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もと天使たちの過去話  作者:
月がみる夢
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悪霊退治

 眉をひそめている少年にに男の子が年齢に合わない口調で平然と言った。


「派手な行動は控えろ。あいつに見つかってもいいのか?」


「あいつ?」


 少年の反応に男の子は少し黙った後、納得したように頷いた。


「記憶が戻っていないのか」


 記憶という言葉に今度は少年が黙った。


 この男の子は自分が知らない何かを知っている可能性がある。


 少年は探るように男の子を観察した。雰囲気はそこらへんの大人よりも落ち着いており、むしろ達観した領域にまで上り詰めている。服装は普通に見えるが、よく見ると派手ではないブランド物で統一されており、富裕層の人間であることが分かる。


 不躾なまでに視線を浴びせられている男の子だが、そんな少年の視線を無視して後ろを向いた。そして、何かを避けるように無言で軽く横に飛んだ。


「なっ!?」


 男の子の残像を突き抜けてアイスピックのようになった鋭い指が伸びてくる。

 少年は慌てて床を転がって逃げたが、腕はしつこく追いかけてきた。


「クソ!」


 少年は腰から水晶の小瓶を取り出すと腕に向かって投げつけた。小瓶から聖水が弾けて腕にかかる。すると腕はの苦しそうに動きを止めた。


 その隙に少年は体を起こして銃を構える。だがその先にいたはずの老人は、もはや人の姿をしておらず、タコか植物のようにウネウネと腕だけが床を這っていた。


「くそっ。先に頭を砕いておけば良かった」


 急所が分からなければ狙いを定めることも出来ない。


 少年が銃を構えたまま腕の動きに注意していると、男の子が叫んだ。


「下だ!」


 その声に少年が反射的に前方へ転がるように飛んで避ける。すると少年がいた場所にあった大理石の床を突き破って数十本の腕が隙間なく突き上げてきた。


 少年が地面に気を取られている隙に、後ろから伸びてきた手が少年が懐に持っていた小箱を持ち去る。


「しまった!」


 少年が素早く銃を撃とうとしたが、別の腕で銃を弾かれた。


 小箱を持ち去った腕が、そのまま体の中心に小箱を包みこもうとしたとき、上空から槍が降ってきて腕の動きを止めた。その槍は部屋にあった甲冑が持っていたものであり、その上には男の子が乗っている。


 驚いている少年の前で男の子が槍から降りると腕から小箱を取り上げた。


「これが目的か」


 そこへ今まで少年だけを狙っていたのがウソのように、残りの腕が一斉に男の子に襲いかかってきた。


 男の子は腕を避けながら足元に落ちていた少年の銃を拾うと連続で数発撃ったが、腕の動きは止まらない。


「さて、どうするか」


 冷静に呟く男の子に向かって少年が叫んだ。


「飛べ!」


 少年が聖水の入った水晶の小瓶を部屋の角へ投げつける。そのまま部屋全体が青い光に包まれた。


 その光景に男の子がジャンプをして高い天井からぶら下がっているシャンデリアに足をかける。


 すると少年は手鏡を取り出して腕に向けた。


「光は光へ、闇は闇へ、死者は土へ還れ!」


 言葉に反応したように大理石の床が揺れて腕を囲むように土柱が現れる。そのまま土砂崩れを起こして腕を土の中に飲み込んでいく。

 当然、腕は飲み込まれまいと抵抗をするが、強い力で土の中へと引きずり込まれていった。最後に助けを求めるように上へと伸ばされた腕も、そのまま地下へと沈んだ。

 そして床は何事もなかったように大理石が並び、一粒の砂も落ちていない。


 腕が消失して男の子が平然とシャンデリアから床に飛び降りる。静寂が戻った部屋で少年は男の子を睨んだ。


「おまえ、何者だ?」


「君は自分が何者か知っているのか?」


 質問を質問で返され、少年の眉間にしわがよる。


 いつもなら何を言われようと、それがどんな陰口であろうが気にすることはなかったが、今は違った。


 戦いの後で神経が高ぶっているためか、それとも、ずっと抱えていた疑問をストレートに指摘されたためか、少年は無意識に怒鳴っていた。


「ウルサイ!質問に答えろ!」


 その様子に男の子は瞳を一瞬だけ伏せて、すぐに少年を見た。その男の子の瞳を見て少年の様子が一変する。


「……その……瞳…………」


 少年はどうにか声を出したが全身は勝手に震えていた。全身から汗が噴出して、視界が歪む。膝の力が抜けて、少年は床にしりもちをついた。


「来る……な……」


 思い出したくない記憶が蘇る。


「なんで……あいつと同じ色なんだ?」


 少年が呟きながら座ったままズルズルと後ずさる。そんな少年にアイスブルーの瞳をした男の子が無表情で近づく。


「俺が何者か知りたいんだろ?」


 少年の背中に冷たい壁があたる。逃げ場を失い、硬直したように固まった少年に男の子は噴出すように笑った。


「そんなに怖がるな、情けない。昔の君からは想像できないな」


 男の子は笑い終わると瞳を閉じた。


「これなら、どうだ?」


 そう言って開いた瞳は始めに見た翡翠色に戻っていた。


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