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第一話

 私こと望月ミチルは友人に残念な子(・・・・)、と評価されることがよくあった。それこそ小学校時代から。

 私自身はそんなことはないと思っているんだけど、気のおけない仲になった友人たちからはずっとそう言われ続けている。ミチルはいろんな意味で残念だって。

 みんながみんな、初めは『ミチルは容姿かおもいいし、性格も明るく社交的。その上超がつくほど家庭的で理想の女の子』なんて感じの褒め言葉をくれるんだよね。

 けど最終的に『それなのに、どうしてこうも残念なの?』なんて言われる。

 もちろんそれが私という人格に対してのことだったなら、まだ殊勝に受け止めもしよう。けどそうじゃない。友人たちが残念だと言うのは、私の恋愛観についてなのだ。

 恋愛に全くもって興味がない私が、引く手数多なはずなのに、なんて評価を不満に思うのも仕方ないことだと言えよう。いや、そう言えなかったとしても、私は認めない。うん。

 確かに友人たちの言うように、たぶん私は人様から不快に思われない程度の容姿だとは思うし、人と話すのも好きな方だと思う。初対面でもそれなりに会話続けられるしね。けどそれって当たり障りない人間関係を送るためには必須のことでしょ?

 それに暗くしてるより明るくしてる方が好きだから、普段から笑顔を絶やさないようにもしてる。これだって、やっぱり当たり前だと思うんだよね。他にも料理も、お菓子作りも好きだし、掃除も洗濯もお手の物だと思う。けどそういうの全部、止むに止まれぬ事情からするようになったことであって、私自身が率先してやろうと思ったことじゃないんだよね。

 だってさ、ご飯を作ってくれる人がいないなら自分で作らなきゃ飢えることになるわけだし、掃除しなきゃどんどん部屋が腐海の森になっちゃうわけでしょ?

 できるなら毎食美味しいご飯を食べたいし、キレイな部屋で生活したいって思うのは人として当たり前のことだよね?

 けど代わりにしてくれる人がいない私の場合、人間的な生活を送りたいって思ったら、誰かに頼らず自分でしなきゃダメだっただけってこと。それが評価に繋がってるんだとしても、正直なところあんまり嬉しくない。

 だって私が得意とするものっていうのは、実用重視なのばっかりなんだ。

 料理だって、カフェとかで出てくるようオシャレーなのじゃなくて、定食屋風な見た目度外視味重視のやつだし、掃除だって流石にたすきがけはしないけど、ハタキをかけたり茶殻を撒いちゃったりするようなやつだよ? 私ができることってたいていが、おばあちゃんの知恵袋的な手法ですがなにか? っていうようなものばっかりなんだよ。

 こういうのってさ、どっちかっていうと所帯くさいっていうんじゃないかなーって私は思うんだけど、友人たちはみんな口を揃えて言うんだ。

 私の得意なものたちは、みんな『いいお嫁さん』の定義に適ってるって。

 つまり私自身は全く自覚はないけど、どうやら私は端から見たら『モテる要素』というものが山のようにあるらしい。迷惑ですが友人たちの真剣な目を見たら、それが嘘だとも思えなくって認めるしかないんだろうね。うん、ホントに迷惑。

 だって私自身にそんな自覚はなくて、ごくごく自然体でいるつもりなんだもん。好きなことを好きなようにしてるだけ、しなきゃダメなことをしてるだけ──なのに、それがどうしてそんな評価に繋がるんだろう。うん、わかんない。友人たちと思考回路が違いすぎて、もう何が正解なのか私にはわからないね。

 ていうか不思議なんだよね。

 私はさ、中高と女子校にしたんだから、同級生はみんな女子なわけでしょ? そんなみんなは、私が同世代の男の子と一緒にいるところなんて見たことないはずなんだよね。なのにそう言い切れちゃうほど、私は残念なのかなあって。所帯臭さは出てる自覚はあるんだけど、残念てなんで?

