祖父と孫
その頃、人々の喧騒が響くスペイン広場を特徴的な三人組が歩いていた。
「騒がしいですね。事故でしょうか」
長めのハニーブロンドで左眼を隠した華奢な青年が、髪で隠れていない薄い蒼の右眼でざわついている人々を見る。
「救急車やパトカーのサイレンの音もするしな。嫌な感じだ」
短く逆立った茶髪に琥珀色の瞳をした筋肉質な男が、険しい表情で一点に向かって流れる人々の動きを観察する。
そんな二人の間にいる十歳ぐらいの銀髪の子どもが興味なさそうに周囲を見まわした。
「それより、あいつは何処だ?人をこんなところに呼び出しといて」
そう言いながら子どもは腕を胸の前で組んで翡翠の瞳を鋭くする。
そんな子どもらしくない子どもを見つけて一人の少女が走ってきた。その姿に茶髪の男が少女から子どもを隠すように前に立つ。
息をきらした黒髪の少女が男の前で足を止めて言った。
「力を……貸して」
自己紹介もなく理由も言わず、いきなり初対面の相手に少女は迷いなく助けを求めた。そんな少女を頭から足先まで見た子どもは男を自分の後ろに下げて問いかけた。
「何があった?」
周囲の騒ぎに無関心だった子どもが少女に興味を持ったことに男が軽く驚いた表情をする。
しかし少女はそんなことに気付くことなく息も切れ切れに説明をした。
「車が突っ込んできて……彼が私を庇って……」
「死んだか」
あっさりと断言された言葉に少女は額を押さえて首を横に振った。
「生きてる。その後、変な奴らがきて私が連れて行かれそうになったのを、彼が止めて……」
「君をここに来さしたのか」
子どもは軽くため息を吐くと、少女が走ってきた道を歩き出した。その後ろを青年と男が無言でついて行く。
素早い行動に少女が慌てて追いかけながら子どもに声をかけた。
「どうするの?」
「現場を見て考える」
そう言った子どもの外見は少女より少し年下ぐらいだが、雰囲気がまるで違った。
少女もかなり異質な雰囲気を持っているが、それとは比べものにならない。
他者を寄せ付けない、独特の強い翡翠の瞳。近づく者を切り裂くような銀髪。スペイン広場で見つけた時、子どもの周囲だけ明らかに空気が違った。
野次馬をかき分けて、すぐに現場に戻ったが、そこにいるはずの少年の姿はなかった。黒服を着た男達も迎えにきた車ごと姿を消している。
店に突っ込んだ車を見て、男が関心したように言った。
「これを庇ったのか。よく無事だったな」
その言葉に少女はその場にしゃがみ込んだ。少年は笑っていたが、服の下は痣だらけだっただろう。それだけならいいが、あばら骨が何本か折れていたかもしれない。
そこに一台の車が停車して聞き慣れた暗い声が響いた。
「蘭雪」
反射的に蘭雪が立ち上がって振り返ると、近くに停まった車から黒狼が降りてきた。店に突っ込んだ車を見て呆れたように言った。
「これは、また派手にやったな。まあ、お前が無事なら問題ない」
意味深な黒狼の言葉に蘭雪が眉間にシワをよせる。
「おじい様、何かご存知なのですか?」
「お前を狙っているものがいるという情報があってな。そいつの尻尾を掴むためにお前を自由にさせていたのだが、なかなか大物が釣れたぞ」
「どういうことですか?」
蘭雪の質問に黒狼が暗く笑う。
「来れば分かる。さあ、行くぞ」
黒狼が背中を向けて車に乗ろうとするが蘭雪は動かない。黒狼の命令に逆らったことのない蘭雪がこのような行動をしたのは初めてのことだった。




