表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もと天使たちの過去話  作者:
麗しの黒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/64

世界

 商店が並び活気にあふれる大通りを蘭雪は少年に促されるまま歩いていた。


「行くって、何処へ?」


「次はパンテオンだろ。で、マルチェッロ劇場に、コロッセオ。それからトリニタ・ディモンティ教会とヴェネツィア広場。最後はサンタ・マリア・イン・コスメディン教会で、真実の口を見ないとな」


 それは見事なまでにローマの休日でのデートコースだった。


「海神、トリトーネの顔をした大きな円盤の口に手を入れるの?」


「どうしようかなぁ……入れてもいいけど、オレは嘘つきだから噛まれるだろうな」


 真剣に悩んでいる少年に蘭雪は大人びた笑みを向けて懐に手を伸ばした。


「噛まれたら、手首を切ってあげるわ」


 そう言って蘭雪は懐からサバイバルナイフを取り出すと、ためらうことなく自分の手を握っている少年の手首に刺した。


「うわっ……って痛くない?」


 少年が握っている蘭雪の手を離して自分の手首を見る。刺されたように見えたが手首には傷一つない。


 驚いている少年に蘭雪が種明かしをする。


「フェイクよ」


 蘭雪がサバイバルナイフの刃に触ると、指から血が流れることはなく刃が引っ込んだ。


「なんだ、ビックリした」


 少年が安心したように笑う。その様子に蘭雪もつられて笑った。

 そんな蘭雪の顔を見て少年が少し驚いたように瞳を大きくした後、ふんわりと微笑んだ。全てを見通していて、それでいて全てを守るような大きな力が蘭雪を包む。


 今までと違う少年の雰囲気と表情に蘭雪が思わず胸を押さえながら言った。


「なに?」


「いや、ちゃんと笑えるんだ、と思って」


「笑う?」


 蘭雪が再び無表情をなると、少年もいつもの笑顔に戻った。


「気にしないで。っと、ごめん」


 少年が携帯電話を取り出す。


「あぁ。今、スペイン広場の近く。……わかった」


 少年は携帯電話を収めると蘭雪を見た。


「ごめん、さっきの計画なし。これから人と会うことになった。まったく、タイミング悪いよな」


 やっと少年から離れられるのに蘭雪は素直に喜べなかった。そのことに気づいて困惑している蘭雪をよそに、少年は話しを続ける。


「そいつが、また変な奴なんだ。オレより年下のくせに、態度はデカイし、偉そうで、全然ガキらしくなくて。銀髪に緑色の目でさぁ、一目見ればすぐ分かるよ」


「……地元の人?」


「いや。オレもあいつも、この国の人間じゃない」


「なら、なんでこの国に?観光?」


 その言葉に、少年は今まで見せなかった真剣な表情で蘭雪を見つめた。


「今の生活は好き?」


 その質問に蘭雪は一瞬、言葉に詰まった。

 そんなことは考えたこともなく、言われるまま生きることが当たり前で、好きだとか嫌いだとか個人の感情を入れることはなかった。


 蘭雪は一息吐いて答えた。


「不満はないわ。どうして?」


「一緒に世界を見に行かない?」


「……は?」


「世界は君を歓迎するよ」


「世界が?歓迎?」


 蘭雪が少年の言葉を理解する前に、後方から悲鳴が聞こえてきた。


 人が人形のように宙を舞う。一台の車がスピードを落とすことなく、まっすぐこちらに走ってくる。


「危ない!」


 蘭雪は突進してくる車を避けようとするが、足が思うように動かない。昨夜と同じ状態で、頭では理解しているのに、体がついていかないのだ。


 そんな蘭雪を少年は素早く抱き上げた。


「ごめん」


 その言葉とともに少年が蘭雪の体を放り投げる。

 蘭雪は無重力を感じた後、地面の上を転がった。慌てて顔をあげると、さっきまであった店に車が半分突っ込み、先ほどまでそこにいた少年の姿はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