 学生時代なんておじいちゃん先生以外なら、どっかのお店の店員さんとかくらいしか近くにいなかったんだよ? しかも事務的な会話にもならないようなことしかした記憶ないんだよ? それくらいしか接触してなかったのに、なのにもったいないとか言われちゃうのってどういうこと! って毎回言われるたんびに思ってた。今も思ってるけど。

 あの頃の私は、確かに男の子を避けようとまでは思ってなかった。けど女子校だったから接点がなかったからそうしてなかっただけで、あえて近寄ろうとはしてなかったんだ。

 男女交際だとか、それの前段階だろう恋バナとか、そういういろんなことが面倒だったから、話題にも乗らなかったし、私からも話題を振ることはなかった。それが悪かったということなの?

 やっぱり友人たちの思考回路が、こと恋愛が関わるとわからないよう……。

 まあ、それでも今の歳になるまで中高一緒の友人たちとは仲良くやってると方だと思う。今はもう、恋だの愛だのの話題を私にはそんなに振ってこなくなってるしね。うん。やっと私が恋愛に全く、一ミクロンも興味がないってことを理解してくれたようだ。まあ、それでもたまにはそういう話題を振られるけど、それはだいたい合コンのサクラ要員でだけだし。うん、毎回タダご飯を美味しくいただいてますがなにか? タダご飯を食べるだけ食べて、一次会で帰りますけどそれがなにか? だって場を賑やかすっていうか、お目当ての相手を得るために、周囲の女子の牽制用に呼ばれてるんですもん。それで十分でしょ? って開き直ってますがなにか?

 だって月に二回もタダご飯が食べられるなら、興味のない会だったとしても我慢くらいするよね? そういうものだよね? というか私はそういうことなんだけどさ。

 まあそんなわけで、今の私に接点がある異性っていうのは、やっぱりコンビニの店員さんに、合コンで一期一会で会うような人だけ。もちろん番号交換とか、なにそれ美味しいの? てな感じです。興味もない、知らない人のアドレスを保管しておくような趣味はないのです。

 そんな風に恋愛に興味もないけど、合コンには月二で行ってる今の現状。うん。学生時代より、どうにも異性遭遇比率が高いけど、それもまあ仕方ないよね。一応これでも社会人だったんだし。

 ああ……学生時代はよかったなあ。

 女子校だったから、右を見ても左を見ても女の子しかいなくて、唯一接する先生もおじいちゃん先生だけだったし。あの頃が一番恋愛恋愛言われてたと思うけど、一番男の子に近寄らなくて済んでたんだよねえ……。

 今の現状を思い出して、あの頃に戻りたいなんてちょっと思っちゃう私は、やっぱり学生時代同様に恋愛に対して夢も希望もなければ興味もない。例え合コンに月二で参加していようとも、それは変えようがないのだから仕方ない。

 よく男の人は『結婚は人生の墓場だ』なんて言ってるけど、それは私もそうだと思うんだ。

 確かに恋愛して、結婚して幸せになることもできるだろうけど、でもそれって自分も努力して相手も努力してできることだと思うんだよね。だからやっぱり私には無理だと思うんだ。だって結婚したいって微塵も思ってないしね。そんな状態で結婚したとしても、それを継続させたいなんて思うわけもないんだから。

 何が言いたいかというと、そんな私的には友人たちからの評価はやっぱり不本意なこと以外の何物でもないわけだってことです。

 だって褒められたような感じで始まっても、結局枕詞が『残念な子』ってなるんだもん。納得できないよね。

 だいたいおかしくないと思うんだよね、私の考え方って。

 ただちょっと()恋愛主義で、ちょっと()結婚主義なだけ。

 しかも自分がしないってだけで、人にまで強要しないのに、友人たちはそれを強要してくるのですよ。そこもちょっと不満なところ。

 まあ友人たちからのは概ね親切心からだし、今はそう多くないから気にはしないでいるけどさ。

 でも小さな親切大きなお世話っていうじゃん?

