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ヲタクなんてそんなもんだ  作者: PON
高校生時代[三年生]
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表明

人間というものはとても不便に出来ている。

やりたい事と出来る事がちぐはぐであるからだ、と誰かが言っていた。

口にしていたのは志乃さんだったか、祖父だったような気もする。

考えていたら会いに行きたくなったので、新年のあいさつついでに出かける事にした。

決して描いている絵に詰まったからとかではない、はず。

行ってみたいなんて沙月さんがボソリとこぼしていたけど。

その場合どういう勘違いがうまれるのか考えてみてと返したら、ぼんと音がしそうな勢いで顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

口が過ぎたのだろうか、志乃さんが厨房で大笑いしていた。


自力で探して訪れたのは初めてだったけど、いざ着いてみれば子供のころに見た景色と同じ軒先がそこにあった。

どたんばたんと聞こえてくるのはお酒を飲んだ祖父が祖母にでも追いかけられているのだろう。

正月も飲みすぎると同じ音が家の奥から聞こえてきたものだ。

逃げ延びた祖父が僕を盾にするのはそれから5分後のこと。

「久しぶりじゃないか、何年ぶりだ」

これ幸いと怒られるのを引き延ばす事に成功した祖父が呵々大笑している。

多分僕が帰ってからまた追いかけっこになるだろう。

「電話でやりとりはしてたじゃない」

「直に来るのと声を聞くだけじゃ違うのさ」

今は文字だけのやり取りでも十分なんだろうけどな、と。

ちょっと寂しそうな祖父は言う。

「声を聞いていても不安になる事はあるもんだ、お前がいくら強くなったってな」

「強いってわかるものなの」

強くなった覚えもなければ、そんな自覚もないけれど。

祖父は自信満々で、そういうところは母と一緒だ。

「生きた時間の数だけ人間を見てきてるからな」

しばらく軒先で他愛もない話をする。

庭を猫が横切り、蝶が止まり、時折祖母がお茶をもってきてくれる。

「それで、何か言いたいことがあるんだろう」

そんな察しの良さまでそっくりなのは正直困りものではある。

けれどせっかく切り出してくれたのだしと、お茶のお代わりを持ってきてくれた祖母も引き留めて話をした。

これまでの事、これからの事。

さして長い時間ではなかったけれど、整理しながらあれもこれもと話した。

「面白そうじゃないか、やってみろ」

祖父は一言、祖母は何も言わない。

驚きはない、志乃さんも同じ事を言われたそうだから。

「宗司はきっと、何者になりたいのかを決めた一人前になったんだろう」

「プロって言うにはまだまだだよ」

「いいや一人前さ、運もいい」

運だけで絵が上手くなったわけじゃないと返そうとして、怪訝な顔を察した祖父がそうじゃないと止める。

「やりたい事と出来る事が一致するなんて、今の世の中じゃそうそう出来るもんじゃない」

やりたい事で食っていけるだなんて、滅多に出来る事ではないと言う。

少なくとも僕の身の回りはやりたい事で手いっぱいの人ばかりだったからだろうか。

「無自覚だった間は足を引っ張る奴がたくさんいただろ」

いじめられた事をそうだと言うなら祖父の推論は正しい。

悪意をもって接された事なんて珍しくも何ともなかった。

ただただひっそりとやりたい事が出来ればいいとも思っていたし。

今ならどうしていじめられていたのか、確証はなくとも推測は出来る。

「本当の意味で勤勉な奴はめいっぱいやりたい事を好きだと言って、沢山の物をまねぶんだ」

祖父は学ぶではなく、真似ぶと口にした。

それなら覚えはある。

泥くさいかスマートかでかかる時間こそ予想はつかないものだがと付け加える祖父は笑っていた。

祖母もこの言葉には声をあげて笑っていたから、きっと実体験が基なんだろう。

「いくらでも失敗すればいい、ほんとは悩む時間ですら惜しいんだぞ」

人間の一生なんてチンケなもので、世の中には一生かけたところでわからない事ばかり。

命に関わるものでなければ何度でも失敗して、何度でも家に泣き付けばいいと言う。

「失敗する幸せもあるんだからな」

それがどういう意味なのか。

僕が理解できるようになるのはきっと、もっとずっと先の話だろうし。

わかったところでそんな頃には祖父はこの世にはいないかもしれない。

それでも言葉の重みだけは確かに伝わったから、頷くことはできた。

「しかし、志乃に似てきたな」

ほんとは志乃の子供かといたずらっぽく聞いた祖父の首がガクンと落ちた。

ジョークとしては確かにきついがお盆で殴るのは勘弁してあげてほしい。

「わざわざ俺に許可なんて取らなくていいのにな」

「頼りにしてるから、確証が欲しいんだよ」

真っ当に生きて、真っ当に暮らして。

きっとこのまま同じように真っ当に朽ちていくであろう祖父だからこそ聞いてみたいんだと思う。

仕事という物から離れて久しい祖父にそうした相談事がもちこまれる理由はそこにある。

「こういうところはじいちゃん譲りかもしれないね」

「嬉しい事を」

二人してへへへと笑う。

志乃さんがどうしてわざわざ祖父に「けじめ」をつけてから巣立ったのか、今ならわかる。

僕にもそれが必要だと思ったから、こうして自分の夢を語りに来た。

「じゃあ、行ってくる」

「たまには顔見せろよ」

二人と約束して、すっかり日の沈み切った星空のもとを歩き出す。

別の絵を描いてもいいかもしれないが、今なら中断した作品がもっと色彩鮮やかに描けるに違いない。

そう確信してもう一人、けじめをつけなくてはならない相手に電話をかけた。

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