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もと天使たちの過去話  作者:
麗しの黒

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襲撃

 店内から海が一望できる高級イタリア料理店。

 そこで伝統的なイタリア料理を堪能した黒狼はにこやかにドミニコと雑談をしながら個室から出てきた。その隣には当然のように蘭雪がおり、その前後に黒服の男達が周囲を警戒しながら歩いている。だが店を貸切りにしていたため周囲に客の姿はなく、一行はゆっくりと出口に向かっていた。


 和やかに話をしていたドミニコが思い出したように言った。


「そういえば、もう一人のお孫さんは、どうされたのですか?確かイエランという男の子の」


 その質問に黒狼が軽く笑いながら答える。


「あぁ、(イエ)(ラン)は都合が悪くて来られなかったんだ」


「そうですか。それにしても、よく似ていますね」


 ドミニコは数年前に会ったことのある夜狼の姿を思い出した。蘭雪の髪が短ければ夜狼と紹介されても別人とは思わなかっただろう。それほど似ているのだ。


 ドミニコの不思議そうな表情に黒狼が説明をする。


「蘭雪と夜狼は双子なのだ。蘭雪が姉になるが、本当に二人はよく似ていて親でも間違えたほどだ」


「双子ですか。どうりで」


 納得したように頷くドミニコに黒狼が話題を変える。


「ところで例の件だが、首尾はどうだ?」


「おかげさまで順調です。私がトップになるのも時間の問題です」


「そうか。まあ、こんな安い挑発に乗るようでは、どちらにしろ先は長くなかっただろうな」


 そう言って笑う黒狼の隣で、蘭雪は話題にあがった双子の弟のことを思い出した。


 共に生まれてから、ずっと二人は同じ格好をして、性格、行動、思考の全てが同じになるように育てられた。当初は夜狼が跡継ぎであり、蘭雪は夜狼の影武者であったからだ。危険があるような場所には蘭雪が夜狼の代わりに出席していた。

 それが、ある事件が起きてから一変した。黒狼は蘭雪を跡継ぎとして武術と帝王学を学ばせ、また女性としての知識と教養を身につけさせるため、礼儀作法の教育をした。そして、いつのまにか夜狼とは滅多に会えなくなっていた。


 蘭雪は出発する前に会った夜狼のことを思い出した。同じ家に住んでいるはずなのだが、気が付いたら一年ほど顔を見ていなかったのだ。





 今回の出発前、久しぶりに蘭雪を見た夜狼が笑顔で走ってくる。


「姉さん」


 一年ぶりに会った夜狼は髪の長さ以外、蘭雪と瓜二つのままだった。無言の蘭雪に夜狼が首を傾げる。


「姉さん、どうしたの?」


 笑顔で嬉しそうに話しかけてくる夜狼に対して、蘭雪は無表情で黙っている。 夜狼は弟だが久しぶりに会えて嬉しいという感情もないし、話すような話題もないからだ。しかし、その様子を夜狼はどう解釈したのか少し困ったような表情をした。


「姉さん、そんな顔しないで。もうすぐだから。もうすぐ、昔みたいに二人で一緒にいられるようになるよ」


 その言葉に蘭雪は微かに眉をよせた。


「……昔みたいに?」


 やっと聞けた蘭雪の声に夜狼が無邪気に笑う。


「そう、昔みたいに。昔はずっと一緒にいたでしょ?あれが普通なんだ。僕達は二人で一人なんだよ。一人では生きていけない」


 理解できない言葉の数々に蘭雪が困惑する。


「夜狼、それはどういう……」


 質問しようとする蘭雪を夜狼は手で制した。


「待ってて。もうすぐだから」


 そう言って蘭雪と同じ黒曜石の瞳がゆっくりと微笑んだ。





 あの時、夜狼が何を考えていたのか、同じ思考を持つように育てられた蘭雪でも、わからなかった。そして今は遠い異国の地にいるため夜狼に確認することも出来ない。


 蘭雪は店の出入り口が見えてきたため考えることを止めた。店を出るときに襲撃される危険が高いからだ。

 蘭雪は身につけている武器にさりげなく手を近づける。黒狼とドミニコが黒服の男が開けた扉を通り抜け、そのまま目の前に用意されたリムジンに乗り込もうとした。その瞬間、柱や壁の影から武装した数人の男達が飛び出してきた。


 黒服の男達が銃を構える前に銃声が響く。銃弾は黒服の男達に当たり倒れていくが、一番の標的である人物に当たることはなかった。

 一秒前までそこにいた黒狼とドミニコは、防弾仕様のリムジン内に蘭雪によって押し込められていたのだ。


「すぐに片づけてきます」


 そう言うと蘭雪は盾となっている黒服の男達の間をすり抜け、袖に隠していたナイフで一番近くにいる武装した男の首を切り裂いた。噴水のように吹き出る血を浴びることなく、男が持っていた銃を奪う。そのまま、武装した男達の頭を打ち抜いていく。


 その中で、料理店の隣にある建物の屋上の一点が微かに光った。


 ライフル銃を構えた男がスコープ越しに蘭雪を見ている。そのことに気が付いた蘭雪は男に向かって銃を撃ったが、ライフル銃の銃弾が真っ直ぐこちらに飛んでくるのが見えた。


 飛んでくる銃弾を目で見るなど普通ならありえないことなのだが、この時の蘭雪にはそれが出来た。


 まるでスローモーションのように弾道が見えており、頭は冷静に判断して銃弾を回避しようと体を動かすが、体がついてこない。


 蘭雪は銃弾が胸に命中すると覚悟を決めた。そこに右上方向から銃弾が飛んできて、蘭雪の胸の前でライフルの銃弾を地面にめり込ませた。一瞬の出来事に驚きながらも蘭雪が隣の建物の屋上を見ると、ライフル銃を持った男は蘭雪の撃った銃弾が頭に命中して血を流しながら倒れていた。


 蘭雪は銃弾が飛んできた右側にある建物の屋上を見る。だが、そこに人影はなかった。いや、微かに気配を感じるのだが姿が見えないのだ。


「蘭雪様!」


 黒服の男に名前を呼ばれ、蘭雪は優先順位を思い出した。

 謎の狙撃者の追求より黒狼の安全の確保だ。蘭雪は足早に黒狼達のいるリムジンに乗り込んだ。


「お怪我はありませんか?」


 蘭雪の言葉に黒狼が苦笑いをする。


「お前のおかげで無傷だ。出せ」


 黒狼の命令でリムジンは素早くその場を離れた。


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