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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
高校生時代[三年生]
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幕間11・飯島昭介

順風満帆だったと言えばそうだろうとは思う。

腐れ縁の健介とは美術の腕前と評価で競い合う仲だったし、何より二人とも才能があるって先生に認めてもらえたおかげで特別教室を借りての作業が出来るようになった。

それでも健介との相部屋になったのは先生からの配慮だとは思う。

プロを目指す、という環境においては十分に整っていたし申し分もなかった。

でも、元からその部屋にいたその人は別格だった。

日頃うんうんとうなっているかと思えばいきなり筆やペンタブを手に取り。

物凄い速さで作品を仕上げたら「あげるよ」と渡してくるし。

落書きと言うにはあまりに完成された作品を気軽に渡して「まだ未完成」と口にするこの先輩は嫌味でも何でもなくただそう思っているのだと思い知らされた。

天才と言えば聞こえはいいが、その実変人奇人を通り越して怪物だ。

同じ二年にライバル視して食ってかかろうとした生徒がいると聞いていたけれど、この先輩が働く喫茶店に置かれた過去の作品を見て止めてしまったとも聞いている。

美術部が有名という訳でもないなんの変哲もない中学校から現れて、突然変異とでも言うべき実力を持つこの人に並び立つ人物がこの学校にどれほどいるのだろうか。

「数をこなすだけだよ」

事も無げにそんな物言いをするけれど、それは感覚やセンスが人一倍磨かれた人物だけが許される発言。

まぎれもなく人とはズレた発言でそれだけではたどり着けない位置に平気でよじ登るこの先輩は、どうすればいいのか尋ねれば真摯に応えてくれた。

説明が理解できるような内容だったか否かは別だったけれど、有意義な時間だったことは間違いない。

じゃあねと教室を出て行った先輩を見送り、コーヒーブレイクを経て。

どれくらいの時間を経てか、見返していた自分の作品とあの人のらくがきを比較する。

言われた事を出来る限り噛み砕いて組み立てようと四苦八苦していると、特別教室のドアがノックもなく乱暴に開けられた。

「あれ、嘉瀬先輩ここにいるって聞いたんだけどな」

サイドテールに茶髪と着崩しといういかにもギャルっぽい印象のあるその後輩は。

はだけるような下品さはなく、アクセサリも学校制服の基準のグレーゾーンをついていながら洒落た組み合わせをしていて。

手に持っている自作らしきアクセサリも素人のものと言うには完成度が高い。

この子もセンスの塊なのだろうかということがうかがえた。

「嘉瀬先輩なら志乃さんの喫茶店じゃないかな」

「なるほど、ありがとうございます」

お礼もお辞儀も欠かさないその様子を見て思わず興味を引かれて呼び止めてみると、中学校の頃にあの人から色々習ってここに来たのだと言う。

果たしてそれだけでここに来られるだろうか。

聞いてどうするんだとは思ったものの、考えるより言葉は先に口から出ていた。

「どうして習おうと思ったの?」

「倣おうなんて思ってませんよ」

疑問を口にすると、その子はサラリと質問に答えた。

まるで用意でもしてあったのか、それともこの手の問答は散々してきたからなのか。

彼女は曖昧模糊とした僕の質問に、意図を間違いなく汲んで答えた。

「真似したって無駄ですよ、あれは先輩だけのものですから」

「才能が?」

健介の質問はごもっともだろう、けれど彼女の答えはずいぶん明後日の方向で。

「いいえ、好きなことがですよ」

二人そろってよくわからないといった感想が表情に出ていたのだろう。

くつくつ、くつくつとあの人によく似た独特の笑い方をしていて。

「好きなことがわからないのは、勿体ない事なんですよ?」

わかったなら、あとは全力ですと彼女は言う。

それを聞いてようやく彼女も「追う側の人間なのだ」と納得した。

「嫉妬したりとか、悔しいとか思わない?」

健介は違う結論だったのだろうか、まだ質問が飛んでいく。

「そもそも先輩たちと違って同じ土俵に立っていないのでわかりません」

今度こそうーん、と先輩の椅子に座りながら悩む彼女はそう言い放つ。

これにはさすがに二の句が告げられずに固まる健介を見て思うところがあったのか、でもでもと続けて。

「好きなことを努力するって、矛盾した言葉だと思いませんか」

肩肘をまるで張った様子のない彼女の物言いは、僕の中ではすとんと腑に落ちて。

いつまにか、背もたれに体を預けて座っていた。

「健介、ダメだよ」

いつも競い合っていた健介と僕のようなやり方とは違い、どちらが良いか悪いかではない。

「競い合ってきた僕らとは根本的に違うんだ」

好きなものを好きなように、自由にやって。

それが結果的として勝手気ままに見える事こそあるけれど、いつでも義務を飛び越えて作品を作り続けてきたんだろう。

その結果が彼女という後輩だったとすれば、言葉はともかく行動は先輩として偉大な背中であったに違いない。

でしょう、と自慢げに語る後輩の笑顔は、とても輝いて見えた。

「嘉瀬先輩の事が好きなの?」

最後に、ちょっと悪戯してみようかと思ってそんな質問を投げかけてみたけれど。

「嫌いだったらここまで来たりしませんよ」

どうやら彼女の方が一枚上手だったようで、そう言って見せてくれた彼女のアクセサリはいつぞや見た事のあるエルフが模られたレリーフが彫られていた。


後日それを見た先輩が、自分の作品の模倣に対して怒るより作品の細やかさを褒めて喜ぶ彼女を見て。

本当になんでかわからないしわかりたくもないのだけれど。

健介と二人そろってなんだか負けた気分になったことは、忘れてはいけない気がした。

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