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もと天使たちの過去話  作者:
月がみる夢
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月の冷笑

 小高い山の上に建つ中世の要塞のような城があった。

 それだけならテレビなどで見たことがある光景なのだが、小高い山の先には近代的なビルや住宅街が見渡せた。周囲もアルファルトで固められた道路やコンビニがあり、どう見ても城がこの場所には不釣合なのだ。


 もともと、ここには何もなかったのだが、城の持ち主が何を思ったのか城を分解して、ヨーロッパの片田舎から城をこの地へ運んで建て直したのだ。


 完成したのは最近であり、近代的な建物と中世の城が同時に見られる場所として、地元ではちょっとした観光地をして知られつつあった。




 そんな城に黒服で身を包んだ少年が夜の闇に紛れて足を踏み入れる。大きい城だが人気は一切なく、吐き出す息の音さえ響きそうになる。

 闇と同化した黒い服とは対象的に、時折窓から入ってくる光に淡い金髪が輝く。


 少年は目的の場所に到着すると、大きなムーンライトブルーの瞳はある一点を見つめた。


 少年が頑丈な石壁の隙間にある小さな小窓を覗く。


 火が灯った暖炉と槍を持った中世の甲冑、そしてテーブルを挟んで商談をしている老人と男達がいた。


「これが商品です」


 イスに座った男が小さな木で出来た小箱をテーブルの上に置く。


 その小箱はいかにも怪しそうな字で書かれた札がこれでもかと貼り付けられていた。


「金だ」


 老人が現金の束をドンとテーブルに置く。


 男は現金の枚数を確認して老人を見た。


「確かに、約束どおりですね」


「では、これは貰うぞ」


 老人が手を伸ばそうとしたところでカチャリと音が響いた。


 イスに座っている男の後ろに立っているボディーガードの一人が老人に銃を向けている。


「少々、アクシデントがありましてね。予想以上に経費がかかりましたので、もう倍、頂きたいのですが?」


 その言葉に、老人は声を出して笑った。


「強欲じゃの。それでは長生きせんぞ。ワシはこれさえ手に入れば用はない。命がおしければ帰れ」


「残念です」


 男の声と同時に銃声が響いて老人が倒れた。銃口から硝煙が上がっている。


「これを欲しがっている人は他にもいるんですよ」


 そう言って男は小箱を手に持った。


「こんなものの、どこにそんな価値があるんでしょうね」


 小箱を不思議そうに見ている男に声がかかった。


「おぬしのような若造には、わかるまい」


 その声に男の表情が固まり、全員が声のした方を見る。


 額に銃弾の穴を開けた老人が血を流すことなく、ゆっくりと立ち上がっていた。


 ボディーガード達が狼狽える中、男がどうにか声を出して命令した。


「ぅ……う……うて、撃て!」


 男の後ろにいたボディーガード達が一斉に老人に向けて銃を撃つ。銃弾は全て老人の体に命中したが、標的は倒れない。


「無駄じゃ」


 その声にボディーガード達の動きが止まる。全身に穴が開いた老人の体からは血が一滴も流れていない。


 その姿にその場にいた全員の顔が青くなる。


「ば……化け物!」


 そう叫ぶと男は小箱を持ったまま走り出した。その後をボディーガード達が追いかけるように逃げていく。


 その光景を見ながら老人が右手を前に出した。


「返してもらうぞ」


 そう言うと老人の腕がまっすぐ伸びた。そして指がアイスピックのように鋭くとがり、男とボディーガード達を串刺しにした。


 一瞬で男とボディーガードの命を奪った老人は腕を元の長さに戻すと、床に落ちた小箱へと歩き出した。


「まったく、近頃の若いもんは約束も守れんのか」


 そう言って小箱の前まで来ると老人は一息ついた。


「やれ、やれ」


 どっこらせ、という掛け声が聞こえてきそうな動きで小箱に手を伸ばす。


 そこに象牙のような白い手が伸びてきて小箱をさらった。


「なっ?」


 老人が慌てて顔を上げると額に銃を突きつけられ、そのまま銃声が響いた。


「クッ……」


 何十発という銃弾を浴びても顔色一つ変えなかった老人が初めて苦痛の表情を見せた。


 そこに若い声が響く。


「銀の銃弾だ。さっきの銃弾より効くだろ」


「貴様……何者だ!?」


 先ほどまでの老人の声とは違う野太い怒鳴り声に、少年は口角だけを上げて笑った。


「これを取ってこいって言われただけだ。名乗るほどの者でもない」


 そう言って少年が老人を挑発するようにポン、ポンと手の中で小箱を放り投げて遊んだ。



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