探し物
その日はいつもと書斎の風景が違った。
いつもなら机で山のように積み上げられた本を読んでいる朱羅が、今日は別の物と格闘していたのだ。机の上に転がっている小さなネジやゼンマイをピンセットで組み立てている。
誕生日が近い妹へのプレゼントを買ったのだが、ある事情により繊細なオルゴールの部品が外れてしまったのだ。
「大変そうだな」
ディーンが上から覗き込もうとして鋭い声がかかる。
「影になる。来るな」
確実に不機嫌な声音にディーンはため息を吐きながら、その場で足を止めた。
「なんか手伝うことあるか?」
「ない。また壊されたら、かなわないからな」
その言葉にディーンはバツが悪そうに言った。
「だから、悪かったって謝ってるだろ。というか、あの状況で丁寧に運べっていうほうがムリだ」
あの状況とは、朱羅がリルに散々着せ替え人形をさせられた後、男達に狙われたため持っていた荷物をリルに預け、リルがディーンに荷物を渡したときのことだ。
半分開き直っているディーンに、朱羅は手を止めず淡々と言葉を並べる。
「そうだな。あの時、あのまま俺が持っていればよかったんだ。SPなんかに頼らず、俺がしっかり持って逃げていればよかったんだ。標的である俺が。ああ、そうだ。預けた俺が悪かったんだな」
一つも悪いと思っていない口調でグサグサと言葉の刃を突き刺され、ディーンがその場に撃沈する。朱羅がとどめの言葉を口にしようとしたところでドアが開いた。
「ディーンをいじめるのも、それぐらいにしてはどうですか?いじめすぎると働かなくなりますよ。ところで直りそうですか?」
修理を再開した朱羅は半分ため息を吐きながら答えた。
「明日までには直る。直したら届けてくれ」
「わかりました」
そう言いながらリルが風呂敷に包まれた一本の棒を差し出した。
「綺羅様より今朝、届きました」
「ああ、届いたか」
朱羅が手を止めて顔を上げる。目の前には右眼の薄い蒼の瞳を包帯で隠し、左眼の濃い緋の瞳で朱羅を見ているリルの姿があった。義眼に慣れるため退院してからは右眼を隠して生活している。
朱羅はリルから棒を受け取ると、風呂敷を解いて中の物を取り出した。
「……日本刀……ですか?」
リルの言葉に撃沈していたディーンが起き上がる。朱羅の両手には白木の鞘に納まった日本刀があった。
「そうだ」
「日本刀にしては少し短いようですが?」
「これは小太刀という種類の日本刀だ。刀と脇差の中間の長さぐらいしかないが、動かしやすく防御にむいている」
そう言って朱羅は鞘から小太刀を引き抜く。光を弾いて銀色に鈍く輝く刀身は、朱羅の髪によく似ている。それは色だけでなく、雰囲気そのものもだ。
「へぇ~綺麗なもんだな」
覗き込んでくるディーンに向けて朱羅が軽く手首を返す。
「げっ!」
ディーンは反射的に半歩下がったが、琥珀の瞳の前で切っ先が踊った。茶色の髪がパラパラと花びらのように落ちていく。
「危ないだろうが!」
怒鳴るディーンを無視して朱羅は平然と小太刀を眺めた。
「いい業物だ。大事にしろよ」
小太刀を鞘に納めてリルに渡す。が、渡されたリルは濃い緋の瞳を丸くして朱羅を見た。
「どういうことですか?」
「義眼で銃を使うと照準が合わせづらいだろ。どうせなら剣のほうがいい。日本刀なら手入れさえ、ちゃんとしていれば銃弾も切れる。義眼と刀、両方使いこなせるようになれ」
リルは無言で刀を鞘から引き抜くと数回、素振りをして最後にディーンの前で止めた。
「おい!?おまえまで、なんだよ?」
両手を挙げてフォールドアップの姿勢をするディーンにリルが笑う。
「試し斬りをさせて下さい」
「するなら悪ガキにしろ!」
その言葉に朱羅がピンセットを持ちながらリルに命令する。
「斬れ」
「わー!悪かった!おれが悪かったから!」
パラパラと零れ落ちていく自分の髪を見てディーンが叫ぶ。
「やめろ!これ以上、切られたらハゲる!」
両手で髪を庇うディーンにリルが容赦なく刀をむける。
「初めてですので、頑張ってよけて下さい」
「おまえが、止めれば済むことだろー!」
そう言って書斎を飛び出すディーンをリルが追う。バタバタとした足音を聞きながら朱羅が頭をかいた。
「こんなことをしている場合じゃないんだがな……ラファエルは今、何処にいるんだ?」
机の上に転がっている小さなネジやゼンマイを前に朱羅はため息を吐いた。




