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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
高校生時代[二年生]
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幕間10・東雲立夏

私が通っている美術高校では、話題になる人物というものが何人か存在する。

良くも悪くも才能次第のシビアな側面がついて回るこの学校で噂になるのは、有名税みたいなものだ。

まず一人目は立体コースの三年生、島崎昭介。

奇天烈ながらも才能の塊と噂されていて、現代アートの分野ですでに名を知られている期待のホープなんだとか。

言動が美術一辺倒で興味のあるなしでガラリと反応の代わる人物なんだそうで。

実際に見て話を聞いてみたけれど、自分の知らない話になるととたんに拗ねて素っ気なくなるちょっと可愛い先輩だ。

二人目は水彩画コースで名前を知らない人はいない木崎俊介君。

元々ある人物を追いかけて入学したのに、当人は全く違うコースに入っていたと聞いてすっかり肩を落としていたのが印象的だ。

ライバルと思っていた相手になんとも思われていなかったとなればちょっとかわいそうな話ではあるが、年が明けてからは何やら吹っ切れた様子で俄然やる気を出して課題や勉強に取り組んでいるのだとか。

三人目は二年生の東海林沙月。

服飾コースのアイドルというか、美人で評判のデキる女子。

何かと持ち上げられて快く思わない人もいるみたいだけど、この子は妙なところで頭がよく切れ者の世渡り上手でもあるので心配はしていない。

学校の近くにあるこれまた美人オーナーが営む喫茶店の看板娘もしていて。

喫茶店の制服は将来絶対入社してやると彼女が息巻く、その会社に勤める彼女のお母さんのお手製品なんだとか。

私は沙月のクラスメイトでもあるので彼女を見る機会も多いのだけれど、最近は制服の下に何やらネックレスを下げている様子。

男の気配がすると男子一同が頭を抱えているのだけれど、個人的には相手は予想するまでもないと考えているのでこれは後に置いといて。

四人目はイラストコースどころか学校全体でも何かと話題の二年生で、嘉瀬宗司君。

前述した沙月が働く喫茶店の美人オーナーの甥っ子なんだそうで、天才的な色彩センスだと教師陣でも評判なんだけど。

問題スレスレの事件を起こす問題児なのに絵を描くとなれば真剣そのもので。

提出された作品はどれも人を惹きつけてやまないと評判ながらも、本人は「好きなことをしてるだけで上手いも下手もない」と才気あふれる発言で敵味方の多いこと多いこと。

美人と噂に名高いオーナーさんの親戚だけあって、パッと見はなんともなんだけどふとした瞬間の大人びた表情が一部女子にウケていて。

喫茶店のウェイター業務で鍛えたトーク力で、見た感じはヲタクっぽさが匂わない珍しい男子。

以上四人がよく話題にあがる生徒なのだけれど。

最後の嘉瀬宗司君については特にひとつだけ大きな噂が続いていて、これがなにかと取り沙汰されるトレンドでもある。


「沙月と仲いいけど、付き合ってるの、好きなの、どうなの」

前置きが長くなってしまったが、これをどうしても聞いてみたくて。

まだまだ一月の寒い中、しかも休みの日に。

彼が絵を描いていると聞いて喫茶店のカウンター席にわざわざ訪問していたわけだ。

「ちょっと立夏!」

突然の質問に驚いた沙月がまるで漫画のように顔を真っ赤にしながら接客をほっぽりだして耳をひっぱってくるのだけれど、こちとらクラス女子の期待を背負っての質問なので梃子でも動くわけにはいかない。

「あんたは黙ってなさい、全男子と一部女子の中では大問題なんだから」

「商店街でも噂になってるぞ」

すぐそばでクラブハウスサンドを食べている八百屋の帽子をかぶったおじ様もそういう。

オーナーさんはと言えば調理を中断までして、明らかに笑いをこらえて震えている。

誰もが気になってる噂の真相ってやつは詳らかにしておきたいのだ。

当人はと言えば描く手をとめてうーんと腕を組んで考え始めるのだけれど、いつまで経っても返事が来ない。

それでは帰れないと眉間に皺を寄せて黙る彼の肩を強引にゆすって問いただす。

「痛い痛い、痛いですって」

「付き合ってるのか付き合ってないのか、どっちかはっきりしてってば!」

後ろでスパゲティを食べていた生徒もうんうんと頷いているし。

誰かわからないけれどどこか嘉瀬君に似た美少女もジトッとした目で様子をうかがっている。

「そういう事聞くためだけに来たのなら出禁にするよ!」

「構わん、聞け」

どうにか笑いをこらえきったらしきオーナーさんからのGOサインをもらって、彼の耳をさらに引っ張ってでも問い詰めてやる。

「どうなのさ」

とうとう観念したのか、わかりましたからという返事を確認して手を放してやることにした。

狭い喫茶店の中、お客の注目を浴びながら彼は沙月を見て。

喫茶店の一枚の絵を見て、天井の方を見て。

ようやく結論が出たのかため息をつく。

それからようやくこっちを見て、私の耳元に手をあてて。

「わからないんですよ」

「わからない?」

自分の好きがどこまでのもので、どこからやってくるのか自分の中でハッキリしないと彼は言う。

そんなの好きなら好きでいいじゃない、と思うのだけれど。

彼が迷っているのはそんな簡単な問題ではないらしく、ひそひそ話をやめて私に追い打ちをかけた。

「恋と愛の違いって、なんでしょうね」

まるで泣いているような、呆れているような。

悲しい顔に仮面をつけて誤魔化したような雰囲気をまとったその言葉に私は何も言えなくなって。

呆然としたまま真っ赤になった沙月に正座させられ、怒られる事になった。

アテが外れたとか、明日クラスのみんなになんて説明したものかと迷う中でひとつだけ印象に残ったのは。

最後の一言を聞いたであろうオーナーさんが一切笑わず、コケにせず。

彼の結論を黙って真顔で聞いていた事だけは記憶にこびりついていた。

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