仕事
蛍光灯の強い光が降り注ぐ窓のない廊下で十四、五歳の少年が壁に背をつけて立っていた。
象牙のような白い肌に肩にかかる淡い金髪。整った顔立ちに、大きなムーンライトブルーの瞳は少女のようにも見えるが、着ている服のデザインで少年だと分かる。
そこにスーツを着た四十代前半ぐらいの茶髪の男性が現れた。一切の乱れなく撫でつけられた髪に黒縁のメガネ、しわのないスーツは堅物の印象を与える。
男性はその外見通りのキッチリとした口調で少年に言った。
「昨日の仕事は見事だった。だが、もう少し時間と場所を選べ。昼間のカフェは目立ちすぎだ」
男性の言葉に少年が少し不機嫌そうに言った。
「なら、もっと早く命令しろよ。オレは命令されてすぐに動いたけど、ターゲットはパソコンを起動していたんだからな。パソコンを奪おうかとも考えたけど、あいつ腹に爆弾を巻きつけていて、パソコンを奪ったらその場で自爆しただろうから、それも出来なかったんだぞ。かといって、あのまま操作を続けさせていたら市内で同時爆破テロが発生していたし。あの場は、ああするしかないと判断した」
「だが、お前ならもっと上手く対応することが出来ただろ」
「買い被るなよ。下準備も何もないあの状況だと、あれが精一杯だ。で、わざわざ小言を言うために呼び出したのか?」
少年の言葉に男性は一枚の写真を懐から取り出した。
「今回のターゲットだ」
そう言われて少年は写真を手に取って見た。
焦点が合っていないため顔立ちははっきりとは分からないが、六十歳ぐらいの初老の男と、十二、三歳ぐらいの少女が写っていた。
「もっと、まともな写真はないのか?撮ったの誰だよ?」
少年の不平に男性がため息を吐く。
「写真はそれしかない。写真を撮った奴は殺された。その写真の少女に」
「ふーん。ようやく撮れた一枚ってわけね。これ一枚のために何人、生贄にした?」
その言葉に男性は咳払いをして写真を指差した。
「そんなことは、どうでもいい。この男が明後日、ドメニコと接触する」
「イタリアマフィアのナンバー2、ドメニコとねぇ。この男って何者?」
「中国マフィアのボスだ」
男性の説明に少年が納得したように頷く。
「あぁ、柳 黒狼ね。そりゃあ写真を撮るだけで殺されるな。で、この女の子は?」
「孫の柳 蘭雪だ。そして、柳 黒狼のボディーガードであり、跡継ぎの第一候補でもある。今回の仕事は蘭雪を無傷で誘拐して本部へ連れてくることだ」
「無傷ねぇ……イタリアと中国のマフィアが会うってだけで、邪魔が入りそうなんだけど?」
「お前なら無傷で誘拐できるだろ」
「まあ、やってみないと分からないけどな」
いつもなら余裕の表情で仕事を受ける少年からは滅多に出ない言葉に男性が怪訝な顔をする。
「歯切れが悪い言い方だな」
男性の言葉に少年が肩をすくめる。
「そりゃ、そうだろ。こんな大物が来ることが分かっているなら、孫娘を誘拐なんて面倒なことをせずに親玉ごと捕まえればいいだろ」
「それが出来れば、こんな苦労はしない。こいつらの後ろには懇意にしている政治家もいる。下手をすれば国際問題に発展しかねない」
「へい、へい。いつもの大人の事情ってやつだろ?オレは正体がバレないように仕事をするさ」
「わかっているなら、とっとと行ってこい」
男性は写真を少年から取り上げてスーツの内ポケットに収めると、無言で長い廊下を歩き出した。その後ろ姿を見ながら少年が呟く。
「相変わらず人使いが荒いな。でも……」
少年のムーンライトブルーの瞳が鋭く輝く。
「やっと、見つけた」
誰にも聞こえない声で呟くと少年は男性とは反対の方向へ歩き出した。




