[ 怜 ]
翌日…
レイはいつもの様に朝食を済ませると、母親にいってきますの声をかけ、家を後にした。
サトシの事はあれからどうなったのかもわからず、昨日の帰り道に家によってみたのだが、インターホン押しても何の反応もなかった。
そんな事を母親に言ったのだが、母親も何処か濁す様な感じであまり聞いてはくれなかった。
母親はサトシの母親と仲が良く、たまに一緒に出かけるぐらいの間柄であったのだが、何も聞いていないのだろうとしつこく聞くのをやめた。
下り坂を降りいつもの様にまたサトシの家の前に着いた。
がそこにはサトシの姿はなくインターホンを押しても反応はなかった。
おばちゃん大丈夫なのかな?とサトシとおばちゃんの心配をしながら、レイはサトシの家から離れた。
学校に着きいつもの様に机にうずくまると、田中がまた話しかけてきた。
「あの、冴木くん、飯倉くん今日休みなのかな、昨日あれから何も聞いてない」と田中がオドオドした感じで聞いてくたのだが、レイは少し気怠そうに
「知らないよ」とだけ答えた。
レイも心配で堪らないのに、外野の声がひどくうるさく感じたからだ。
「ご、ごめんね」と田中は席に戻っていった。
レイは田中に罪悪感を感じながら、あとで謝らなきゃな、と思った。
サトシが学校に来なくなってから、2週間が過ぎた頃
ガラガラガラ
4時間目の途中、教室のドアが開きなんとそこにはサトシが立っていた。
先生はすぐ様サトシに駆け寄り何かを会話した後、サトシは黒板の前で一礼をし席に着いた。
レイは久しぶりにサトシを見たので、心がウキウキしてしまっていた。
サトシのお母さんの心配もあったが、レイとしては何よりサトシに会えた事がとても嬉しかったのだ。
授業中横目でサトシの方を見ながら、レイは何を話そうかと、思考を膨らませていた。
キーンコーンカーンコーン
4時間目の終わりのチャイムが鳴る。
「起立、礼、着席」
挨拶が終わるのと同時にレイは着席もしないままサトシの席の方へ向かった。
「おいサトシ久しぶり、元気だった、おばちゃん大丈夫か、お前が来ないからつまらなかったよ」
サトシと会話ができるという嬉しさのあまり、授業中考えてた言葉は何処かに消え思いつくままにサトシに話しかけた。
サトシは数秒レイの事を見つめ、苦笑いをしながら
「レイごめん、お母さん死んだんだ」
「そうなん……え……」
あまりに唐突な死の告白に、レイの頭は正常に理解ができなくなった。
気がつくと冬なのに背中は汗ですぐびっしょりになった。
動悸が早くなってくのがわかった。
サトシの隣に目を向けると田中は顔を覆いながら泣いている。
サトシの方に視線を戻すとサトシは俯いていた。
よくよくサトシの顔を見れば沢山泣いたであろう、目の周りが真っ赤になって、皮膚が被れている。
レイはまだ自分の思考が定まらず、ふと出た言葉が
「嘘だろ」
悪気があったわけでもなく、充分に考慮した発言でもなく、自然に出た言葉がそれだったのだ。
それを聞いたサトシは無言で、涙を堪えている様だった。
こういう時、他人事の子供はなんて残酷なのだろう。
好奇心旺盛な10代の人間は相手の精神状態など考えずに、触れてはいけない領域に入ってくる。
その中の一人が、友達に「サトシのお母さん死んだんだってよ」と言っているのが聞こえた。
それが耳に届いた瞬間レイはその子の事を力の限りぶん殴った。
今まで暴力などふるった事もなく、普段イライラしてもいつも我慢して過ごそうとするレイ本人からしても、意外な行動だった。
見下ろすとその子は殴られた衝撃で近くの机に頭を打ったらしく、頭から血が流れていた。
レイは咄嗟に冷静になり、大丈夫と近寄ろうとするが、次の瞬間レイの頬に激痛が走る。
床に尻餅を突いて前を向くと、サトシが立っていた。
レイはサトシに殴られた事に気づきどうしようない怒りが込み上げてきた。
「お前の為に殴ったのに何するんだよ」
レイは込み上げてくる色々な感情を吐き出すようにサトシに罵声を投げかけた。
サトシはひどく冷静な口調でこう答えた。
「うるさいんだよ」
レイは意味がわからず、立ち上がりサトシを殴り返そうとした瞬間
「何やってんだ」とどぎつい声が教室中に響き渡った。
教室の中は静まり返り、レイが殴った子も泣くのを止め黙りこんだ。
レイは先生に手を掴まれ教室を後にする。
無理矢理教室から連れて行かれる中で、サトシの方に目をやると、一度もこちらを見ずに、レイが殴ってしまった子を介抱していた。