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もと天使たちの過去話  作者:
麗しの黒

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月の目覚め

 眠りから徐々に覚醒している途中で、少年は蘭雪が映った写真を見た時のことを思い出していた。


 あの写真を見て、すぐに彼女の生まれ変わりだと解った。

 実際に会って、それは確信に変わった。記憶がなくても、彼女は彼女だった。そして、今度こそ守りぬくと誓った。今度こそ……


 まどろみの中を漂う少年に酷く不機嫌な声が刺さる。


「おい、そろそろ起きろ」


 その声に促されるように少年がムーンライトブルーの瞳を開けた。直接入ってくる電灯の光に思わず瞳を細める。


 そこに再び不機嫌な声が響いた。


「声は出せるか?」


「……おかげさまで」


 かすれた声とともに、ギシギシと音がしそうな動きで少年が体を起こす。


「痛いところは?」


「全身」


 少年の答えに朱羅の片眉があがる。その様子に少年は少し笑った。


「本当のことなんだから、しょうがないだろ。ここ、どこ?まさか病院?」


 クリーム色の壁に医療機器が並んでいる。部屋の中心にあるベッドに座っている少年と、その隣に立っている朱羅以外に人はいない。


「病院に行けば、速攻で国の実験施設行きだぞ。それとも、そのほうが良かったか?」


 朱羅の顔は無表情なのだが、周囲の空気でかなり怒っていることが分かる。


 自分が悪いという自覚がある少年は素直に頭を下げた。


「すみません。反省しています」


 少年の反省に朱羅は軽くため息を吐いて、手に持っている書類の束に視線を移した。


「ここは、アクディル財閥の医療研究施設ローマ支社だ。肋骨と両足の骨にヒビが入っていたが、その様子なら大丈夫そうだな。ヘブンドラッグも抜けている」


「ヒビぐらいなら、一晩寝れば治るさ。それにしても、原液を注射されるとは思わなかった。マジできつかったぞ」


「どこまで話した?」


「今回の仕事内容だけ。話さないと、今度は大量に注射されるからな。そうなると、この体でも危なかった」


「今でも十分、危なかったぞ。それにしても、ヘブンドラッグとは悪趣味な名前だな。天国は見れたか?」


「嫌味か、そりゃ。神がいる天国はオレたちにとっては地獄だぞ。神は常にオレたちの命を狙っている」


 その言葉に朱羅が軽く笑う。


「その通りだ。さっさと着替えて準備しろ。移動するぞ」


 朱羅の言葉に少年はベッドの端に置いてあった服を手に取りながら訊ねた。


「準備?何処に行くんだ?」


「蘭雪を取り戻しに行く」


 朱羅の言葉に少年が身を乗り出す。


「どういうことだ?!」


「君と引き換えにして蘭雪を夜狼に渡した」


 その言葉に少年が朱羅に掴みかかる。


「なにしてんだよ!オレなんか、ほっとけよ!!あいつらに渡すなんて。今頃どんな目にあってるか……」


「それで、君を見殺しにしろというのか?」


 朱羅の冷静な声に少年が手を離す。


「そうじゃない!」


 悔しそうに首を横に振る少年に、心地よいテノールの声が聞こえた。


「朱羅様は二人とも助けるつもりだったんです。ただ、予想外のことがありまして」


 リルと共にディーンが部屋に入ってくる。


「おまえだって、本当はわかってるんだろ?ただ、感情がついてこない」


 ディーンの言葉に少年は顔を上げて叫んだ。


「わかってる!朱羅が悪いわけじゃない。オレが……」


「なら、とっとと準備しろ」


 その言葉とともに朱羅が持っていた書類の束が一瞬で灰になる。


「蘭雪も俺たちと同じ、死ににくい体だ。そう簡単には死ぬまい。それに、保険もかけておいた」


「保険?」


 少年は呟いてから、再び朱羅に掴みかかった。


「お前、まさか記憶を……」


「全てを思い出すようにはしていない。それにキーワードを言わなければ、思い出すこともない」


「だからって……」


「なら、思い出す前に助ければいいだろ。それとも、思い出されたら、まずいことでもあるのか?」


 朱羅の嫌味を含んだ笑みに、少年はいつもの軽い笑顔で両手をあげた。


「そんなわけあるか。さっさと、お姫様を助けに行かないとな」


 そう言いながら少年は心の中で呟いた。


 たとえ全てを思い出しても、彼女なら受け入れられるだろう。彼女の前世を殺したのがオレであっても。


 テキパキと服を着替えて武器を確認する少年を見ながら、ディーンが呟いた。


「あのお嬢ちゃんのことになると余裕がなくなるんだな。あんなに慌てた姿、初めて見たぞ」


 リルが見守るような笑顔で少年を見る。


「それだけ大切なんですよ」


「修行不足なだけだ」


 リルのフォローも朱羅の一言で一蹴され、沈黙だけが流れた。


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