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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
中学生時代[一年生]
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空虚

最初は、なんで?と思った。

誰がやったのかは考えても仕方ない。

どうして?というのが最後に残った。


しばらくしてからやったことは、破られた作品に布をかけて立てかけなおす事だった。

それまで完全に思考が停止していたし、どうすればいいのかもわからなくて。

結局いきついたのは「諦めた」という事実だけだった。

すとん、と席に着けばもう立ち上がる気力もなくて。

奇妙なまでに足に力が入らなかった。

途方に暮れたまま、布をかけた作品を修復することもできず、さりとて描き直す気力も沸いてこない。

今度こそ、もうダメだと心が完全に折られていた。

「うっ…」

知らず、涙が出ていた。

僕がやっていた事は、そんなに人を傷つける行為だっただろうか。

僕の趣味は、そんなにも人に対して恥ずべき事だったであろうか。

僕の描いていた絵は、それほどに醜いものであっただろうか

僕と言う存在は、そんなにも惨めで目障りだったのだろうか。

そんなことばかりが思考をぐるぐるとして、抜け出せなくなっていた。

隣で静かに読書をしているであろう先輩の邪魔をしないよう、静かに。

声を殺して、泣き叫びたい気持ちを押し留めて。

静かに、静かに悲しい気持ちを広げていって、先輩に声をかけられる前に部室を出た。

誰かに声をかけられたような気もしたけど、もうどうでもよかった。

学校の隅ですら自分の居場所を否定されて。

家では自室だけが心安らぐ場所で。

ふらふらと靴をはき変えて、荷物を持たないまま虚ろな気持ちで家路に着いた。

だから僕にはわからなかった。気がつかなかった。

そもそもなんで部室が開いていたのかも。

中にいた先輩が険しい表情をしていたことも。

部室の前で声をかけてきたのが篠宮君だったことも。

虚脱しきった僕にはどうでもよく、またなんら疑問に思えなかった。

たまたま休みだった父は、絵どころか荷物すらないまま帰宅した僕に何も言わなかった。

後から聞いたけれど、母は何か聞こうとして父が止めていたのだと言う。

妹はわからなかった。

ただ、ざまあみろくらいは思われたかもしれない。

何の感想もないまま食事をして、空虚なまま眠りについて。

また朝がやってきてしまったと、後悔したまま学校に行くだけとなった。


学校内では噂になっていなかったのが救いだった。

それでイジメがなくなるわけではなかったのでいつもと変わらなかったが、荷物を部室に置いてきてしまっていたため、なんの用意もないまま授業に出てきている僕を見てさすがに周りは困惑していた。

部室をあけてもらい荷物をとってはみたものの、勉強に身が入るはずもなかった。

どうしてあんなことになっていたのか、とか。

誰がやったのか、とか。

そうした原因が何処にあったのかなどの分析をするような気力も考えも及びつくことなく、一日が過ぎる。

何かを考えるような気力もないまま、機械的に体を動かして、無感情に授業をうけて、そのまま帰る。

帰ったら自室でただただ座って夕飯までの時間を過ごし、食べる作業をして寝るだけ。

そういう生活が数日続いて、それからようやくここ数日の間に全く部室に行っていなかった事に気づく。

「あぁ」

描いた絵は無駄になってしまったが、カンバスやイーゼルはそのまま使えるはずだろう。

特別教室棟の別の位置にある美術室や、美術の先生に渡して有効利用して貰うほうがいい。

ふとそんな考えが頭を過ぎった。

投げやりな気持ちで部室を訪れてはみたものの、珍しくカギがついたままだった。

先輩がここにいないと言うことでもあるが、珍しい。

来る時はだいたい居て、何がしか本を読んでいたものであるが。

「?」

まぁいいか。

先輩が居るときに尋ねてみて、それからでも遅くはないだろう。

アレは元々資料室のもので、美術部のもので、現行はその主である先輩のものであるはずなのだ。

どのみち許可が必要になる。

荷物を肩にかけなおし、来た道を戻る。

今度は校庭ではなく廊下に彼が居た。

「…」

何か、言いたげな瞳がこちらを捉えている。

サッカー部に入ったのだろうか。ユニフォームを着ていて、今から練習だろうにこんな所にいる。

はやく練習に行けばいい。

そう思ったけれど、口にはしなかった。

彼と口をきくつもりも、きいたところでなにかが解決するはずもない。

そう再確認して彼の隣を通り過ぎた。

校庭に出ればそろそろ桜は散り始めている。

なんと命の儚いことか。

短い命を終えて散っていく様を見て、自嘲した様な笑みが自然とこぼれた。

情けない自分に向けての笑いだったのか、何をやっても上手く行かない事への皮肉の笑みだったのか、自分でもわからない。

久しぶりに笑ったなぁなんて、とりとめもない事を考えながら校門を出た。

果たして、ここに来てまで絵を書く必要はあったのだろうか。

ここに自分が来ること自体、必要だったのだろうか。

父も母も何も言わず、妹からは毛嫌いされ、教室に居場所はなく、ようやく得た部室の中ですら安心はない。

どこにいたらいいのか。誰の許しを得れば安らげる場所を持てるのか。

わからない。

ただただ、わからないまま下校した。

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