 私はただちょっと世間一般の女子と興味の向く先が違うだけだし、日本が一億総恋愛主義なわけじゃないんだもん。私が恋愛に興味なくてもなんの問題もないはずじゃない?

 まあ、一億総恋愛主義な日本だったんだとしても私が恋愛することはないんだけど、そこはそれ。私としては、主義主張ははっきりしっかりしたいのです。

 私は恋愛しようと思っていないんだから、残念な子じゃないんだよって。

 まあそれもたいして聞いてもらえてないんだけどね。うん。未だに合コンの後には言われてるからね。

 ていうかさ、恋愛事に興味のない私に「今日のメンツで好みのタイプがいた?」なんて聞いてくる方が間違いでしょ? 毎回おんなじ答えしか返してないのに。

 恋愛なんて一時的な気の迷いでしかないでしょ? そんな非生産的行為をしたら私は一生後悔すると思う。だから興味ないよって答えてるのに、それなのに毎回聞かれちゃう。うんジレンマ。でもタダご飯のためにこれからも参加はします。

 確かにさ、恋愛して、結婚してそれはもう幸せな家庭を築いてる人たちがいることは知ってるよ。友人たちの中にもいるしね。けどああいうのってきっと育ちも関係してると思うんだ。だからなおのこと私には恋愛も、結婚も無理。それを私は昔からわかっているのだ。

 私には幸せな恋愛も、結婚も、ましてや家庭生活も送ることは無理だなってことを、ただ漠然と感じるんじゃなくて、私自身しっかり把握してる。これは勘違いとかそういんじゃなくて、純然たる事実なんだってことをね。

 私がそんな風に一般的女子な思考から離れたことを思うようになったキッカケってのは、私の両親という存在があったからこそ。

 子供は親の背中を見て育つっていうけど……うん、両親はある意味いい見本だってことだよね。

 私の家はたぶん恵まれた家庭環境というものなのだと思う。一般論では。

 母は学生時代に起業して、一代で財をなした会社社長。世界中を忙しく飛び回ってる。

 とある商社を経営する家系の次男坊の父は、母の持つとあるバーのオーナーをしながら執筆業をしている。

 娘の私は有名私立女子校卒で、有名商社に入社した。

 ここまで聞くと、ホントに恵まれてるって言えると思う。

 けどそんなことはないんだよね。確かに世間一般からしたらたぶん裕福な部類に入るだろうけど、ただそれだけ。生活レベルがそこそこ高かったとしても、それが幸せに繋がってるとは限らないんだ。

 私は確かに経済的な面では裕福で幸せだったと思うよ。けど愛情面では普通よりかなり下の方だったと思ってる。なんてったって私には節目節目の家族写真ってものが一枚しかないんだからね。それも推して知るべしってところだと思う。

 もちろん父も母も私が小さい時にはそれなりに仲が良かったよ。

 けどそれが世間一般の夫婦としてではないことを、私は小学生の時には気づいたんだ。うん。当たり前なんだよね。だって私のすぐ側には『幸せな夫婦』の見本とも言える千鶴叔母さん夫婦がいたんだから。

 自分の家が、家族が少しばかり普通の家族関係ではないんだってこと。

 お金だけあっても、普通な関係じゃない家族じゃ簡単には『幸せだ』なんて言えないこと。それを私はまだ小学生だった時に知ったんだ。

 結構多感な時期にそんなことを知って、私が素直に結婚に、恋愛に前向きな意見を持てるわけがなかったのですよ。うん。それも道理だよね。だって見本になるはずの両親が実は仮面夫婦でした──なんてこと知って、なんにも感じないわけないよね。しかも私がデキたことで二人は結婚したはずなのに、それなのにホントに最初から仮面夫婦だったなんてさ。

 だから何回も友人たちから『残念な子』とちょっとばかり不本意な評価をいただきながらも私は自分を変えないで、それなりにそんな友人たちとも楽しく過ごしてきた。恋愛事が関わらなきゃ、みんな楽しい人ばっかりだったしね。

