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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
中学生時代[二年生]
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心理

後から思えばあの時どういう意味だったのか、はっきり聞き取れたと口にして。

望月さんに確認を取るべきだったかもしれない。

でも、それを聞いてしまうのはずるいのではないかと思ってしまって。

結局聞けないまま、天は無言で星をくるくると回すだけだった。


後日部室で筆をふるいながら、思う。

これまでのことを振り返って見て、どうだったのかなと。

小学校の頃に絵を描くことを馬鹿にされ、中学に上がってからもそれは変わらなくて。

誰に迷惑をかけるでもなくひっそりとありたいと思っていた所に、先輩から手を差し出され。

その結果、この部屋と、自室だけでなら絵を描く事に集中し続けられた。

最終的には運がよかったんだろうと思う。

イーゼルとカンバスがあって、静かな環境は出来上がっていて。

絵を破られたり、サッカー部をはじめとした幾人かの面子に暴力を振るわれたりはしたけれど。

何があっても手放さないつもりで、強くあの部屋で絵を描く権利を握り締めてきた。

やってみたかったこと、試したかったこと、面白そうだと思ったこと。

次々にやってみて、色んな発見を経て。

この先輩からいくつのものを貰って来たんだろうか。

最初の作品を作った時から、ずっとこの先輩は聞きたい事に答えてくれた。

少しだけ考えては、必ずしも望んだ答えにはならないよう。

しかし、必ず尋ねた相手のためになる答えを出してくれた。

鑑賞専門だなんて言っていたのに、僕や望月さんの質問に真摯に向き合ってくれた。

「どうかしたかい」

「いいえ、なにも」

まだ暑いのにそうも熱い視線を投げかけられてはね、と冗談交じりに先輩は言う。

この人はいつもそうだ。

静かに本が読めたら後の事は頓着しない、という割に面白そうなことには首をつっこんで。

理不尽に晒されていた僕を助けもしてくれた。

大抵「『情けは人のためならず』とはあくまで自分のためになることだからね」と誤魔化されて。

素直に感謝の意を受け取ってはもらえない。

僕はこの人にどういう想いを向けているのだろうか。

感謝してもしきれない事だけは確かだろう。

でも、その先は。

あったとして先とは何処に向けてだろうか。

考えても考えても答えは出そうになくて、大声で叫んでしまいたくなる。

ワーっと叫んだところで何も解決しないのだろうけれど。

すっきりはするんだろうなぁと思いながら筆をふるって。

いまひとつぼんやりしてしまう事にガッカリしてを繰り返す。

先日からずっとそうだけれど、いまひとつ定まらない気持ちを絵は正直に映し出していて。

目の前にあるものをデッサンしているはずなのに輪郭がはっきりせず、全体が崩れる。

うーん、と困った顔をする僕を心配してか望月さんがこちらをチラチラと見てきてはいたものの。

結局彼女が声をかけてくることはなかった。

ありがたいことだけれど、それに甘えてもいけない。

そう思って、心配をかけないように頬を叩いてしゃっきりしながら筆を再度手に取る。

どうにかデッサンは自分の中で及第点を出して。

ガタリ、と席を立つ。

「帰るんですか」

望月さんが言う。

いつも強気で、納得意かない事にぐいぐいと行く彼女の気遣わしげな視線が、今は痛かった。

「そうだね、今日は帰るよ」

調子でないなぁ、なんて笑って誤魔化して。

先輩にもひとこと、動悸を抑えて声をかけてから部室を出る。

思考がぐるぐると回り続けていて、何も解決しないと思った故に帰宅しようと歩く。

寒くなってきて、冷えたリノリウムを小走りでかけぬけて。

靴箱から校庭をみればサッカー部が少人数で練習試合みたいなものをしていて。

篠宮君が点を入れたところだった。

思えばまだ彼らと僕個人の問題も根本的には解決していない。

今はまだ、関わり合いを消極的に削ってこなしているだけだ。

妹にだって、嫌われて無視されたままだ。

こちらは間に入ってくれている両親ですら手に余らせている。

先生が理性的に間に入ってくれるだけ学校での問題の方がマシとすら思える。

思えば、来年はあの子も中学生になる。

僕が三年生で、一年生だ。

僕の妹だと知られればどうなるか。

望月さんの身に起きた事を考えれば、一時よりはマシかもしれないと思う。

誰もが望月さんのようにやり返せると言うわけでもないし、妹も同じように上手くやれるとは限らない。

何よりあの子がどういう仕打ちを受けたのか、詳細を知らない。

僕のせいであったが故に聞きづらく。

また、両親からも何も言わなくていいと慰められた。

これでいいのだろうか、という思いはある。

こんなことになる前は両親が居ない間あの子の事をサポートして、それから絵を描くようにしていた。

今は関わらせてもらうことができなくて、それどころか拒絶されてこのザマだ。

腫れ物みたいに扱われるのはありがたいし助かる反面辛くもあるから。

あの子にこれ以上そんな思いをさせるべきじゃないと、そう考えている。

僕がやるべきことはなんだろうか。

僕に出来ることはなんだろうか。

うんうんと唸り続けて頭だけはぽかぽかと暖まっていて。

寒くなり始めた通学路は、悩みの数に対して短すぎると思った。

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