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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
高校生時代[一年生]
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目的

三月ともなると卒業生が引き払い、教室や持ち物の大移動が始まる。

僕たちもいよいよコース選択が迫られて、考えることが多い時期だ。

「で、希代の新人くんはどのコースにしたのかね」

こっそりワシに教えてみなさいなんて東海林さんが言ってくるので、用紙を見せる。

「わお」

「意外だった?」

「わりと」

用紙を折りたたんで、通知表に挟んでおく。

これについては何度も考えたし、幾度となく悩んだことではあった。

推薦で入った事もあってか、学校側にも聞かれてすでに伝えている話でもある。

驚かれたし本当にそれでいいのかとも再三尋ねられている。

もったいないと思う人のほうが多いのかもしれない。

ガラリ、と扉をあけて何もない部屋に入る。

成績上位者にはいくつか特典があって、この部屋はそのうちのひとつだ。

学費の免除なんかはその一部だけれども、それ以上に大きいのがこの特別教室の使用許可。

大きな教室をまるごと独り占めとはいかないものの、自由に使っていいパーソナルスペースを使う許可が下りるとそこで創作活動をする事が出来る。

学校の授業内容も一般教養の頻度は落ちていくし、専門性の高い内容を主軸にするのでコースを分けている。

作品作りを軸にしていく二年以降の授業はいよいよもって「らしく」なってきていた。

自室から持ってくる荷物が多かったので、手伝ってもらったクラスメイトに喫茶店の金券を渡してねぎらいの言葉をかける。

「東海林さん、前から立体学科の縫製コースに行くって言ってたもんな」

「そういいながら僕も東海林さんも相変わらず喫茶店のオーダー係だけどね」

「いいじゃん別に」

とはいえ、僕らがいなくなった後をどうするつもりなのか。

別にそれはそれで構わんとか言いそうだし、何か手はずを整えているに違いない。

「コース選択といえば、お前がそんな風に考えてたとは思わなかったわ」

「そうかな」

僕としては順当だと思う、その理由を述べると。

「言われてみればどの作品もたいていそうだもんな」

クラスメイトからの反応はおおむね納得していて、それでもという人はあまりいなかった。

少なくとも、僕の身の回りでは。


「失礼、貴方が嘉瀬宗司さんですか」

喫茶店で仕事をしていると、そんな風に声をかけられる。

学校の制服をきているけれど、卒業したはずの三年生のネクタイの色をしている。

パリッとした制服はどうもなじんでいないらしく、着られている感じが抜けなかった。

「はい、そうですが」

今度入ってくる一年生かな、と聞くと大仰に頷く。

「そうです、僕は今度入学する『木崎俊介』と言います」

以後お見知りおきをと言われても、僕としてははあどうもと返して水を出すくらいしかできる事がない。

「わざわざ今度入学する一年生から挨拶されるなんて人気者だね」

「茶化さないでください」

困った顔で東海林さんをいなすと、木崎君はといえば顔を真っ赤にしている。

何か気に障ったのだろうか。

「とにかく、嘉瀬先輩に用があってこちらに来ました」

志乃さんはと言えば、肩をすくめた。

構わないという意味なのでお言葉に甘えて木崎君の向かいに座らせてもらうものの、どうもいつもと違う笑い方をしていて違和感を覚えた。

「それで、僕になんの用事かな」

「宣戦布告です」

宣戦布告ってどういう意味だっけと思って、一度首をひねる。

どういう字で書くかを思い出して、そこから意味を思い出した。

「ライバル宣言ってこと?」

言いたいが同時に言いづらいことを東海林さんが言ってしまったので、黙って乗っかることにする。

「そうです、嘉瀬先輩の腕前はこの近辺のコンテストや絵画展では名前が知られています」

東海林さんからはやるじゃんと肘でつつかれるが、別に有名になりたくて絵を描いたわけではない。

全く興味がないと言えば嘘になるが、名前が知られることは基本的に二の次だ。

「貴方の絵画での腕前と成績を打ち破り、僕の名前で塗り替えてみせます」

「おー」

拍手をすると、彼の顔がさらに真っ赤になった。

そろそろトマトのように茹っているが大丈夫だろうか。

「さっきからなんですか、相手にもならないということですか!」

これでも成績がある推薦入学者だと、入選や賞についてを聞かせてくれた。

なるほど輝かしい経歴で推薦をとったのも納得できるし、腕前を競う相手がいるというのもいい事だろう。

しかし、これには問題がある。

先ほどからの彼の口ぶりと出場したコンテストの内容を聞く限り、大きな勘違いをしているから。

「別にそれはいいんだけどね」

「なんですか」

「僕、水彩画コースには進まないよ」

平面を主にする学科の中でも水彩画コースとイラストコースは別として取り扱われていた。

彼の口ぶりから察するに僕はきっと水彩画コースと思い込んでいたのだろうけれど。

僕が選んだのは後者だった。

「なんで」

愕然とした彼に、僕はこう問うた。

「僕は、僕のやりたいことを成し遂げるためにイラストを学ぶ」

その過程で絵画展からコンテストまで幅広く出て、成績を残した。

順位や受賞にこだわらなかったのは「ねらい」と「題材」の違いによるものだ。

金賞が取れなかったとしても、講評や寸評が狙い通りなら十分に作品を提出した価値がある。

僕を打ち破ったとして、その先は。

学校を卒業したとして、次の目標は。

「キミはどうしたいのかな」

僕はきっと意地の悪い顔をしているんだろうなと思いながらも。

信じられないと言葉をなくした彼に、その言葉を投げかけずにはいられなかった。

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