[ 怜 ]
「……ちゃんっ…おか……」
悲痛な声が聞こえる。
どこからか叫ぶ声が聞こえる。
れいはその声がする方へ向かっていった。
声が聞こえる。
「お姉ちゃん、お母さん…」
その聞き覚えがある声はどんどん大きくなり、れいの前に現れた扉の奥から聞こえる。
れいはドアノブを掴もうとした時にハッとなって手を引っ込めた。
そう、さっきから聞き覚えのある声、それはれいの声そのものだった。
れいはわけも分からず怖くなりその場を離れようとしたが、走っても走っても目の前にはその扉が現れる。後ろを向けば後ろに、またその反対を向けば反対に扉は現れた。
れいは逃げ疲れ扉の前に立ち尽くした。
そしてまた扉の中ではれいの声が聞こえる。
今度ははっきり…
「お姉ちゃん、お母さん、死なないで…」
ビクっとしてれいは辺りを見回す。
そこにはいつもどおりの居間の風景が広がっていた。
れいは数秒頭が真っ白になっていたが、それが夢だとわかると、心の底から安心した。
電気をつけたその時
プルルルルと電話が鳴り響いた。
「はいもしもし冴木ですが」
れいは受話器を取り電話に応答をする。
「れい?」
電話の相手は母親だったようだ。
「お母さん?今何処?」
れいは先程の夢の影響もあり、少し泣きそうになりながら、母親に言った。
「ごめんね、今日お姉ちゃんが定期なくしちゃったみたいで、迎えに行ったのよ、もう今◯◯駅だからすぐ帰るわね」
れいは相槌をうち、早く帰ってきてねと伝え電話を切った。
れいは自分の目に涙が溜まっているのに気がつき洗面所で顔を洗う事にした。
洗面台の鏡を見ると真っ赤になった自分の目が映った。
れいは恥ずかしいと思いながら、勢い良く水を出し顔を無造作に洗った。
自分の部屋に戻り本を読んでいると、玄関が開く音がし、続け様にただいまという母親の声と姉の声が聞こえた。
れいは急いで階段を降りて行き玄関に向かう。
二人は笑いながられいに近づきごめんねと誤ってきた。
れいは自然に二人に飛びつき少し頬を濡らした。
しがみついた姉と母親の服は少し濡れていた。
外に注意を向けると雨の音が聞こえる。
「すぐご飯にするから、お姉ちゃんはお風呂に入って来なさい」
そう母親が言うと姉は2つ返事でお風呂場に消えていった。
「お母さんああゆう時はなんか書き置きしておいてよ、さすがにびっくりするよ」
ごめんごめんと母親は頷き、スーパーで買ってきた食材を冷蔵庫に入れていく。
「今日はれいの好きなシチューにするから許してね」と言い、れいはいつも通りの精神状態に戻っていった。
時刻は20時を過ぎた頃、れいはお風呂から上がり自分の部屋に戻った。
いつもの様に宿題を終え、終わったら本を読むというのが、れいの習慣だった。
夏休みに親が買ってくれたその本は、上中下巻の三部作で構成されており、つい先日に中巻を読み終えたばかりで、今日から最終章の下巻を読んでいる。
その小説は小学生が読むには、漢字力が足りない事もあり、れいは漢字辞書を調べながら読んでいたので、読むペースが遅かった。
「れいー、もうそろそろ寝なさいよー」
下の階から母親の大きい声が聞こえてくる。
時計を見ると22時を回っていた。
れいは歯を磨きに一階に洗面所に向かった。
洗面所に行くと姉が歯を磨いていた。
「ふぇい、ふぉっふぉふぁってて」
姉が歯ブラシを含みながら何かを言っている。
ちょっと待っててと言っているにだろうとれいは理解して頷く。
「いいよ」と声をかけられ、れいは歯を磨く。
姉とすれ違いさまに、れいは頭を撫でられた。
「今日はごめんね」とそう言いながら姉は階段を登っていった。
歯ブラシを動かしながられいは鏡を見る。
鏡を覗いたれいは自分が泣いている事に気がついた。
れいはわけもわからず、涙を拭い不思議に思いながらも洗面所を後にした。