探索
救急車や警察が到着したものの騒ぎが残る大通りを四人が歩いていく。
その途中で子どもは正面を向いたまま歩きながら蘭雪に質問をした。
「今の名前はなんだ?」
「今?」
蘭雪が首を傾げる。反対に子どもは翡翠の瞳を丸くして隣を歩く蘭雪を見たが、納得したように前を向いた。
「まだ記憶が戻ってないのか。まあ、いい。名前はなんだ?」
「記憶って何?それに、人の名前を聞くときは自分から名乗るべきでしょ?」
「……そうだな。失礼した」
子どもはそう言うと、再び蘭雪を見た。
「俺は朱羅 アクディル。朱羅と呼んでくれ。記憶については、後で話す」
「アクディル……アメリカのアクディル財閥と同じファミリーネームね。私は柳 蘭雪。蘭雪でいいわ」
「中国マフィアのボスと同じ苗字だな」
お互いの間に沈黙が流れる。
そこに朱羅の後ろで、尾行がいないか注意して歩いている男が声をかけた。
「どこに行くんだ?」
「ホテルに戻る。それよりディーン、もう少し普通に歩け」
「これが仕事なんだから文句言うなよ」
男と朱羅のやりとりを聞いて蘭雪が割り込む。
「彼が連れて行かれた場所に行かないの?」
「情報が少ない。あいつを連れて行ったのは誰か。目的は何か。組織か、個人か。何も知らず行動することは、無駄が多くなるし、身を滅ぼしかねない」
「確かにそうだけど、怪我をしているのよ」
「心配するな。あいつは簡単には死なない。いや、死ねないと言ったほうがいいな」
「どういうこと?」
「それも後で説明する。着いたぞ」
そのまま四人はスペイン広場の階段の途中にあるホテルに入った。
国賓や王侯貴族、政治家が利用する、国際的にも有名な五つ星ホテルだ。普通なら気後れしそうなホテルだが、四人は慣れた様子で最上階のスイートに入っていった。
室内は三十〜四十年代風のインテリアが並ぶモダン的な部屋で、白い壁と細部にあしらわれたシルバーが特徴的な作りをしていた。全面から採光するために付けられた窓からはローマの絶景が一望できる。
そんな贅沢な空間でも蘭雪は感動することなく淡々と朱羅に訊ねた。
「どうやって、彼を探すの?」
「リル、地図を」
「はい」
朱羅は青年が用意した地図を受け取り、ネックレスを外した。髪と同じ銀色をしたチェーンの先に水晶が付いている。地図をテーブルの上に置くと、静かに水晶をかざした。
「ダウジング?もしかして、それで見つけるの?」
集中しているため何も答えない朱羅の代わりに、リルと呼ばれていた青年が綺麗な微笑みとともに答える。
「朱羅様のダウジングは確実です。ご安心下さい」
そこにディーンと呼ばれていた男が大きく相槌をうつ。
「そう、そう。そこいらの発信機なんかより、よっぽど正確で確実だぞ」
すると突然、地図から煙が上がった。朱羅はネックレスを首につけてリルに地図を渡した。
「そこを調べてくれ」
「はい」
リルは地図を受け取ると、完璧な一礼をして書斎に入った。
「俺も調べることがある。少し休んでてくれ」
そう言って朱羅も書斎に入っていく。その後ろ姿を見送った蘭雪はディーンに視線を向けて問いかけた。
「彼、何者?」
蘭雪の質問にディーンが苦笑いをする。
「答えられない。おれも全部は知らないしな」
「そう」
蘭雪は気にする様子なくソファーに座ると、懐から銃を取り出して整備を始めた。
十二、三歳の少女が手馴れた動きで銃を整備している姿にディーンは苦笑いを浮かべながら訊ねた。
「何か必要な物はあるか?」
「……ない」
ディーンは蘭雪の銃を見ると、大股で部屋から出て行き、すぐに戻ってきた。
「ないより、あるほうがいいだろ。お嬢ちゃんが何者かは知らないけど、自分の身は自分で守って欲しい。おれは悪ガキを守らないといけないから」
そう言って蘭雪に銃弾を渡す。
「それが仕事でしょ?私のことは気にしないで。自分の身は自分で守れるから。これは、ありがたく貰っておくわ」
無表情で感情のない言葉だったが、ディーンは呆れたように蘭雪を見た。
「さすが、悪ガキの仲間だ」
その呟きに返事はなかった。




