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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
高校生時代[一年生]
72/115

表明

「悪いな宗司、忙しい時にさ」

「いいさ、それよりバレちゃったか」

年が明けて落ち着いてきた時期だが、珍しく弁当も持たずに食堂でどれを食べるか迷う中。

クラスメイトからそんな声がかかる。

学祭で短編小説を出していた先輩たちの作品を見て、思い付きで絵を描いてみたところ大変に喜ばれた。

バス停にたたずむ少年と、夕暮れと夜の狭間に浮かぶ空と山々を描いた一枚。

コントラストに使う色合いとグラデーションにお試しで色を引き延ばしてみた技法がうまくいったので、その小説の作者に提出したのだ。

とはいえ勝手にやったことだしお礼も不要だったのでクラスメイトを通してこっそり渡したのだが、あっさりバレてしまったようだった。

「上手く隠したつもりだったんだが、いかんせん学祭でお前の絵を見てる先輩もいたからな」

「いいさ、喜んでもらえたのならどっちでも」

忙しいのは事実だが、インスピレーションに突き動かされて勝手に描いたものだった。

完成度はいつもカンバスに描いているものほどではないが、納得できるものを託したつもりだったのでそこに後悔はない。

「勉強して、バイトして、絵を描いてその上賞をもらって、傍らでファンアートだもんよ」

そら悪い気もするぞと言われて、食券を渡される。

「昼飯奢ってもらってるんだからチャラだ」

「流石言うことが違うけど、安売りすぎんだろ」

カラリと笑い飛ばしてもらえるのならそれで十分だと思ったのだが、あいにくトークは上手くなってもジョークは上手くないらしい。

定食セットが乗ったトレーを手に席に着く。

「描きたいと思ったから描いただけだからね」

「そこまで言うんならいいけどよ」

人気のスペシャル定食の食券を奢ってもらったのは僕としては棚から牡丹餅でしかない。

しかし当人が申し訳ないのでと言われれば受けるのがいいかともなる。

「人気絵師様はお忙しくて大変だね、ちょっと上手いからって偉そうにさ」

「善人ぶらなきゃキャラ保てないんだから察してやれよ」

「チョーシ乗ってるのも今のうちでしょ、そのうち化けの皮が剥がれるんだから」

ただ、こういう声が聞こえてくるのが嫌だから食堂を使わなかったのもある。

「こいつら」

「ほれ」

クラスメイトが皺をよせて余所見をする間にからあげを強奪する。

「お前なんちゅうことを!」

「余所見するからだよ」

代わりに海老天を乗っけてやる。

しぶしぶ席に戻るクラスメイトは不満そうに尻尾をかじった。

「いや、だってお前」

「いいからいいから」

僕自身が悪く言われるのはどうでもいいのだ。

それより反応したクラスメイトが悪く言われるほうがばつが悪い。

僕自身より彼らに付け入るスキを与えるほうが業腹だ。

からあげをかじってご飯をかきこみ、おひたしとお茶を飲みこむ。

僕はあくまでも好きなことがしていたくて。

その結果喜んでもらえたり褒められたりするのなら、それは偶然であれお互いにとって良い事になるはずなのに。

こんな時先輩なら、望月さんならどうしてたっけと思い返して。

「他人への悪口で絵が上手くなるなら、罵詈雑言でもなんでも吐いてやるさ」

ふと、そんな言葉を思い出す。

あれは確か篠宮君の言葉だったか。

少し語気を強めて食堂中に響くように言ったので大半は黙ったようだが。

「お高くとまりやがって」

まだ言ってくる人はいるようだった。

さて、これからどうしようかなと思いながらもそちらを向く。

タイの色を見るに同級生のようだった。

「少なくとも悪態つくような相手に平身低頭であたる必要はないね」

「なんだと」

演説でもぶつけるように言い放つ。

あの人なら、演技が大げさすぎると笑うだろうか。

「僕への悪口で『満足したかい?』」

満足したのなら所詮そこまでだ、とばっさりと斬って捨てて席に座りなおす。

こういう事をするとご飯が美味しくなくなるのが残念だ。

「他人を蹴落とす暇があるのなら努力しろよ、それは才能とかセンスの問題ですらない」

ごちそうさまでした、ときれいに平らげてトレーを持ち立ち上がる。

食ってかかってきた彼はこっちをねめつけて立つだけで、何もしようとしてこない。

殴りかかってこないのならいいやとその場を後にする。

「良かったのか」

「何が」

「あんな挑発してさ」

それは結局、僕より結果を出していれば何を言われてもいいという意味にもとれる。

追ってきたクラスメイトが心配してくれるけど、僕としてはそれが出来るのなら構わない。

「僕はまだプロじゃない、だからお金をもらわないのはある意味当然だ」

「お、おう」

それがどうしたと視線で問われているけど、かまわず続ける。

「代わりに()()()()()をもらっていい絵が描けた、それでいいじゃない」

肩をすくめておどけてみせる。

「お前ほんとすげぇわ」

「でしょうとも」

おどけたけれど、僕の本質は本当にそんな偉いものじゃない。

妹に自慢できる兄貴でいられるように。

後輩たちにとって誇れる先輩であるように。

また会えると言ってくれたあの人に胸を張れるように。

そうやって呪いにも等しい誓いを立てておきながら。

いつかまたあの美しい景色に匹敵する光景に、再び出会えますようにとも祈り続けているのだから。

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