5興
本日3話目
「……アレク!!」
振り返るとそこに姉がいた。
少しの距離があっという間に詰められている。はっや!?
「アレク! どうしてここにいるの!!」
幾分強い口調に気圧される。両肩をガシッと掴まれて眼は真剣そのものだ。
ここは冒険者ギルドの会議室。僕はパーティー【鷹の爪】と【虹色の翅】の地下魔物掃討戦に参加していて、一段落がついた上での報告をギルドマスターへ届けていたところなんだ。そこへ勢いよくやってきたのが、姫騎士のミーナライト・ヴァレントこと僕の姉。
「騎士様、お知り合いか?」
ギルドマスターは報告を途中で遮られたことへの不服として、一旦僕たちの間に入ってきてくれた。なにげに掴まれた肩が痛かったんだよねぇ。ギルドマスターに感謝する日が来るとは思わなかったよ。
ハッとしたミーナはギルマスに謝罪をした後にこう言った。
「この子は私の弟です!!」
と。
目を見張るギルマス。困惑する僕。若干ギルマスへの怒りの要素も見せているから、何事なんだろうね?
「ミーナ、とりあえず報告が途中だから。ちょっと待っててくれる? 時間無いなら手紙でも書いておくから」
多少苛立ちを込めて、邪魔するなと言う牽制をしておいたんだけど、僕の態度に周りが固まった。ギルマスでさえ。ん? どした?
「いや、ヴァレント君。姉君の用事を先に済まして構わんよ?」
「はい? いや、駄目ですよね? これ王国案件ですよ? 真っ先に報告しないと……」
譲歩してきたギルマスにますます困惑するんだけど? ナニコレ? ギルマスは若干震えている。そして後ろを向くように顎をほんの少しシャクった。たぶん後ろの人に見えないように。恐る恐る振り返ってみるとそこには絶世の美女が微笑んでいた。
レイミル・リング・ルクセン(17)
ルクセン王国第一王女
スキル:【掌握・上】
ジョブ:【召喚士】
王女様か!?
うわぁ、なんでこんなとこ(ギルド会議室)にいらっしゃるんだろうね!? ここは知らないふりをしておかないとまずいんじゃね? いや、でも王女様って国民の休日とかに顔を出してるから、知らないなんて不敬罪まっしぐら!? まさかのピーンチ!?
いや、とりあえず、知らなくてもお貴族様の前では跪くんだから、ここでも跪くのでいいよね? そうしよう、うん、そうしよう。
「あら……礼儀正しいですね。ミーナライト・ヴァレント、あなたの弟さんなのでしょう? しっかりしてらっしゃるわね」
あなたと違って、と。王族の前では許しがあるまで発言してはならないのが通説だ。だから僕も跪いてから沈黙を守る。なんとなくクスクス笑われているような気配がしないでもないが……。
「姫様……」
すご~く困った声音の姉の雰囲気に戸惑いながらも、僕は下を向いたままだ。早く終わらんかな。報告を済ませたいんだけれども。
スタスタと歩いてきた王女はギルマスの横に並んだ。
「報告はワタクシも聞きしましょう。発言を許します。アレクセイ・ヴァレント」
有無を言わせぬ物言いは流石に王族のオーラみたいなものを感じるね。発言を許された僕は姿勢を二人に向けて立ち上がったんだ。
途中だった報告を最初からわかりやすく簡潔にまとめて話しておいた。
「よくわかりました。下がってよろしいですよ? いえ、ミーナライト・ヴァレント、彼に言っておきたいことがあるのかしらね? 少し席を外しても構いませんから行ってらっしゃい」
「ですが……姫様!!」
「かまいません」
二人のやり取りに呆気にとられながらも、なんとかその場を辞してミーナと二人になった。
「姫騎士ってほんとだったんだねぇ」
感慨深げにそう言えば、ミーナははにかんだ。
「それにしてもどうして王女様がギルドに?」
僕の質問に姉は淡々と応えてくれたんだ。この度の魔物の襲撃に各王族が防衛に当たる担当を決めていて、たまたま王女が割り当てられたのが冒険者ギルドチームだということみたいだ。今後の指揮権はギルマスから王女へ臨時に移譲されることになるんだと。ただまとめ役は必要なため、ギルマスが実際の指示を出すのは変わらないんだとか。
あれかな? アイドルの一日署長的な? 失礼な思考だとは思うけれど、あながち間違ってはいないだろう。
今度はミーナの雰囲気が真剣さを帯びてきた。
「さっきも聞いたけど、アレク。どうしてここにいるの?」
「どうしてって……僕は冒険者の義務を果たしているだけだよ?」
ギルドカードをそっと見せてあげた。Cランクのカードを目にしても姉の態度は変わらなかった。あれ? Cですけど? 凄いでしょ?
「魔物が襲っているんだよ? なんでいるの!?」
いや、聞いてたよね!? 冒険者の義務でここにいるって。馬鹿なの? 今もってCランクのカード見てるでしょ?
「アレク、あなたは戦闘職でも戦闘スキル持ちでもないのに……」
あー。心配してくれているのか。うかつにもほっこりしてしまった。
「大丈夫だよ……」
「大丈夫なわけないでしょ!!」
【鍵】スキルがあるからね、と続けようとしたら被せて否定を返される。うーん。どうしたもんかな。
「避難勧告が出てるんだから、早く王都を出なきゃだめだよ! いい? 早く出なさい。今ならまだ第二陣の魔物の襲来が来る前に出られるはずだから」
その後は門が閉められて、魔物を閉じ込めに入るんだとか。
「ミーナ。心配してくれてありがとね。でも僕は冒険者で【虹色の翅】っていうパーティーに所属している冒険者なんだよ。もうこの作戦に噛んでいるし、仲間を見捨ててここを去る訳にはいかないよ」
「な!? 何言ってるの!? これ以上お姉ちゃんに心配かけないで!!」
ぇぇぇぇ。話通じないんですけど……。めんどくさいな。ミーナってこんなだったかな?
とにかく姉をなだめ、なんとか落ち着かせてからもう一度はっきりくっきり伝えておいた。僕は冒険者で生きていくんだからと、姉には姉の、僕には僕の人生があるだろうと。
浮かない顔をした姉は王女の後ろへと護衛についたまま、こちらを見向きもしなかった。
お読みいただきありがとうございました。




