脱出
突然、現れた穴に落ちていった蘭雪を呆然と眺めているディーンに、朱羅が指示を出す。
「先にあいつを回収しろ!」
その声に反応してディーンは素早く穴を飛び越えると、黒服の男を気絶させて少年を担いだ。同時にコンクリートの壁が開き、黒服の男達が続々と出てくる。
「行くぞ!」
朱羅の掛け声に、リルが閃光弾を投げる。眩しい光とともに煙があたりを包んだ。三人は煙とともに階段を上がり、長い廊下を走っていく。
少年を担いだままディーンがリルに訊ねた。
「敵は六人じゃなかったのかよ?」
「地下までは見えませんって言ったでしょう。右の部屋に一人、隠れています!」
リルの声と同時に右側のドアから男が出てきた。男が銃をかまえるより早く、ディーンが銃を撃つ。
先頭を走るリルと、少年を担いで走るディーンに挟まれる位置にいる朱羅が言った。
「殺すなよ。後処理が面倒だからな」
十代前半とは思えないスピードで息を切らさずに走っている朱羅にディーンが答える。
「わかってる。出口はまだか?」
後ろから聞こえてくる銃声にリルが閃光弾を投げると煙が漂ってきた。そして、何故か呻き声とともに人がバタバタと倒れる音がした。
その様子にディーンは銃を持つ手を見ながら言った。
「そういえば、この煙を吸ってから微妙に手が痺れるんだけど」
ディーンの疑問に朱羅が答える。
「麻酔薬入りだからな。吸えば半日はまともに動けないだろう」
サラッと説明をする朱羅にディーンが怒る。
「味方に害のあるもの使うな!」
そこにリルの声が入る。
「前方から二人来ます」
リルの言葉通り前方の角から出てきた二人組みの足をディーンが撃ち抜く。
「心配するな。食事に少量ずつ薬を混ぜておいた。耐性がついているから、その程度ですんでいる」
「な?いつの間に?」
「リルは気づいていたぞ。微妙に苦味があるからな」
その言葉にディーンがリルを睨む。だが、睨まれた本人は気にすることなく微笑んだまま前だけを見ている。
「気付いていたなら、なんで言わなかったんだよ」
ディーンの拗ねたような声に、リルが苦笑いをする。
「言ったら食べないでしょう?さ、出口ですよ」
リルが場違いな程の丁寧な仕草でドアをあけた。
玄関の前では銃をかまえた男達が隙間なく並び、侵入者が出てくるのを待っている。その構えと統一された動きは軍隊さながらであった。
しかし、その中で門の死角に止まっていた車が無人で動き出したことに気づいた者はいなかった。
三人は手入れが行き届いた庭の隅で高い塀を見上げていた。
「ここだけ、センサーが壊れています。塀を越えても気づかれないでしょう」
リルは軽くジャンプをして右手で塀の上を掴むと、そのまま腕の力だけで塀にあがった。
「どうぞ」
リルが体を屈めて朱羅へ手を伸ばす。だが朱羅はディーンに担がれている少年を指差した。
「先にこいつを連れて行け」
「はい」
リルはディーンに手を伸ばして少年を受け取ると、塀から飛び降りた。
それを確認して、ディーンが朱羅に手を伸ばして声をかける。
「ほれ、行くぞ」
ディーンは朱羅がこの高さを一人で超えるのは無理だと判断して手を貸そうとしたのだが、あっさり却下され、
「一人で行ける」
と、朱羅は自分の二倍以上はある塀を助走なしで軽く飛び越えた。
「いつものことだよな……」
その光景を見て、ディーンが慣れたはずのショックを受けながら塀を登る。その先には遠隔操作で呼ばれた車が静かに主人を待っていた。




