒すとわかっていて、なおそう言い張るのですね?」


「宣言しよう。アレクセイ抜きで戦うのなら、王都は取り返しがつかなくなるぞ」


「……!? 何を言っているのです!?」


 僕は思わぬ援護射撃に胸が熱くなった。ドレクスラーがこんなにも僕を買ってくれるなんてね。でも同時に王女への怒りがまたふつふつと湧いてはオートスキルに消されていった。なんなんだよ、【鍵】さんよ。怒るなって?


 王女の傍らにいるミーナは顔を下に向けて何かに耐えているようだった。きっと姉の差金もあるのかもしれない。王女にお願いでもしたのか?


 1万ものゴブリンの襲撃に、どこまで耐えられるんだろ?


 ふと心配になって魔女たちと赤髪に目を向けた。


 ゲルトレイルは拳をきつく握っている。


 サリアラーラは一筋の涙をこぼしていた。


 リリアリーリは激情に震えている。


 せっかく作り上げてきた【虹色の翅】の絆がこんなところで解けるとは思わないけれど、彼らと一緒にいられない自分を考えるだけで、僕の胸は締め付けられているみたいだ。色々な感情の本流が僕の中を忙しく駆け巡っているというのに、頭は冴えていた。


 自動状態解錠

 状態:平穏


 くそ、【鍵】スキルを今日ほど忌々しく思ったことはない。僕をどうしたいんだよ!? 人間兵器にでもするつもりなのか?


 僕の気力は底をついた。


「俺達がアレクセイを王都から出してやろう」


 ドレクスラーは僕を引いていった。




 王都の門を潜った記憶さえ、もう覚えていなかった。

鬱展開気味に疲れました。

お読みいただきありがとうございました。

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