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もと天使たちの過去話  作者:
翡翠が求めるもの

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33/64

手術

 三日三晩、不眠不休の作業で一つの小さな精密機械が完成した。

 最後の一日は無菌室にこもっていたため、どういう作業をしていたのかは朱羅とオーブしか知らない。


 義眼について朱羅がアントーン医師に説明しようとしたが、


「それよりも時間が惜しい。坊主に任したんだから好きにしろ。リル(こいつ)も坊主がしたことなら納得するだろうからな」


 その一言でリルの手術の準備が始まった。


 帽子とマスクで顔を隠し、滅菌されたガウンと手袋をはめた人々が見下ろしている先でリルが眠っている。


 朱羅は医師免許がないため、表向きにはアントーン医師が中心になって手術をおこなったことになっているが、実際は朱羅が中心になって手術をした。

 もちろん違法行為であり、他のスタッフはアントーン医師が信頼をおいている最低限の人間しかいない。もちろん全員に緘口令(かんこうれい)を強いている。


「準備は出来た。坊主の好きにしな」


「わかった」


 朱羅は慣れた手つきで手術器具を持って手術を始めた。その反対側でアントーン医師は黙ってサポートに徹する。少しでも危ない仕草があれば、すぐに交代するつもりだった。

 だが、朱羅は繊細な手つきで鮮やかにリルの脳内にあった銃弾を取り出すと、義眼と眼神経を繋ぐ作業に移った。


『なんだ?この子ども!?』


 それが朱羅に対するスタッフ全員の意見だった。


 アントーン医師は朱羅がアクディル財閥の御曹司であることを伝えていない。誰も朱羅が何者であるのか、それ以前に名前さえも知らないのだ。


 スタッフ全員からの驚異と畏怖の視線を浴びながら、朱羅は黙々と作業をこなしていく。

 子ども特有の小さな手が音楽を奏でているように滑らかにリズムよく動く。そして全ての作業を終えたとき、自然と拍手が沸きあがっていた。


「あとは頼む」


 それだけ言い残すと朱羅は黙って手術室から出て行った。


「どうだ?」


 手術室を出たところでディーンが声をかける。

 だが朱羅は何も答えない。それどころか半分しか開いていない翡翠の瞳が今にも閉じそうだ。


「……眠い」


 そのまま倒れる朱羅をディーンが支える。


「おい!?手術はどうなったんだ?」


 ディーンが朱羅の体を揺さぶるが起きる様子はない。そこに驚きの声が響いた。


「おわっ!?寝てるのか?……おまえ、信頼されてんなぁー」


 帽子とマスクに隠れていても誰か分かる大きなムーンライトの瞳が、感心したようにディーンを見る。


「それより手術は!?」


 ディーンの必死な顔にオーブがいつもの笑みを消した。


「オレは医者じゃないんで詳しいことは分からない。義眼に不具合が生じた時、すぐに対応するために手術室に入っただけだからな。たぶん大丈夫だとは思うが、あとは本人と義眼の相性次第だ」


 そこまで一気に言って、オーブはニッコリと笑った。


「で、悪いんだけど。オレ、もう帰らないといけないんだ。また来るが、なんか問題が発生したら連絡するよう伝えといてくれ」


 勝手に自己完結したオーブにディーンが目を丸くする。


「は?」


「またな!」


「あ、おい、待て……」


 ディーンの声を無視してオーブがあっという間に走り去っていった。


「物静かなヤツだと思っていたが違うみたいだな」


 アントーン医師が走り去ったオーブの後ろ姿を見ながらマスクを外す。


「手術はどうなった?」


 ディーンの質問にアントーン医師が肩をすくめる。


「どうも、なにも、手術は完璧だ。あとは義眼がどう影響するか、だな」


「そうか」


 ディーンは求めていた言葉をようやく聞くと、眠り続ける朱羅を脇に抱えて歩き出した。



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