邂逅
カイル達一行は旧友ハリーとの会食の翌日ロズエリアに無事入国し、ウライザという街で一泊した後にセントレイドとロズエリアの王都であり目的地であるローザを結ぶロディアル街道を南下していた。
比較的治安の良いアヴァロニアではあまり気にしてはいなかったが、ロズエリアでもコーマックらが特に荒らしているロディアル街道に入ってからは夜営の際は警戒するようになっていた。カイルやマリィが腕に覚えがあるとはいえ寝込みを襲われたのではどうしようもない。
ウライザを出て二日目の夕方、その日の移動を止めて街道から少し逸れた場所にヴィークルを停めてカイルが警戒用の結界を張っているとマリィが声を掛けてくる。どうやら商隊が街道を下ってくるのを見付けたらしい。
「御主人、御主人。なんか変なのがくるにゃ」
「ただの商隊だろ? ローザと横断道を結ぶ街道なんだからおかしくないだろ」
「違うにゃ、鉄の馬が周りにいるにゃ」
カイルが目を凝らしてみると確かに金属製の馬に騎乗したものが数人護衛しているようだった。
「ああ、あんなのまだ使ってるんだな。馬型のヴィークルなんて趣味丸出しじゃないか」
馬の代わりにとクリティアで開発された物で見た目は良いのだが、高価なのに暴走したりメンテナンスに手間が掛かったりとあまり評判も良くなく、オルダインで開発された二輪や三輪のヴィークルに直ぐシェアを奪われてしまった。
そういうこともあって現状敢えて馬型ヴィークルを使うのは金持ちの道楽でくらいなものだ。
実際今見えている商隊も近付いて来るに従って大きなもので六輪の大型が四台、更に大きな八輪の豪華なヴィークルと更に二十騎以上の馬型で構成され、それぞれのヴィークルには同じエルフの横顔のマーキングがされていることからそれなりに裕福な商会のものだというのがわかる。
高速で移動しているのにきちんと統率の取られているのを見ると十分な訓練が成されている一団だとわかりカイルが感心しているとマリィが大きく手を振りだした。
「なにしてるんだ?」
「勿論挨拶にゃ」
「いや、この状況で手を振ってたら――」
カイルが心配していた通り全体はそのまま移動を続けながら一騎だけ離れて寄ってくる。
「馬上より失礼! なにか困りごとか?」
「いや、すまない。私の連れが物珍しさに大袈裟に挨拶してしまっただけです」
「ははは。確かにこのような時代遅れの乗り物は珍しいだろう。いや、それなら良かった。この辺りは盗賊どもの巣窟ゆえ立ち往生されておれば一大事だからな」
苦笑混じりのカイルに応え立派な体格に合う大きな声で笑いながら言う彼は先の商隊の護衛隊の副長で、罠を警戒しつつも声を掛けてくれたらしい。厳めしい顔つきだが実に快活で感じの良い男だった。
少し会話を交わし、あまり遅れるのも良くないのでと離れ掛けたが何か思い立ったように戻って来る。
「そうだ、そちらのお嬢さんにこれを贈らせてもらってもよろしいか?」
そういって取り出したのは数種類の石を飾り紐で結んだものだった。
「使い古しで申し訳ないのだが、何かあれば身代わりになってくれるという御守りだ。ここで会ったのも何かの縁だ。よろしければ受け取って欲しい」
「いや、しかしそのよう――って、マリィ……」
カイルが断る間もなくマリィがさっさと受け取ってしまう。
「遠慮されるな。仕事柄皆余分に持っておるし、二束三文とは言わないがそれほど高価なものでもない」
相変わらずガハガハと笑いながらそう言う彼に礼を告げると今度こそ商隊を追って離れて行った。
2016年10月22日 誤字修正