 そんな風に決意した小学生から時は流れて、私もつい最近22歳になった。ちなみに男女交際をしたこともなければ、キスすら経験はありませんがなんの後悔もありません。だって望むところだもん。けどそんな私も、世間一般からすると適齢期とらやに差し掛かってはきてるらしい。まあ、そんな世間なんてどこ吹く風だとやっぱり私は私らしく日々夢に向けて邁進してた(・・・)んだけどね。

 ここで宣言することでもないかもだけど、私の夢というのはポカポカのお日様の当たる縁側で、美味しいお茶を飲むおばあちゃん(お一人さま)になることなのだ。これは結婚に夢も希望もなくなった小学生からの変わらない夢で、そのためにかなり頑張ってきたって自負がある。主に貯蓄だとかでね。

 そう、どんな夢を叶えるにも必要なのは先立つものだということは小学生でもわかることでしょ? だから私は頑張ったのです。

 老後を過ごす場所を維持するために必要な先立つ物(お金)だとか、円滑な人間関係を手に入れるために重要な笑顔スキルだとかの諸々を、結構努力して手に入れてきた。嫌いな人でも対応できる鉄壁の笑顔(作り笑いともいうが)とか、スルースキルとかを鍛えてきたんだよね。でも社会人としてもだけど、これって一般生活でも結構重要だよねえ。

 そんな努力の甲斐あってか、対人関係はかなり良好に進んで、私のそんなスキルたちもかなり上達してた。もちろん貯蓄も、もうじき七桁に乗りそうなくらいには貯まったけど、それでもまだ十分じゃないからもっと頑張って貯めようと思ってたんだ。けどそんな私の計画に影がさしてしまった。

 培ってきた人間関係を、私の資金調達行動を壊す存在。それが会社に現れてしまったのだ。

 もっと上手く流せるスキルを磨いておけば良かったのかなあ、なんて後悔もしてみたけど、悪いのは私じゃないと思ってるから、それもあんまり長続きしないんだよね。

 でもそれも仕方ないよね、だって『お一人さま資金調達』という私の遠大な計画を崩したその存在ってのが、私に恋愛を迫る人間だったんだからさ。

 そう、私の目指す未来に向かって頑張るぞ──なんて意気込んでたんだけど、そうもいかなくなった。私は、私の目指す未来を自分で閉ざすことになっちゃったんだよね……。うん、わかってる自業自得だってことは。だけど言いたい。私はたぶん、悪くないんだー! って。まあ、今はそんな気力もあんまりないんだけどね……。

 だってお一人さまで、悠々自適な老後を送るんだって、もう小学生の時には決めてたんだよ?

 私は決めたそれを初志貫徹するつもりだった、ホントに。なのに道は閉ざされちゃって、正直燃え尽きちゃったんだよね。

 初めに決めたことを貫き通すって、意外に難しいかと思ってたけど、その人が現れるまでの私にとっては簡単なことだった。なのにそれができなくなっていろんなことにぶち当たったんだよね。や、もちろんその人が現れても、私の心は変わらなかったんだよ? けど初志貫徹ってホントは難しいことなんだなって思い知ったは知ったけど。

 私は高校卒業後から勤め出した会社をつい半年前に辞めた。自主退社ってやつです。正直頭に血が昇ってたといえば昇ってたけど、後悔は少ししかしてない。うん。少し……や、うん。たぶん少しだけ。後悔はないに等しいけど、それで別の悩みが生まれちゃったからちょっと断言できないかも。

 生まれちゃった別の悩みってのは、他の人にしたらたぶんあんまり気にならないことなのかもしれない。けど私にとっては死活問題。その悩みってのは『今後私はお一人さま資金調達をどうやって工面するのか』なんてことなのだ。仕事を辞めたことに後悔はないけど、これまで一定額貯蓄してきたのができなくなるわけでしょ? それが困るんだよね。だって計画が狂っちゃう。

 そんな風に私を悩ませるようになったのは、私が仕事を辞める原因となった、私に恋愛事を迫る上司さま(・・・・)が会社に現れたことが始まりだった。

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