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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
中学生時代[一年生]
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幕間1・柊 美千留

先輩視点です

私は家族と言うものが嫌いだった。

そういう繋がりを大切にしたいという気持ちは尊重すべきであろう。

ただ、それにお金が絡むとロクな事にならないものである。

身内を貶し、貶め、語気を強めて自らの正当性ばかりを語る。

残したものをどうするのかは当人が決めていたと言うのに。

勝手な解釈を差し挟んで異議を唱え、これは私のものだとばかり口にする。

そうしてつい先日まで親しい間柄であった血族ですら陥れる。

骨肉の争いが絶えなかった。だから、嫌いなものだった。


私は未成年だ。なんの権力もない。

しかし、そうはいかなかったのがその残された内容だった。

私に残されたものは未成年にしては過分で、大きすぎた。

子供ながらに特殊な環境下にある事は自覚があった。

だから、身を守るために人より多くを知る必要があった。

大人が言う「将来のために必要な事」とはまた別ベクトルにおける知識。

結果を先に言ってしまうと、守りきる事は出来た。

代償としておおよそ子供らしい時間、感情、流行を全く感知しない人間となってしまったが。

親族であれども言葉で押し伏せ、自らに付くことへの利を示す。

そうやって自分の居場所を守りきる事に徹した。


そういう娯楽のない時代を過ごしたからだろう。

自分を見失って、何かやりたいことがあっただろうかと思った結果、知識を求めた。

最初は安直に図書館を利用していたが、司書よりも司書らしくしていた事。

また自分の身を守る過程において学年内におけるトップの成績を維持していた事。

ヒマさえあれば図書室に常駐していた事。

それらが相まってあれやこれやと尋ねられる事となり、安寧は得られなかった。

だから、適当に流すようにして必要なだけの量の本を手に図書室を出て、校舎を彷徨った。

校舎内をうろうろとした結果見つけたのは、美術部と書かれていながら実際は資料室となった特別教室だった。

成績や身辺状況に説得力をもたせ、他の部活からの勧誘の一切を断り、教師の一人を味方につける。

日頃の表向きの行いと合わせ、一人の時間を手に入れるのにそれほど時間はかからなかった。

そんなスタートを切ったからだろうか。

クラスメイトとの友誼を結ぶ事もなく、孤独なままに中学校へ通うことにはなんの苦痛もなかった。

最初のうちは興味をもった生徒やクラスメイトが何やら言っていた気もするが、内容を覚えていない。

私個人としてなんの価値も見出せないと思ったからだろう。

自らの置いてきた環境の苛酷さ故に慢心していたかと言えば、そうでもないと思う。

ただ、彼らの言葉に興味を持てなかった。

罵詈雑言も投げかけられた。

痛痒を感じていないと見るやもっと直接的であったり、あるいは迂遠に嫌がらせを受けた事もあった。

知識を総動員し、どうすれば相手が痛手を被るか、あるいは手出しできなくなるのかを計算の上、大人への報告や本人への警告を行った。

自らをかまおうとするもの全てを切り離し続け、誰もとまではいかず交流を最低限にとどめて煩わしさを振り払うまでに一年かかったが、それでも静謐を得る事は出来た。

ついでに不名誉なあだ名も頂くこととなったが割愛しておく。


そんな状態であったから、彼の来訪は私にとって青天の霹靂であった。

新一年生がまかり間違ってここを訪れる事があったとしても説明すれば出て行くだろうし、必要であれば自分で部を立ち上げるだろうと勝手に考えていた。

正当な理由で美術部の名前を使うのなら、譲って別の部をスケープゴート仕立て上げればいいという程度のつもりであった。

だけど彼を見た時、彼と話をした時、彼が何を思ったのか感じ取って、考えを改めさせられた。

私よりひとつ下なのに、どこかくたびれたように。

ともすれば学生服ですら薄汚れているような。

いや、もっと言うのならもっと別の場所を達観するような瞳でここを訪れた彼は、私の同類だった。

人気のないところで、誰に干渉されるでもないところで好きなようにしていたい。

誰の邪魔もしないから、誰も構わないでほしい。

失礼を承知での表現を用いてしまえば、ゾンビのような風体ながらも光を失っていない彼の瞳からはそういう不器用さが感じられた。

いくつか質問し、提案し、受け入れ、入部の用紙を受け取ってから私は思う。

彼はどこまで正確にかはわからないものの、私の意志を汲み取った。

実に意地の悪い質問であったにも関わらず、だ。

即答するでもなくよくよく考えて、自分がどうしたいのかをはっきり告げながらも私の立ち振る舞いを見て退かず、また遠慮や譲歩をするでもなく、問い掛けに答えるべく努めた。

なら私も彼の意志を汲み取って行動するべきだろう。

彼がどういう人物であるのか、見定めてみたい、不思議とそう思った。

思ってからは早かった。

部屋の中から必要なものを割り出し、それらを並べかけておき、最終下校時刻に部屋の鍵をかけて部室を出る。

誰の興味をひくでもなく、誰に興味を持つでもなかった私ではあるが、自分に近しいものを感じた彼がどうか、私と同じように安寧を得て描きたいものを好きなように描いてくれれば。

それはきっと、とてもいいものが見られるんじゃないかという期待を持つ。

また結論だけを先に言っておこう。私のこの予想は、遥かに上を飛び越える結果となった。

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