2興
本日2話投稿
「うわぁ、すごいひろいねぇ!!」
はしゃいでいる薄紫の髪色をしたショートカットの女の子は、広い廊下を走り、自分の部屋として充てがわれたマイルームにご満悦だ。
元気いっぱいだねぇ。
びっくりしたんだよね。こんな広い土地の、こんなでかい家が、パーティーハウスとして用意されたんだから。僕の名義でだけれど。
ドヌマン公爵家の金庫を開け、仕事を終えた僕たちはマグニアス伯爵領にある【怠惰の蛇】のアジトへと転移したんだ。まぁ、すごくびっくりされたんだけど、ジャンヌさんに会わせてねって、可愛くお願いしたら、顔を青ざめさせて快く案内してくれたんだよ。
ジャンヌに、マグニアス伯爵にって、トントン拍子にお話が進んで、今このお家にいるんだよね。ダイジェスト過ぎたかな? いいよね?
家がでかすぎるんですよ、とにかく。元貴族のお家でしょうねぇ。いっぱい捕まって余ってるんだからしょうがないったらしょうがないんだけれど、いいんですかねぇ。いいんでしょうねぇ。ありがとう、マグニアス伯爵!!
なんか、店舗どうしたよ? って思うでしょ? ありましたよ、裏に。裏の塀に埋め込まれた店舗がね? ぐるっと囲った塀がね、一部くり抜かれて店舗が出てくるんですよ。違和感があんまりないのがマグニアス・クオリティってんでしょうか? いや、違和感ありますよ。塀沿いに歩いてたら、急に店舗のドアが出てくるんですから。勝手口とかじゃなく、店舗入口ですよ?
まぁ、とても気に入ったから文句なんて一つもないんだけどね。僕の部屋も、店舗からすぐ近くだし。王都の家とそんなに変わらないんだ。ただ、正面玄関から入ると、僕の部屋はとんでもなく遠いんだよねぇ。これが辛いところではある。
僕たち【虹色の翅】の拠点は今日から王都ではなく、ここマグニアス伯爵領のこの家だ。
だけど、活動はしばらく王都になるだろうと、今しがたマグニアス伯爵に言われたところなんだ。魔物の侵攻が近づいているから。冒険者ギルドが冒険者たちに強制依頼を出す手はずになっていると、聞かされたところでもあるから、納得はしている。
ただ、今回の迎撃作戦において、冒険者たちの活動は主に、街中の溢れ来る魔物の討伐なんだって。騎士団や王国兵士は地下道に入って掃討戦に挑むようだ。8大公爵領からも古の盟約に則り、公爵軍が派遣されることになっている。
各公爵領にある冒険者ギルドが、各王都の公爵門付近を担当することになるから、【虹色の翅】は旧マサテュール公爵門と周辺の街中を周って、戦うことになるんだとか。守るべき場所が決まっているのは本当に助かるし、すごく合理的だと思うんだ。突破されたらもう知らんけどね。近衛騎士様たちが頑張るのかな?
「それじゃ、一旦ここに荷物を呼び出すから、各自ここから自分の部屋に持っていってね」
【門】から、妖精の秘境にある荷物を選択してここに転移させて引っ越し終了。
「王都は明日出発でいいかな? 馬車で行くことになるけど」
僕の言葉にみんなが頷きを返して荷物を運び始めた。僕の荷物? 自分のは自分の部屋に転移させるよ? みんなにはしないのか? ふっ。
強制依頼で出される今回の討伐クエストは国が発行するもので、冒険者たちには国から宿泊費を免除されるんだ。宿は、泊まった冒険者たちの人数と費用を国に請求することになっている。ちゃんと決まりがあって、エールは一杯までなら無料だそうだ。それ以上の精算は各自の冒険者がその場で支払う事になっているんだとか。
避難勧告が出されている中で、宿屋は避難できない分、かなりの補償が見込めるんだとか。ここのお偉いさんや制度を決めた人の脳はいったいどんな構造してるんだろうね?
人権なんてほとんどスキルで台無しになるような世界でありながら、しっかりした制度も存在しているし、オーバーテクノロジーに思える魔道具もあるし。なのに蛇口なんてないし、あべこべ過ぎるんだよねぇ。
「アレク、ちょっといい?」
リリアリーリだ。
「クローゼットをこの部屋に入れてもらえない?」
上目遣いにお願いされたら、邪険にはできないよね、まぁ、邪険にしたことなんてないんだけれども。例の妖精の秘境と繋がっている転移門のあるクローゼットのことだ。彼女はこの媒体によって秘境へと転移できる。彼女は妖精の救助を行なった稀有な存在で、妖精魔法を授かった【魔女】だ。
一つ返事でOKして設置を済ませる。久しぶりに妖精の秘境にも顔を出したいね、なんて言いながら着々と部屋は完成されていっているようだ。
ここに一人で帰ってくることになるなんて、僕は思ってもいなかったよ……。
お読みいただきありがとうございました。




