交換
門の前で四人が車から降りると、そこに黒服の男が近づいてきた。
「なんのようだ?」
朱羅は蘭雪を指差して、門の向こう側にいる男に言った。
「そちらが預かってる奴と、こいつを交換したい。と、夜狼に伝えろ」
黒服の男は蘭雪を確認すると慌てて電話をした後、門を開けた。
「入れ」
男がそのまま四人を別荘の中へ案内していく。
白で統一された壁。飾られている装飾品は高価な壷や絵画だが、派手でさはなくセンスの良さがうかがえる。リルは少なくとも六人は見張りがいると言ったが、案内している黒服の男以外に人影や気配はない。
迷路のような長い廊下を案内されるまま歩いていくと、二階へ続く階段の裏側に地下への階段があった。それも見ただけでは普通の壁にしか見えないように細工がされており、明らかに秘密の地下室への入り口といった雰囲気だ。
四人は案内されるまま無言で階段を下りると、全面がコンクリートで囲まれた倉庫のような部屋に着いた。
階段を下りてきた四人の先には十二、三歳ほどの少年が笑顔で立っていた。
「おかえり、姉さん」
嬉しそうに微笑む少年は蘭雪と髪の長さ以外、顔、声、服装、全てが同じだった。これで髪の長さが同じなら、親であろうと二人を間違えるかもしれない。
「まるで一卵性双生児だな」
朱羅の感心したような声にリルが一般論を語る。
「ですが、異性での一卵性双生児はありえません。性別が違う時点で一卵性ではありませんから」
「わかっている」
朱羅とリルの会話をよそに蘭雪が夜狼を睨む。
「彼はどこ?」
明らかに怒っている蘭雪に夜狼が不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?そんなに怒って。あぁ、僕が迎えに行かなかったから怒ってるんだね。ごめんよ。どうしても抜けられない用事があったんだ」
どうでもいいことを話す夜狼に蘭雪は両手を握りしめる。そこに朱羅が小声で注意をした。
「感情を出すな。弱みをみせることと同じことだ」
朱羅の忠告に蘭雪が我に返って無表情になる。
朱羅は夜狼に向かって言った。
「そろそろ、あいつを出してもらおうか」
朱羅の言葉を合図にディーンが無言で蘭雪の頭に銃を突きつける。早く少年を出せと行動で示したのだ。
朱羅の意図を理解した夜狼が呆れたように肩をすくめる。
「焦らなくても出すよ。ほら」
夜狼が視線で合図をするとコンクリートの壁の一部が開き、黒服の男が淡い金髪の少年を担いで出てきた。
少年の全身は痣だらけで、白い肌がますます白くなっている。顔は淡い金髪で隠れているため、どうなっているか見えない。
そんな少年の姿に蘭雪が思わず声を出す。
「な……」
そこに朱羅がすかさず低い声を出して蘭雪の声を隠した。
「随分、遊んでくれたようだな」
朱羅の言葉に、夜狼はにっこりと笑って楽しそうに少年を見た。
「こいつがいけないんだよ。姉さんは僕のものなのに。僕以外とあんなに話しちゃいけないんだ。僕以外と、あんなに笑ったら……いけないんだよ!」
夜狼は怒鳴りながら、銃を取り出して気絶している少年の頭に向けた。一同に緊張が走る中、朱羅だけが淡々と話しを進めていく。
「生きているんだろうな?死体なら、こちらも死体を渡さないといけないからな」
夜狼が再びにっこりと微笑む。
「もちろん生きてるよ。部屋の真ん中で姉さんと交換だ」
朱羅がディーンに視線だけを向ける。ディーンは頷くと、蘭雪に銃を突きつけたまま部屋の中央へと歩きだした。黒服の男も少年を担いだまま部屋の中央へと歩きだす。
蘭雪は静かに少年だけを見ていた。まったく動かない傷だらけの体に、淡い金髪だけが男の歩調に合わせて微かに揺れている。
その姿に蘭雪は少年が生きていることを願いながら歩いた。そこにリルの声が響く。
「止まって下さい!」
少年に意識を集中していたためか、蘭雪はリルの言葉に反応するのが遅れた。気が付くと足元の床が消えており、蘭雪の体のバランスが崩れる。足元にはポッカリと空いた暗い穴。
ディーンが慌てて蘭雪に向かって手を伸ばした。
「掴まれ!」
だが叫び声も虚しく、蘭雪はディーンの手をすり抜けて深い穴に落ちていった。




