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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
中学生時代[二年生]
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『嘉瀬 宗司君へ』

まずは、こんな形にしてしまった事を謝らせて欲しい。

私を描きたいと言ってくれた事はとても嬉しかった。

頑なに君が自分の絵を誰かに見せる事に怯えていたのには理由があると、勘が告げていただけに。

ハッキリとした事は終ぞ聞けずじまいではあったけれど、君がそれを克服しようと。

あるいはそうした苦い思い出を断ち切るために、私に相談してくれた事がとても嬉しかったんだ。

だけど、私の家はあまりにも複雑で、雁字搦めだ。

悪意や嫉妬にまみれた実に意地汚い連中ばかりだ。

今日から私はこの学校を去る。

卒業と同時にその枠組みから外れてしまう。

君がこれを読む頃にはきっと、家の連中が私の卒業祝いと言う名目で手ぐすね引いて待ち構えているだろう。

これまでとは違う、学内の友達では済まない。

不愉快きわまりない下種の勘繰りや色眼鏡で見られる事になる。

そうなれば君はきっと、自分の意志に関係なく『柊美千留と関係がある』と言うことを学外で公にされる事になる。

おのずと意志に関係なく巻き込まれる事になるだろう。

それは私にとって業腹だ、不慮にしろ君の自由を取り上げるような真似をしたくない。

だからこうして手紙を残す事にした。

直接言えない事を許して欲しい。


君はきっと怒るだろうね。

相談したのだから、貴方も腹を明かせと。

それくらい僕にとって何の妨げにもなりえないと。

でも、君自身のの口からそう言わせてしまう事自体を避けたいと思ったんだ。

この二年、君はとても強くなったと思う。

腕っ節がどうこうとかではなくて、心が強くなった。

同時に、誰かに優しくする事も出来る。

家の事がなければ私だって自慢していたに違いない。

頑固者で孤独な偏屈者にはもったいないくらい、出来た後輩だと。

だけど、周りの環境がそれを許さない。

自分たちがそれでいいと思っているのに、言っているのにそれを許さない圧力がある。

それに君を巻き込まないためにはどうすればいいのか、卒業が迫るにつれずっと考えていた。

時折読んだ本の内容が飛んでしまう事もあったくらいさ。

それくらい、解決策に悩んだ。

もっといい方法があるはずだと。

もっと丸く治められるのではないかと。

でも、世の中そんなに上手くは出来ていないね。

結局考え続けてズルズルと引きずって、当日を迎えてしまった。

最後の日に最後の手段として、手紙を残すほかなかった。

あんなに静かで美しい日々をなかった事にしてしまうのは、私も悔しい。

でも、今の私には手段も力もない。

ましてや君にそれをさせるわけにもいかない。

だから、最後まで君の先輩であった事を、胸にしまって置く事にした。

別に弱い所を見せたくなかったとか、そういう事ではないのだけれど。

一昨年の私と同じように。

美影くんの先輩になった今の君になら、わかってもらえるだろうか。


この二年、本当にいろんな事があった。

最初は新入生とは思えないほど傷ついて、達観していた君をみて驚いたものだ。

だけど、君と言う人を観察させて貰って、貴重な想いを知ることが出来た。

およそ子供らしいことが出来なかった私にとって『夢中になれる娯楽』とはどういうものか。

そんな光り輝くような想いの丈を、君を通して知る事が出来た。

今だからこそ言おう、ここでしか言えないからこそ書き残そう。

君は、私と言う先輩がいて幸福だったろうか?

せいぜい目の上のたんこぶと思われないよう努めては来たつもりだけど、直接聞けないと心配だね。

迷う事が多くて、困ったような、仕方ないと諦めた様な笑顔ばかりしていた君だけれど。

最近はそういう複雑な笑顔も減ってきたように思う。

きっと君にとって、大切なものを当たり前に大切に出来る場所が作れたって事なんだと思う。

そのきっかけが私であったなら、嬉しいのだけれどね。


最初こそ意地の悪い質問から始まった共同生活ではあったけど、今年こそその美術部は君のものとなる。

どうか、その場所でこれまでと変わらない、それどころかもっと美しい絵を。

どこまでも君らしく自由に描いていて欲しい。

そのためにこの部屋の鍵を君に預けていくよ。

顧問の先生にも了解をとってある、どうか役立てて欲しい。

でもこれは私の願いにすぎないから、筆を折るも続けるも君の自由だけれどね。

だけどもし、まだ絵を描き続けたいと思ってくれているのであれば。

まだその胸の中に灯火が残っているのなら、最後の助言を残したいと思う。

君はもっとワガママを言っていい、もっと自由に描けばいい。

周りの人間が何を言った所で美しいものは美しいし、醜いものは醜く『成る』ものだ。

君が美しい気持ちで書き続けてくれれば、必ずそれがカンバスに現れてくれるだろうと確信している。

いつか、私の目に再び君の作品が飛び込んでくる事があるだろうと思っている。

その時私は君の作品を直視出来るかな。君は自信を持って作品を見せてくれるかな。

心配事は尽きないけれど、悪い事にはならないはず。

だからきっと、大好きだったキミと再び会えるその日まで。

さようなら、宗司くん。


柊 美千留より。

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