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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
高校生時代[二年生]
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疎通

「あの子の本音を聞いてほしいの」

確かにまたキミのお話が聞きたいと言われて、携帯の番号を妖精さんと交換したのは僕の責任ではあるが。

まさか二度三度も親子喧嘩の仲裁に使われるだなんて誰が思ったろうか。

「自分で聞いたらいいじゃないですか」

はぁと一息、手を休めながら携帯を持ち直す。

結局あれから仲直りが出来ていないあたり、不器用にすぎると思う。

僕の場合は人の事をあまり言えたものでもないのだけれど。

「あの子、キミの話ならちゃんと聞いているのよ」

そうね、と出されたたとえ話は喫茶店での僕の様子や学校での話。

志乃さんを通した僕の寸評みたいなものだった。

「志乃に預ける時、貴方とも共同生活が条件って話だったし」

結果として預けて正解だったわとまで言われてしまっては返す言葉もない。

条件については初耳というわけでもないのだが、保護者本人からそんな話が出てくるとさすがに現実味を帯びてくる。

「年頃の男と一緒だなんて嫌がりそうなものですけれどね」

「あの子ったら、志乃の誘いだって言ったら一も二もなく飛び出していったから」

そういう芯の強さというか図太さみたいなものは親子なんだなと感じるが、だからと言って何もしないというのもなんだか気が引けてしまう。

妹と仲直りできたのは、東海林さんの頑張りがあったからだ。

「志乃さんとの仕事もですけど、娘さんといちゃいちゃする時間をもう少し作るべきでしたね」

「全くだわ」

話をするためには何かきっかけがあればいいんじゃないかと思うのだけれど、果たしてそれが僕にできるだろうか。

それから移った次の話題にも驚かされたが、こちらは快く引き受けられる内容だったのが救いだった。


「何か欲しいものはあります?」

「ぇあ」

学校が終わってディナータイムも終了、店内の残りの掃除を済ませている間にふと気になることを当人に聞いてみた。

美少女の驚愕する顔と奇声というのも物珍しく、思わずじっと見つめてしまった。

「藪から棒になに」

「いえ、もう少ししたら誕生日と聞いていたので」

「そーゆーのはサプライズでやるからいいんでしょうが」

乙女心がわかっていないと叱られてしまうものの。

厨房の片づけを終えて、カウンターで僕らを見ながら優雅に酒盛りタイムの志乃さんから思わぬ援護が入った。

「いらないもの買ってこられるよりいいだろ」

「そこはホラ、長年の付き合いというか普段のフィーリングで」

なるほどな、と一杯ぐいとあおって次を注ぐ。

すっかりよっぱらっているようにも見えるが、その実目は力を失っていない。

でもな、と志乃さんの話は続く。

「ウン十年連れ添った夫婦にだってお互いの事は案外分からないもんだ」

それは暗にお前はどれだけ目の前にいる人物を知っているんだと問われている気がして。

思わず東海林さんと目を合わせる。

お互いに自室があって、僕からは部屋を訪ねないよう留意していたので。

言われずとも彼女の事はなにもしらないなという自覚はある。

「たかだか二年目でお互いの事なんかわかるわけなかろうよ」

「そうですけどーそうですけどー」

一方の姫はと言えばご不満の様子で、理解はできても納得できないと言わんばかり。

僕もサプライズは考えなかったわけでもない。

しかし、である。

先日そんな無計画で使わなくなった資料室の鍵をアクセサリーに加工した時のトラブルの数々を、もう一度うまく対処しろと言われてもできるかどうか怪しいというのが本音だ。

先輩に彫刻板金に詳しい立体専攻の人を紹介してもらって、自力で削って研磨して。

それから板金の分だけ圧迫した勉強や絵のスケジュールを取り戻すのは実に骨が折れた。

挙句の果てに本人にはバレてチェーンに通せと言われ、チャームの予定が今やネックレス。

これでは欲しいものが分からないと弱音を吐いても許してほしいものである。

「しょうがないなぁ」

箒をロッカーにバタンとしまいこんで、掃除を終える。

いつもならここですぐにお風呂にはいってくるとすぐに二階に駆け上がっていくのだが、お姫様は店内中央のカウンター席に座って、まるで子供の用に足をぷらぷらとさせながら何がいいかなと考え始めた。

ロイヤルミルクティーを煮出しながら、答えを待つ。

「それじゃあ、選ぶの手伝ってよ」

煮出し終わるころにお姫様からそんな結論が出て。

「そうか、じゃあ馬車馬が働かないとな」

それを聞いた志乃さんからは気前よく軍資金を渡されて、唖然としている間に話が進んでいく。

志乃さんがどこにいくといいとかあれを見に行けとか色々助言が入っていって。

あれよあれよという間に次の休日の予定がまるごと一日埋め立てられてしまった。

「荷物持ちをしっかりこなせよ、馬」

「人ですらないんですね」

「お前ら二人そろってお姫様でもそれを守る騎士でもないだろ」

ため息交じりにせめてもの文句を口にすると、志乃さんからはあっさりそう返されてしまう。

続いて聞こえた頑張れよと言う声色は優しかったけど、意地悪く笑う志乃さんの顔が少しだけ印象に残った。

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