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もと天使たちの過去話  作者:
麗しの黒

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真名

 蘭雪は朱羅とともに防弾車仕様の車の後部座席に朱羅と共に乗り込んだ。ディーンが運転をして、助手席に座っているリルが道案内をしている。


「誰が彼を連れて行ったか分かったの?」


 朱羅は蘭雪にプリントアウトされた別荘の写真を渡した。


「たぶん、君の身内が連れ去った。そこに、あいつはいる」


 蘭雪は渡された写真を見て頷いた。


「確かに、ここはおじい様が持っている別荘の一つだけど。でも、これだけで私の身内が彼を連れて行ったってことになるの?他の誰かが使っているのかもしれない」


「夜狼がローマにきた。確か、夜狼は君の弟だろ?」


 朱羅の質問に蘭雪は無言となり瞳が大きくなった。そんな蘭雪に朱羅が説明を続ける。


「目的が何かは知らないが、ウーゴと接触している」


 ウーゴという名前に蘭雪が息を飲みながら言った。


「確かウーゴは最近、父親が死んでイタリアマフィアのナンバー1になった人物と聞いているわ。そのウーゴと夜狼が会っていることを、おじい様が知ったら……」


「他人の心配より自分の心配をしろ。その夜狼が君を連れ去ろうとした確立が高い」


 その言葉に蘭雪が左手で口を押さえる。


「……思い出した。連れ去ろうとした黒服の二人組みは、夜狼の世話役をしていた」


「夜狼は何故、君を連れ去ろうとした?姉弟の仲が悪いのか?」


 蘭雪は首を横に振りながら車の座席に体を埋めた。


「全然わからないわ。昔はお互いのことが、自分のことのようにわかったのに」


「そう思っていただけだろ。姉弟と言っても所詮は他人だ。全てを理解することなど出来ない」


 平然と話す朱羅に蘭雪は視線だけを向けた。


「随分と冷めているのね」


「俺は現実を言っただけだ。ディーン、少しスピードを落とせ」


 人通りの少ない裏路地を車がゆっくりと走る。周りは高い塀に囲まれた高級住宅ばかりだ。


「リル、どうだ?」


 朱羅に声をかけられて、リルは長い前髪を手でかきあげた。普段は隠している左眼で高い塀を真っ直ぐ見る。その瞳の色は右眼の薄い蒼の瞳とは対照的な濃い緋の瞳だ。


「見張りは一、二階、合わせて六人です。ただ地下があるのですが……シェルターになっているようで、ほとんど見えません」


「あいつは地下か?」


「地上にはいませんから、おそらく」


 朱羅は地下に視線をむけると舌打ちをした。


「あまり時間がないな。車を正面に止めろ」


 朱羅の言葉にディーンが前を向いて運転したまま言う。


「は?正気か?下手すりゃ、蜂の巣にされるぞ」


「大丈夫だ。こちらには切り札がある」


 朱羅はそう言って蘭雪を見た。


「私?」


「今、あいつに死んでもらっては困るからな。悪いが人質になってもらう」


 すぐに意味を理解した蘭雪が口元だけで笑う。


「私と交換ってことね。いいわ。彼が助かるなら、私はなんだってする」


 蘭雪の闇のような黒い瞳が、滑らかなアイボリーのような(ヤー)(ホワン)色に変化している。


「……いい瞳だ。だが、君も死んでもらっては困る」


 そう言って蘭雪を見つめる朱羅の翡翠の瞳がアイスブルーへと変わっていく。朱羅がゆっくりと蘭雪の顔に手を近づけた。


「もし死にそうな状況になったら、ガブリエルと呟け。それで世界は変わる」


 蘭雪は朱羅の手に(おお)われて瞳を閉じた。


四大天使(アークエンジェルス)の一人で、マリアにイエス・キリストの受胎告知をした、ユリの花を象徴としている天使の名前を言うだけで?どう世界が変わるっていうの?」


「そのうち分かる。あと、博識だが一つ抜けていることがあるぞ。ガブリエルは水を(つかさど)る」


 そう言うと、朱羅は蘭雪の顔から手を離した。黒い瞳が翡翠の瞳を見つめる。


「博識ですこと」


 蘭雪の嫌味を朱羅がサラリと流す。


「行くぞ」


 朱羅の掛け声で四人は颯爽と車から降りた。



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