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もと天使たちの過去話  作者:
翡翠が求めるもの

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義眼

 リルは鏡に映った自分を見て、少しだけ瞳を大きくした。


 薄い蒼の右目に対して、包帯で隠されていた左目は濃い緋の色をしていた。あまりにも対象的な色だが、瞳孔と瞳の形、色、潤いなど、どう見ても自然なものであり義眼には見えない。


 リルが何か言おうとする前にオーブが割り込んだ。


「ちっと検査するぞ」


 強引だがリルは不満を言うことなく素直に鏡を下げて頷く。


「はい」


 オーブはレンズを取り出してペンの形をした機材と一緒にリルの左眼に向けた。


「これを見て……そう。ちょっと視界が変になるけど、動くなよ」


 左眼の前にあるペンが透けて見える。そのままオーブの手も透けていき、背後にある壁まで見えてきた。


「今、何処まで見える?」


「……あなたの背後にある壁が見えます」


 オーブが意地悪そうに口角を上げる。


「そのまま、もっと目をこらせ。見たいと思うんだ」


 言われたとおり目をこらす。


 少しずつ壁が透けるが完全には透けない。自然と全身に力が入り、全神経を左目に集中させる。

 壁の中の鉄材がむき出しとなり、コンクリートが薄くなり、全てが消えた。そして隣にあるビルと青色の空が見えてきた。


「外が……見えました」


「そうだ。よし、力を抜いていいぞ」


 言葉と同時にリルが再びベッドに倒れた。肩で大きく息をして全身から汗が出ている。


「なかなか優秀だ。この調子なら、すぐに使いこなせるぞ」


「そうだろうな。でなければ、こんな機能はつけさせなかった」


 朱羅は普通に見えるだけで良かったのだが、オーブがあれやこれと機能を提案して勝手につけていたのだ。

 終いには、どこぞの漫画のように目からビームを発射させる機能までつけようとしていたのを、朱羅がどうにか阻止した。そして機能については朱羅の厳しい監視の下で、必要最低限の機能をつけて義眼は完成した。


 オーブとしては、もっといろんな機能をつけた超高性能義眼を作成したかったようだが。


 そんな風に完成した義眼だが、オーブはどこか嬉しそうに始めに使用した携帯型の機材を取り出して言った。


「まあ、そう怒るなよ。でも、さっすがオレだよな。こんなに完璧に出来るなんて」


 義眼の出来に満足しているオーブに、ずっと黙っていたアントーン医師が声をかけた。


「小僧が造ったのか?」


「ああ。いい機材が揃っていたからさ、いいのが出来た」


「設計図でもあったのか?」


 オーブが機材のダイヤルを調整しながらアントーン医師の質問に答える。


「そんなもんねーよ」


「じゃあ、どうやって造ったんだ?」


「機材見れば頭に設計図が浮かぶんだよ。ま、オレぐらいの天才になれば当然だな」


「おまえさん、モデルじゃないのか?」


 アントーン医師の思わぬ言葉にオーブは本気で笑った。


「そんなわけねーだろ。これ以上はオレのプライバシーに関わるから聞くなよ。あと義眼も取り出そうとするな。少しでも(いじ)ろうとしたら内部が焦げ付くようにしたからな」


 その言葉にベッドから体を起こしたリルがまっすぐオーブを見つめている。


 その視線の意味を感じとったオーブは慌てて左手を振った。


「あ、焦げ付いても体に害はないから。義眼の中身が焦げ付くだけだ。視神経や顔に影響はないぞ。ちょっと、これ左眼で見られるか?」


 そう言ってオーブが持っていた携帯型の機材をリルの左眼に向ける。


「はい」


 素直に機材を見つめるリルにオーブが説明をする。


「とりあえず右眼と同じ視力にしとく。義眼(こいつ)の機能をどれだけ引き出せるかは、おまえ次第だ」


「はい。わかりました」


 オーブは調節が終わると携帯型の機材を朱羅に投げた。


「使い方は分かるな?」


 朱羅が器用に空中で携帯型の機材をキャッチする。


「ああ」


「じゃあ、あとは任せた。なんか問題があったら連絡してくれ」


 そう言って荷物を素早く片付けるとオーブは肩にカバンを担いだ。


「忙しそうだな」


 朱羅の言葉にオーブが肩をすくめる。


「売れっ子なんでね。しかも誰かさんが、いっつも急に呼び出すからスケジュールの調節が大変なんだよ」


「それは悪かったな」


 その言葉にオーブが大げさに肩を落とした。


「それだけかよ?礼ぐらい言ったらどうだ?」


「ありがとうございます」


 朱羅の代わりのように聞こえてきた言葉に、オーブはリルを見たあと朱羅に視線を戻した。


「いいヤツじゃないか。おまえも、これぐらい素直になれよ」


「考えておく」


 オーブは両手を肩のところまで挙げて、ため息を吐きながら顔を左右に振った。


「はぁ~そう言って考えたことないんだよな。まったく……」


 ブツブツと文句を言っているオーブに低い声がかかる。


「おい、小僧」


 アントーン医師がいつもの豪快な笑みを消して、オーブを上から下までじっくりと見た。


「アクディル財閥(うち)の義肢開発部門にこないか?ちょうど部長の席が空いているんだ」


 その言葉にオーブはムーンライトブルーの瞳を丸くした後、苦笑いを浮かべた。


「素性も分からない、こんなガキを部長にするってか?あんたも物好きだな」


「本気なんだが、どうだ?」


 そんなのは瞳を見れば分かるが、オーブはわざと茶化すように返事をした。


「オレ、気が小さいからそんな重役できねーよ。じゃ、またな」


 軽く手を振るとオーブは颯爽と病室から出て行った。


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