第1話
20XX年、T都。
「はあ、はあ…… オリヒメさん!」
(誰だ、それは)
未だに慣れない違和感を抱きながら、ムギ子は目の前の男を射精させた。今日、三人目の客だ。事が済むと、すぐに手を拭く。特に気を使った演技などは必要ない。どうせ相手は自分の姿を見ていないし、お互いに名前はもちろん、顔も知らない。男がヘッドマウント型のコンピューターを付けているためだ。
ムギ子が勤めているのは、バーチャルセックスのサービスを提供している店だった。ここの仕事は楽だ。ノンバーチャルの店に比べて、体の負担は明らかに少ない。変な客につきまとわれるような危険もない。客はコンピューターのディスプレイで自分の理想のキャラクターを見ており、触るのはほどよい柔らかさを再現した触感再現装置だ。ではムギ子のような接客担当など不要ではないかと思えるが、必要らしい。プライドか寂しさか、面倒なものだ。
(でもまあ、お陰で給料もらえるんだけど)
更衣室で帰り支度を済ませてから、ムギ子は自嘲気味に笑った。
家に帰ると、ムギ子は椅子に腰掛け、ヘッドマウントマウント型のコンピューターを装着した。今日も疲れた。一日、汚いものを見ていたのだ。最後くらい良い気持ちで終えたい。