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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
高校生時代[二年生]
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友愛

寒さがようやく薄らいでくると、年があけたんだなと実感する。

筆やペンタブを持つ手が震えなくなるのはラッキーだけど、雪で真っ白に染まる景色が見られなくなると残念だなとも思ってしまうのは。

僕がきっと、絵を描くことが好きだからなのだろうなと思う。

「次のイラスト展、出すんだって?」

「準備がようやく整ったところです」

腰かけていた椅子をギギギと鳴らして引いて、軽く伸びをする。

今度のイラストを提出するところは学校からの指定で出してくれとの事だったので、半ば仕事に近い。

人から指定を受けて描くことはあまりなかったので新鮮ではあったものの、どうにか納得できる形には収められたので良しとする。

オーダーの内容に応えられる絵が描けるかどうかも、今後の大きな課題になるかもしれない。

それでもクリア出来そうなテーマを受けて、今ようやくひと段落ついたところだ。

「今度のは大きなところみたいだし、頑張ってな」

「先輩たちこそ、卒業制作はいいんですか」

「作りかけに『青春』なんて名前をつけなくて済む程度にはな」

特別教室に乾いた笑いが三つ。

これが毎年誰かしら間に合わずにつけてしまうあるあるタイトルなので、馬鹿にした話でもなければ他人事でもない。

「ギリギリだけどな、どうにか間に合わせるさ」

もうここで描くこともないのかな、と思う反面。

それは無事に卒業できることの証でもある。

嬉しい事だけれど次は僕の番なのだし、僕もそろそろこの先の事を考えなくてはならない。

「いい刺激になったし、嘉瀬君の作品を見られたのはラッキーだったと思うよ」

「そうですか」

「そうだよ」

別に先輩たちに特別便宜を図った覚えもないのに、そんな事を言われても照れくさいばかりで。

なんだかんだでお世話になった二人をすっきりとした笑顔で見送れるのもまた、幸運なのだろう。

「卒業する前に挫折したり、卒業できても食っていけなかったり、色々だからな」

「嘉瀬君ならひっぱりだこだろ」

「どうでしょうね」

うちで描いてみないか、というお誘い自体は去年の学祭でももらっているけれど。

今一つ自分にとってどういう選択をするのがベストなのか、つかみきれていない。

返事はいつでもいいと言ってくれている所もあるので、お言葉に甘えて保留中の身だ。

「あぁ、そうだひとつだけ」

「どうかしましたか」

「現時点でプロと呼べるだけの腕前があるからこそ、進学と言う選択肢もある事は憶えておくといい」

「学費はピンキリだし、何がしかの対策と指針は必要だろうけれどな」

コネクションを作るだけではない、美術をそこまで学び続けるからこそ出てくる意味とはなんなのか。

その時の先輩にはいろいろ言われたもののピンとこなくて。

結局自分で調べてみるのがいいさと締めくくられた。


先輩たちが言わんとした事を咀嚼するべくうんうんとうなりながら喫茶店に入ると、何やら志乃さんはバタバタと動き回っていて。

「手伝えるか」

甘い匂いが厨房の中から充満していて、そういえば二月なのだしそういう時期かと思っては見たものの。

「夢が壊れたりしませんかね」

「間に合わないよりマシだ」

その作業を僕がやってもいいものかどうか逡巡して、結局手伝って罪悪感を覚える。

志乃さんと沙月さんがせっせと接客と調理をしている間、僕だけが厨房にこもりきりで油脂と甘い匂いにまみれたまま作業を続けていく。

ディナータイムも佳境とはいえ、志乃さんにあれこれアドバイスを受けながら無心に調理していく。

集中する感じが絵を描くときと似ていて嫌いじゃない。

「手作りとは言えなくても『貰えた事』と『貰えなかった事』への段差がすごいんでしょ」

「沙月さんまでそんな事を」

あの頃の純真な沙月さんはどこへとホロリ涙を流して、グーパンで肩を叩かれる。

志乃さんにはイチャつくなと怒られたけれど、それはあまり女の子の口から言ってほしくない話だ。

「沙月さんに配ってもらえるであろう男子生徒諸氏すいません」

それをテンパリングしたのもデコレーションしたのも僕なんですと内心で謝りながら、業務用冷蔵庫に懺悔を塊にして積み上げていく。

集中しきれなくなるとやっぱり罪悪感がチラついてしまって、賽の河原にでも来た気分だ。

「お前が言わなきゃいいだけさ」

サラリととんでもない事を言いながら男女を問わずお一人様に配る辺り、志乃さんは優しいのか残酷なのか。

沙月さんもクラスの友達らしき人に配ってたり逆にもらってたりで忙しく、なんだかんだで生活スペースの冷蔵庫にいれるチョコもどんどん増えていく。

「すごいね、友チョコってやつかな」

「それもあるけどね」

沙月さんの苦労が偲ばれるので労うと、ジト目でそんな返しをされる。

「そんな言い方をするって事は」

「あるよ」

「それでなんで沙月さんがむすっとするんですか」

言わせんなしとまたも肩にグーパンをもらってしまって。

はっきりと口にできない弱さを嘆きながらも、そういう事でいいんだろうかと。

作業を続けながらも思考の海に沈んでいった。


後日、冷蔵庫に入っていたいくつかのチョコレートの一番上に明らかに手作りのものが鎮座していて。

『ホワイトデーは期待してるからね』という見覚えのある手書きのメッセージカードを見て思わず吹き出してしまったのも。

学校が終わってから駆け付けた妹にもらって、その場にいたクラスメイトに嫉妬のコブラツイストをかけられたことも。

きっとこれから長く記憶にとどまる、いい思い出になるのだろう。

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