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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
中学生時代[三年生]
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幕間5・如月志乃

やりたいことは全部やる、それが私のモットーだった。

なんでも器用にこなせるだけの才能があったのは幸運だと思う。

そのための下準備としてあれもこれもと仕事を転々として、目標に漕ぎつけるまでに時間がかかったのは。

ひとえに自分の限界が所詮そこまでであったことの証左でもあった。


義務教育を終えてからというもの、派遣、アパレル、調理師、家具屋、不動産と一見脈絡なく転じて親戚に心配されたものだ。

目標がいかなるもので、そのために必要なことだと説けばだいたいはわかってくれたのも良い事だった。

父はと言えばすっかりしわがれて仕事をしていた頃の覇気のカケラもない様子だったのに。

「面白そうじゃないか、やってみろ」

その時だけは憂慮する親戚一同を黙らせるほど大きな声で笑って、私を送り出してくれた。

色んなツテを手に入れて、色んなところでもっと頑張れば上にいけたのにと惜しまれもしたものだが。

私にとっては目標への通過点でしかなく、また必要な作業でしかなかったのも事実で。

必要なものを手にするとアッサリ前職を切り捨てて次に移ってを繰り返した。

やっと資金、土地、建物、免許、状況と必要なものを一通りそろえる頃にはすっかり婚期を逃がしたなんていわれてしまっていたが、私はそれで一向に構わなかった。

アンティーク調の喫茶店を自分の力で開くこと。

これだけが私にとっての目標であり、絶対にやりとげると決めたことだった。

近所から募集して幾人かを雇い、メニュー開発や資金繰りは自分でこなして軌道に乗せてはみたものの。

どうも歯の奥にひっかかったような感覚が抜けないでいたのは、甥っ子が気にかかっていたからだろう。

ふと、新年の親戚の集まりで見かけたことを思い出す。

酔っ払いながらも観察して思ったことは二つ。

ここ数年、妹とは目も合わせない様子がどうしても目についた事。

もうひとつは、聞く限りやりたい事に対する具体性が見えてこなかった事。

一昨年も去年もそんなハッキリしない様子だったのが気に障ったのかもしれない。

一度気になるとダメだったので、姉に会って理由付けをして、すぐ中学校に足を向けた。

姪のほうは部活に一生懸命に取り組んではいるものの、不機嫌そうな顔を隠そうともしない様子だった。

ムッツリしていて誰とも会話する気がないように見て取れたので「ムッツリスケベ」とからかってほぐしてやったが。

聞く限り真面目に取り組んでいて、問題はなさそうだった。

しかし、問題は甥である宗司のほうだった。

姉に聞く限りではイジメられていたらしく、一年の頃からずいぶん心配していたと聞かされた。

無理もない、とは思う。

後ろ暗いこともないのに好きな事をしていてそれを非難されていたというのだから、聞いているだけでも気分が悪い。

宗司がいくつもの賞を取っている事に対する嫉妬なのか、丁度良いからだったのか。

それはイジメを主導していた人物にしかわからない。

いずれにせよ直接その被害を被った宗司自身がどう思って、何を考えているのかを確かめる必要があった。

すぐに事務と教師を鍛えたセールストークで丸め込んで、いざ美術部に着いてみれば。

なんとくたびれた中学生だ、と思った。

トンと押せばそのまま倒れて起き上がってこなくなるのではないかと不安になるような儚さがあって。

どうしたらいいか困ったような、というよりも後輩と一緒に考えるような。

先輩風を吹かせるというよりは隣で悩む同級生のように考え込む。

そんな甥っ子の姿があった。

よっぽど衝撃的な経験を積んだのか、私から見ても驚くほど落ち着いていながら。

やっている事はといえば支離滅裂で破綻しているとも分析できてしまい、自分の観察眼をほんの少しだけ恨めしくも思う。

他人の事を気にして、自分の事をどこか他人事のようにおそろかにして。

そのわりにどうすれば解決するのか、みっともなくもがいていて。

自分のことがわかっているようでわかっていない。

あるいは、古い傷跡を見ないようにしているのかもしれないとも思った。

もっと効率よく出来ないものかと思案してふと奥を見ると。

後輩らしき女の子がこちらをじっと見てきていて、何か書いたメモ用紙をあーダメだなんて棒読みで言いながらポイとこちらに捨ててきた。

苦笑しながら意図を汲み、拾ったメモを読み込み、しばし考える。

前述したが、やりたいことは全部やる。

これは自分の中での決め事だ。

この子達に出来ることはなんだろうか。

この不器用な甥っ子に必要なことはなんだろうか。

転んでもタダでは起きないための私にとってのメリットは何か。

部室の様子をみて、考えて考えて、よしと立ち上がってついに宣言する。

内容にお墨付きをもらって、ついでにくしゃくしゃになったメモに書き足しをして。

投げた子にだけわかるようこっそり机に置いて部室を出た。


私のようになるなよと言う事は簡単かもしれないが。

それが具体的にどういう意味であるのか、まだこの子にはわからないかもしれない。

私になら出来る方法で、私だけのやり方で伝える事はできるだろう。

そのために上手にやりくりしていく術を身につけてもらわなくてはならない。

不器用な甥っ子と心配性の姉のためにも一肌脱いではやるが。

転んでもタダでは起きるまいと打算をあれこれ脳裏に描きはじめた。

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