人格
エアコンがきいた室内でまた冷房病にかかるなとうんざりしていた頃にその人は訪れて。
うんぬんかんぬんとマシンガントークでこちらに意見させないやり方は相変わらずだった。
クルーというか、複数人数で迫ってきて圧迫感がある。
向こうもこちらをよく見ているのだなと思ったけれど、僕も昔のままではない。
話す内容をすべてお店の宣伝に絡めると、今度はふざけていないでちゃんと答えろと言ってきた。
「取材と言いながら人の話を聞かないのは真面目なんですか」
そう聞き返して、出て行ってもらった。
恨みがましそうな顔をしていたけれど、お客さんの手前なので僕は澄まし顔を崩さない。
「辛辣だね」
「自分たちの取材に都合のいい言葉を引き出させたいだけだし、辛口にもなるよ」
東海林さんの疑問はごもっともだろう。
今回訪れたのは中学校の頃に取材に来ていたあの人が中心にいて、強引なやり方は変わらず。
あの時は部室に仲間がいたが、今回は一人で応対しなくてはならない。
そのため柊先輩や望月さんが教えてくれた対策を使ってお帰りねがった。
こうした騒ぎへの解決方法の手引きが手元にある時、僕は本当に人に恵まれていると実感する。
もちろんああいう強引な取材をしてくる人物ばかりでもない。
しっかり聞いてくれる人もいたものだが、決まって「記事にはしづらいな」と苦笑していたものだった。
「僕は自分の好きな事をしているだけだもの」
「多少はたくましくなったじゃないか」
「それだけ重い皿を毎日運んで洗ってしてればね」
軽口をたたく僕を満足そうに見て、志乃さんは次のメニューに取り掛かっていった。
僕もそろそろ仕事に戻らなくてはと一度外したエプロンをつけなおす。
「ほんと、宗司は違うよな」
「どういう意味だよ」
夏休みに入ったというのに、喫茶店に入り浸るクラスメイトからそんな事を言われてしまう。
机に広げた課題は、東海林さんと志乃さんを見て鼻の下をのばしっぱなしでちっとも進んでいないようだ。
「しっかりしてるっていうか、こういうのは地に足がついてるって言うのかね」
こういう一芸に秀でた人間ってどこか浮世離れしてるじゃんと言われて、その絵を見る。
夏休みに入る前に描いた、戦いの女神と題されたカンバスだった。
御印を掲げる女神に続く民衆を描いたものだけど、女神が握っているのは剣でも旗でもなく選挙権の紙切れという実に間抜けな一枚ではあった。
講評はなかなかに洒落がきいていて面白いとコメントをもらっていて、成果は上々。
特待生である以上は結果を出さなくてはならないとのことで、提出したコンテストでは賞ももらっている。
「見た目なよっとしてるのにな」
「ほっといてくれ」
ふうん、と男子一同からの評価を聞いた東海林さんが動きを止めていた。
このところしばらくこちらをじっと見てくる時があるけれど、夏休みの前に絵を描きながら彼女の話を聞き流したのは失敗だっただろうか。
「なにかな」
「なんでも」
意を決して聞いてみるといつもこうだ。
どうしたもんかと眉をハの字にしていると、志乃さんがカウンターで忍び笑いをしていた。
「ほんとオマエ、ブラックジャックは強いのにポーカーはダメダメだよな」
志乃さんの例えが難しく、どう違うのかがその場でわからないのは僕の知識不足なんだろうけども。
弄られているのは理解できたので、ため息をつきながら料理を受け取った。
「人は見かけによらないって本当だね」
リビングで武具や道具の図鑑を開いていると、東海林さんにまで言われてしまった。
「昼の話の続きか」
仕事もすっかり終わって、自堕落な志乃さんはすっかり酔いが回っている。
図鑑を一旦閉じて反論を試みるも、そもそも褒められているのか貶されているのかイマイチ判別がつかない。
「濁すね」
「そりゃあもう」
反応がおもしろいからね、と言い放たれてはさすがにむくれる他反抗の余地もない。
確かになんて、志乃さんは楽しそうに笑う。
「お前はそれでいいのさ」
それでいい、とはどういう事なのだろうか。
足りないものがあると自分の元で働かせたり、それでいいと自然体を認めたり。
当人はといえば思惑をあまり人に話さずに結果を出すものだから、意図が分からなかった。
「志乃さんの中でいったい僕はどういう立ち位置の人間なんですか」
「そうだな」
酔っているのに様になるというのは美人の特権だろうか。
基本的に迷わない物言いをする志乃さんが、酔っぱらいながらも思案する。
「考えすぎる甥っ子だな」
「考えすぎ?」
「もっと好きなようにすればいい」
言われて、考える。
志乃さんの言わんとするところは何なのだろうか。
「そらみろ、そういう所だ」
すぐさま指摘されて、志乃さんを見る。
どういう事なのかわからないのが顔に出ているのか、志乃さんは僕を見て上機嫌で。
隣で話を聞いていた東海林さんも考え込んだまま意識を戻さない様子が印象的だった。




