ep0
「くっ……なぜだ!」
僕は、顔を歪ませながら睨んでくる目の前の少年の呻きを聞いてほくそ笑んだ。そして言ってあげよう。彼にとって絶望であろう一言を。
「君が大事にしていたアレだけど……君のせいだよ?」
しっかりタメを作って言ったからアレで十分伝わっただろう。案の定目の前の少年は歪んだ顔をさらにくしゃくしゃにしてから突っ伏した。僕に刃を向けるからそうなるんだよ。教訓にしてほしい。鍵師の僕に悪意を向けるとこうなるんだってね。
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この世界に生を受けてかれこれ15年になる。最初は驚いたよ。意識ははっきりしているのに体が赤ちゃんだったから。生前僕は日本で鍵屋を営んでいた。鍵のレスキューみたいな売り文句でいろんな鍵開けをしてたんだ。最後は悲惨だったね。依頼されたドアを解錠した途端、鉛が体を貫通していったんだから。一瞬の苦しみしかもう思い出せないけど、嫌な思い出にはかわりはない。
そんな技能のせいで、この世界で授かった能力ースキルというらしいーが【鍵】という。僕に与えられたギフトでレアスキルなんだとか。
意味がわからん。
地味人生の始まりか、と思ったものだ。
日本と同じ轍を踏みたくはないが、このスキルというのがこの世界の法則やら鉄則やら真理をついているらしいのだ。人生の一喜一憂を左右する重要な第一関門がこのスキル継承の儀式なんだと。幼馴染の子らは【剣技】とか【剛拳】なんかの強そうなスキルだったリ【裁縫】やら【鍛冶】とか手に職をもたらす羨ましいものが多かった。
12歳になるとスキル継承の儀式を受けさせられて、自分の中の才能を無理矢理こじ開けられるのだ。努力で才能は開花しないのだろうか? 疑問が残るばかりだ。
僕はこの王都ルクセンで鍵屋を営んで3年になる。正直、つまらない仕事だ。なんせこの世界、技術的に中世なんだ。鍵の複雑なものはほとんど無い。デジタルロックなんて言わずもがな。世界最高峰の牢屋、基、城の地下牢でさえ鍵は大したものは無い。警備は別だけどね。
わざわざ技術提供してやることもないし、○○チート起こす気力も頭脳も財力もないから細々とやっていく予定だ。南京錠程度なら作れんこともないし、そこそこ売れ始めたから最近はダンジョンに行く必要もなくなってきたんだよ。
どうして鍵屋がダンジョンって? 最初はポーターのつもりでついて行ったのが始まりなんだ。一応鍵屋開業するのに王都の住民登録が必要で、冒険者登録から始めないといけなかったんだよね。身分証作るんだ。商業ギルドは登録料が高いから段階的に、一番敷居の低い冒険者登録をしたわけ。依頼を受けるのに掲示板眺めてたら、荷物持ちの依頼が貼ってあったんだ。割が良さそうだったから受けてみたらコレが当たったってわけ。
最初に受けた依頼者が冒険者パーティー【鷹の爪】っていう5人組のパーティーだったんだけど、唐辛子か‼ って依頼書握りしめて突っ込んだら気に入られたんだ。意味がわからん。まぁ、彼らのおかげで資金貯めるのが早かったのは事実だ。感謝していますよー。本当に良いパーティーに巡り会えた。今でもよくうちの店に顔を見せてくれる気のいい仲間だ。毎回ダンジョンに誘われるのがめんどくさいんだけどね。小銭稼ぎにちょうどいいからたまについて行くんだけど。
あ、名乗ってなかったね。僕はアレクセイ•ヴァレント。王都ルクセンの隅っこの方に小さなお店を構える鍵屋さん。皆僕をアレクって呼んでる。長いのが覚えられないとかなんとか。鍵で困ったことがあれば【キーセレクト•アレク】へどうぞ。