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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
中学生時代[二年生]
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機会

吐く息がすっかり白くなってくると悩ましいのは、寒さで手がかじかむ事だ。

思ったように線を引きたくても体が凍えてその通りに動けない。

前回提出した作品は結局かすりもしなかった。

無理もないなとは思う。

僕の中で納得できるレベルではあったけれど、それはどこまでいっても全力で取り組めていなかったことへのいいわけに過ぎない。

「スランプですね」

望月さんにバッサリと斬って捨てられてしまったが、その通りなのでぐうのねもでない。

それだけではなくて、このごろ描こうと思ったものがおぼろげにしか思い浮かばず。

思い浮かべてはどうだったっけと資料やモチーフに使った物を見直すという状態を繰り返していて。

何が原因かわからないままとにかく手を動かしている、そんな状態だった。

「珍しい事もあるものですね」

「そうでもないよ、よくある事だから」

手探りの状態のままだったけれど、それでいいと思ってもいた。

「全然慌てないんですね」

「うん」

コトンと筆を置いて、しかし帰り支度をするでもなく。

水筒からお茶を取り出して、一息ついて。

カンバスから離れる。

「思ったように描けないって事は何か原因があるんだろうけれど」

「けれど?」

「それがわかった時にはきっと、もっといい絵が描けると思うんだ」

「そんな保証、どこにもありませんよ」

そうだろうな、と思う。

僕も根拠はない。

思いつくままに描いて、好きなように筆を振るってきただけだから。

僕の考え方と描き方はあくまでも感性のものだ。

理詰めではない以上、言葉にならない事や変換しづらい雰囲気は伝えるのに困る。

「そうだね、描けない時間に無理をして描いてもしょうがないと思うから」

ノートの端にらくがきをしてみて。

資料用に置かれたまま使われた試しのない地球儀をくるくると回してみて。

図書館に本を返し、また別の本を借りて。

絵を描くこと以外をいつものように過ごして。

その端で考える。

どうして出来なくなったのかな、と。

描きたい物はなんだったのか。

それははっきりしている。

自分が今までやってきたことは、常に自分がやってみたいと思ったことを詰め込んだものだった。

表現して見たいと思ったのは、自分が頭の中で描いたものだった。

それなら、出来なかった事やわからなかった事が唐突に開ける瞬間はどこにあったのか。

考えて見れば、先輩からの助言を受けた時が大半だった。

父の何気ない一言だったり、自分の足で探して発見したこともあったけれど。

でも、これは何かが違う気がした。

はっきりとはわからないけれど、これは先輩に聞いても解決しないことだろうと半ば確信していた。

「何か気づいたことがあれば、すぐに治るよ」

「そういうものですか」

「そういうものですよ」

一度言ってみたかったんです、という望月さんはようやく厳しい視線をやわらげてくれた。

「先輩がご自身で言うならそうなんでしょうね」

気にしないよう努めてくれるのか、それとも単に集中したいのか。

望月さんは自分の絵を描き始めた。

暗黙のルールを聞くでもなく実践する望月さんには頭の下がる思いで。

机の上に置かれたパンフレットを読み直す。

誰に答えを聞くでもなく自力で解決したいからそうするのだと。

決めた上で、筆を止めた。


家に帰ってからもモヤモヤとしたものは続いていて。

そのくせご飯だけはしっかり食べているのだから、人間の体と言うのは正直に出来ているもんだなんて。

とりとめもないことを考えて、今までのノートを見直してみる。

思えば小学生の頃に描き溜めた絵はたくさんある。

稚拙で、画面にあるものをただ捉えるだけの模写ばかりだったけれど。

何かヒントでもないかと思って、一冊ずつ開いて見て。

とある絵で目を止めてしまった。

目を奪われたと言うほうが正しいかもしれない。

とっさに筆をとって、その場にあった白紙に描き込んでいく。

それは霞をつかむような感覚で、すぐに霧散して筆を止めてしまったけれど。

もう一度その絵を見て、それでダメならもっと他の絵を見て、どんどん白紙の中身を描き足していく。

次の日もその次の日も部室に顔だけだしてすぐに帰り、ノートを見ながらピックアップしていく。

「出来たかな」

それは荒野に降り立つ少女で。

元は文明が破壊され荒涼とした世の中をバイク一台で巡る、独特な世界観が好きなアニメのひとつだった。

ほとんどの人がいなくなった世界で、学校の制服を私服代わりに駆け抜けて。

出会いと幾多の危機を機転と決意で乗り切る少女の強さが羨ましくて、ずっと見ていた番組だった。

それを、あらん限りの緻密さで描いて。

夢中になって描き終えて見れば、今までのものよりずっとよく出来たと思う。

「どうしようか」

タイトルもそうだけど、これを誰に見せようかと考えている自分がいて。

その少女の顔が柊先輩にどこか似ているかもしれないと思ったのは。

これを描いたこと自体を忘れてしまうほど、ずっとずっと先のことだった。

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