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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
中学生時代[三年生]
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未練

「ダメでした」

年が明けて早々、望月さんからそんな一言で面喰ってしまったのは正直失敗だったと思う。

僕が優秀賞の銀のリボンをつけた作品を抱える横で、佳作の銅のリボンをつけた作品を抱えていて。

「何が不満なの」

「嘉瀬先輩に一泡吹かせられませんでした」

そういうことか、と納得しかけて。

「そもそも僕がこれに提出するって言ってたっけ」

「言ってませんでしたが、予想はつきましたので」

読まれてるな、なんて背筋を凍らせる中で。

あっけらかんとそう言う彼女の表情は晴れやかだった。

僕をギャフンと言わせたかったとまで口にしていたのに。

「次こそ先輩を打ち負かしますからね」

「いつでも」

あまり表だって悔しそうではないのはきっと、彼女の中で整理がついているからではないかと思う。

「僕は一足先に卒業しちゃうけど、待ってるよ」

「私は美術の世界にはいきませんよ」

「教職になりたいんだったよね」

前に話したことを、僕はよく覚えていた。

こんなに熱心に絵を愛して、楽しく描いていたのに。

もったいないと言いかけて、無理やり喉に押し込んで。

「知ってる、それでも待ちたいんだよ」

「絵については何も教えてくれなかったのに、師匠面ですか」

苦笑気味に返してくる彼女にそうじゃないと伝えて。

「絵については何も教えてあげられなかったけど、僕は望月さんの先輩だもの」

そう宣言した。

柊先輩と僕のような関係ではない。

いい先輩であれたかどうかはきっと、卒業するときにでもわかるだろうと踏んでいる。

その前に望月さんには言っておかなくちゃならない事がある。

一年生三人が合作の寸評をみて改善点を話し合う中。

望月さんと僕はその光景を、お茶を口にしながら想う。

視線は動かさないまま、話を続けた。

「きっとね」

「はい」

「これからまだ一年、皆にはあるんだろうけど」

「はい」

「この教室をどう使うかも含めて、僕は望月さんに鍵を預けたから」

「確かに預かりました」

声がにじんでいるのは、きっと気のせいだと思う。

一年生たちは夢中でこちらに気づいていない。

「僕のことは関係ないし、何も教えてない」

「はい」

「だから、対外的には望月さんは僕の弟子という事にはならないけれど」

僕の後輩であることを重荷にしてほしくない。

コンテストで受賞するようになって、肩にずっしりとした重みを感じるようになった時。

いつからか覚えていないけれど、じゃあ望月さんはどうなんだろうかと思うようになって。

きっと彼女は何かをするたび、僕の後輩であることを引き合いにつつかれているかもしれない。

彼女は噂話に左右されるような人間ではないけれど、彼女自身が揺さぶられたら?

そう思ったら、もうダメだった。

彼女に言っておくべきことと、僕にできることはなんだろうかと考えて。

せめて、僕をダシに使われないよう気遣う事だけだった。

「甘く見ないでください」

声がすっかりにじんでしまっているけれど。

震えるような声音を聞きのがさない。

「私は先輩に心配されるほど弱くはありませんから」

一字一句、聞きのがさないようにして。

聞き漏らさないようにして、彼女の虚勢を受け止める。

茶化すような声色にならないよう精いっぱいの注意を払って。

「そうなのかい」

「そうなんです」

いつもと同じやり取りを心掛けた。

「今日ぐらいはいいと思うんだけどな」

「ダメですよ」

先輩が卒業するまで楽しく過ごさなくちゃという望月さんは。

一年生たちがお手上げをして、解決策を僕たちに聞いてくるまでにすっかりいつも通りに戻っていた。

「僕も先輩も、変なところで不器用なのは治りそうもありませんね」

思わず口に出した呟きは、喧々諤々する後輩たちの喧騒に掻き消えた。


やいのやいのと騒ぐ中部室を出る。

もう最終下校の時間なのに元気なもんだと一年生を見ていると、視線を感じて。

振り返れば、例の三人組がいた。

サッカー部で使われているゼッケンを見とめて、望月さんの顔がこわばる。

「嘉瀬先輩」

「大丈夫だよ、ほらほら最終下校のチャイムが鳴ったんだから」

帰らなくちゃ、と後輩たちを下駄箱に追い出す。

不安そうにしていた後輩たちの背を見送ってから振り返っても、彼らは僕を囲まず。

じっとこちらを見ていた。

「何の用かな」

「やっぱお前気に食わねーわ」

何をしに来たのかわからなかったので待ってみたけれど。

あるいは予想通りの答えが返ってきて。

少しだけほっとして。

「僕もだわ」

軽口をたたくように返す。

挑発とも取れる物言いに、以前までの彼らなら僕の胸ぐらを掴んで圧迫してきていただろう。

今日は、何もしてこない。

きっと、これからも何もしてこない。

内心妙な確信があって、目が合ってからずっと視線をそらさないようにしていた。

「おまえ、美術の専門コースいくんだってな」

「そうだよ、三人は?」

「一応スポーツ推薦とったからな」

篠宮はその中でも強豪校に行くみたいだけど、とも付け加えられた。

志乃さんに仕組まれての事ではあるけれど、どうしたらいいかをよく考えたうえでの決断だ。

後悔もないし未練もない、そのはずだった。

「篠宮には何も言わなくていいのか」

彼らがそれを口にするまでは。

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