見守る少年と護衛の少女
蘭雪を乗せたリムジンが発進する様子を見ながら、少年は右手のサイレンサー付き銃を収めて、口にくわえていたサンドイッチを左手に持った。
「おしいなぁ。弾は見えているのに、体がついていかないなんて」
蘭雪が食事をしていたイタリア料理店の反対側にある建物の屋上。大きな貯水槽がある以外は武装した男達が気絶して転がっている。
少年は口の中にあるサンドイッチを飲み込むとイタリア料理店の前で倒れている武装した男達を見た。
「やっぱり邪魔がはいったし。ま、マイハニーの実力が見られたから良しとしようかな」
そこで周囲に転がっている男の一人が呻き声をあげながら体を少し動かした。そのことに少年はバツが悪そうに苦笑いを浮かべて言った。
「あ、悪い。もう少し寝ていてくれ」
少年は男の頭に踵落としをくらわして、走り去っていくリムジンを見た。
「それにしても、マイハニーはなんであんなに無表情なんだ?もう少し観察してみるか」
少年は残りのサンドイッチを口に詰め込み、足元に置いていたジュースで喉に流し込んだ。
「それにしても、このサンドイッチは美味しいんだけど、チーズとハムの相性がいまいちなんだよな。このハムに合わせるならモッツアレラチーズより……」
などと一人でサンドイッチの評論をしながら少年はその場を離れた。
静まり返ったリムジンの中で黒狼が最初に声を出した。
「なかなか手荒い歓迎だったな」
そう言いながらも顔はどこか楽しそうに笑っている。向き合うように座っているドミニコが苦笑いをした。
「すみません。我々が会うのを良く思っていない連中がいるようで」
「なに、いつものことだ。だが、やられっぱなし、というのは性に合わん。誰がやったのか、確かな証拠と情報が入ったら教えてくれ。こちらの流儀を教えてやらねば。なぁ、蘭雪?」
黒狼が蘭雪を見るが返事はない。
蘭雪は奪い取った銃の安全装置をつけ、懐に収めている。
「それにしても、素晴らしいですね。あれだけの仕事をして息一つ乱さず平然としているなんて」
ドミニコの褒め言葉に黒狼が笑いながら頷く。
「そうだろう?将来が楽しみでな。ゆくゆくはワシの跡を継がすつもりだ」
「あれだけの実力があれば、誰も文句は言わないでしょう」
「言う前に命がなくなるだろうがな」
「そうですね」
そう言って笑いあう大人達の会話を蘭雪は聞くともなく聞いていた。
袖から血の着いたナイフを取り出し、ハンカチで拭く。ナイフに街灯の光が反射して、無表情な自分の顔を映し出した。初めから感情を持っていなかったような、表情を忘れてしまった顔。
もう少し武器を持ってくればよかった、と考えながら蘭雪はナイフを袖の中に収めた。
戦い方は教えられたが、もっと昔から体は戦い方を知っていた。いつも頭で考えるより、体が勝手に動く。まるで、それが当たり前のように。
街灯が少ない海沿いの道をリムジンが走っていく。蘭雪が窓の外を見ると暗闇の中で満月が淡く輝いていた。




